第11話 人生を左右する話
私と友璃奈先輩はいま、それぞれ自分のベッドに腰かけ、神妙な面持ちで向かい合っている。
というのも、部活を終えて寮に戻るや否や「大事な話がある」と言われ、こうして座るよう促されたからだ。
「えっと、大事な話って……」
沈黙が数分続き、思わず声を漏らしてしまう。
すると、友璃奈先輩は大きな深呼吸を二回ほど繰り返した後、ゆっくりと口を開いた。
「単刀直入に言うわ」
「は、はい」
緊張して身が縮こまり、ゴクリと息を呑む。
友璃奈先輩の表情は真剣そのもの。
大事な話とは、いったい――
***
無言のまま時が流れ、緊張感にも体が慣れてきた。
壁掛け時計をチラッと確認したところ、あれから数分ほど経っている。
「……蕾」
「は、はいっ」
唐突に名前を呼ばれ、慌てて返事をする。
友璃奈先輩の瞳は真っすぐに私の瞳を捉え、その視線からは並々ならぬ覚悟を感じられた。
いよいよ大事な話が始まるのだと察し、一字一句聞き逃さないよう、全神経を集中させる。
「しゅっ――んんっ、すっ、好きよ、あ、あたしと付き合って、ほしい」
一文字目で噛んだ友璃奈先輩は、咳払いを挟んだ後、顔を真っ赤にしながらも視線は決して逸らさず、告白としか思えない言葉を言い放った。
そう、告白としか思えない。
誰に?
もしかして、私に?
「え? えぇええぇぇえっっ!? わ、私、もしかして告白されてるんですか!?」
許容範囲を遥かに超えた事実にようやく思考が追い付き、思わず声を荒げてしまう。
これほどまでに驚いたのは、間違いなく生まれて初めてだ。
「そ、そうよ、告白してるのよ。もったいぶった挙句に第一声から嚙んじゃったけど、告白なんていままでしたことないんだから仕方ないじゃない。笑いたければ笑えばいいわ」
「笑うなんて、そんな……で、でも、本気なんですか?」
「冗談に見える?」
見えない。
直前までの様子からしても、冗談だなんて思えるわけがない。
友璃奈先輩が、私のことを……。
「本当の本当に、私なんかでいいんですか?」
「『私なんか』なんて、あんたにしては珍しい言葉ね。他の誰でもない、蕾だから好きになったのよ」
友璃奈先輩の声は力強く、心からの言葉であることを物語っていた。
「私、友璃奈先輩と一緒にいる時が一番安心できるんです」
「え? 嬉しいけど、急にどうしたの?」
私の反応がよほど想定外なものだったらしく、友璃奈先輩の頭に疑問符が浮かぶ。
「えっと、前に心理テストで好きなタイプを答えましたよね?」
「そうね」
「私がなんて答えたか、覚えてませんか?」
「確か、一緒にいて安心す――って、も、もしかして……っ!?」
なにかに気付いた様子の友璃奈先輩に、私はコクリとうなずいた。
「これからは恋人として、末永くよろしくお願いしますっ」
さっきは意図せず回りくどい言い方になってしまった。
今度はこの上なく直接的な言葉で、改めて私の気持ちを伝える。
「その言葉、しっかり覚えておいてよね。蕾が別れたいって言っても、絶対に別れてあげないわよ」
「友璃奈先輩こそ、私が子供っぽいからって捨てないでくださいね」
先ほどまで部屋全体を包んでいた緊張感は、わずかばかりの余韻すら残さず消え去った。
軽口を叩き合う二人の表情には、心の底からの笑顔が浮かんでいる。
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