第10話 秘密のエピソード
とある休日の朝。
私たちは食事を終えた後、自室に戻ってのんびりと雑談を楽しんでいた。
自販機で買ったジュースを一口飲んでのどを潤わせ、ペットボトルをテーブルに置く。
「実は今朝、部活中にお漏らしする夢を見ちゃったんですよ」
「そういう夢を見ると起きた時におねしょしてるっていう話を聞いたことがあるんだけど……」
「だ、大丈夫ですよ! 私も起きた時にハッとなりましたけど、セーフでした!」
「大惨事にならなくてよかったわね」
「はいっ。ところで、友璃奈先輩は何歳ぐらいまでおねしょしてました?」
「どうだったかしら。多分、小学三年生ぐらいだったと思うわ」
私の質問に、友璃奈先輩は自信なさげに答えた。
「蕾は? 中学三年生の三学期だったり?」
「つい最近じゃないですか! 違いますっ、小学六年生の秋ぐらいには卒業してましたよ!」
「ふふっ、冗談よ。お詫びに一つ、あたしの秘密を教えてあげるわ」
「秘密!? 聞きたいですっ!」
目の前にいきなり宝箱が置かれたような状況に、否が応でも心が躍ってしまう。
友璃奈先輩は少し焦らすように飲み物を口に含み、数秒ほどの間を置いてから口を開いた。
「ホラー映画を観た後、怖くて一人でトイレに行けないのよ」
「そ、そうなんですか!?」
意外な弱点を知って動揺しながらも、私は一瞬のうちに解決策を閃いた。
ぺったんこな胸を張って、自信満々にそれを告げる。
「いまは私がいますから、安心してトイレに行けますよっ。なんなら一緒にホラー映画を観ましょう!」
私の提案を聞き、友璃奈先輩は「頼もしいわね」と笑ってくれた。
それはそれとして、朝から決して上品とは言えない話題を振ってしまったことを反省する。
夢中でおしゃべりしながらもジュースはしっかりと飲み進めていたようで、気付けばテーブルの上には空のペットボトルが何本も――って、あれ?
ジュースは一本しか買ってないはず。
頭に疑問符を浮かべつつ視線を戻すと、そこには友璃奈先輩の姿がない。
「ゆ、友璃奈先輩!?」
慌てて立ち上がり、部屋中を探し回る。
突如として襲いかかってきた強烈な尿意に耐えながら、ベッドの下やカーテンの後ろなど隅々まで探す。
けれど、どこにもいない。
何度名前を呼ぼうとも、その後には静寂が訪れるだけだった。
***
「――っ!?」
夢オチ。
激しい運動の直後に匹敵するほど息を荒げながら目を覚ますと同時に、私はすぐさま真実に至った。
念のため隣のベッドを見やると、友璃奈先輩がすやすやと眠っている。
大人っぽい印象の友璃奈先輩だけど、寝顔はむしろ幼く映る。
夢でよかったと改めて安堵しながら、私は再び布団に――ん?
き、気のせいかな、下半身に湿り気を帯びたパジャマが張り付いているような感覚があるんだけど。
「気のせい、だよね」
そうであってほしいと天に祈りながら、恐る恐る布団をめくった。
……うーん。
…………なんともはや。
………………卒業したと、思ってたんだけどなぁ。
「ゆ、友璃奈先輩、このことは、二人だけの秘密にしてほしいです」
あれから少し後、私は羞恥のあまり目に涙を浮かべながら、いつになく小さな声で寝起きの友璃奈先輩にお願いした。
「ふ、二人だけの秘密っ? 分かったわ、この件は墓まで持って行く。たとえ拷問されても話さないから、安心していいわよ」
「うぅ、ありがとうございます」
痴態を晒して情けない姿まで見せてしまった私を、友璃奈先輩は優しく撫でてくれた。
ちなみに後ほど確認したところ、友璃奈先輩はホラー映画が苦手なのは事実だけど、トイレに行けなくなるほどではないらしい。
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