第4話 悪夢にさよならを
ふと夜中に目が覚め、異変に気付く。
隣のベッドで眠る友璃奈先輩の様子がおかしい。
うなされているらしく、呻き声が聞こえる。
私は自分のベッドを離れ、友璃奈先輩のところへ近寄った。
「……なんで……親友……思って……うぅっ……」
息が荒く、額には脂汗が浮かび、眦からこぼれた涙が頬を伝って枕を濡らす。
起こすのもどうかと思ったけど、このまま放っておくことなんてできるわけがない。
怒られるのを承知で、体をゆすりながら名前を呼ぶ。
すると友璃奈先輩はハッと目を覚まし、私の手を払い除けながら飛び起きる。
「ゆ、友璃奈先輩っ、大丈夫で――」
「うるさい! 放っておいて!」
友璃奈先輩は怒気に満ちた声で一喝した後、再び布団を被り、身を丸めるようにして眠りに就いた。
***
翌朝、大きなあくびをしながら上体を起こすと、先に起床していた友璃奈先輩が、「おはよう」と言いながら私のベッドに腰を下ろす。
「おはようございますっ」
「夜中のことだけど……ごめん、いくらなんでも言い過ぎたわ。心配してくれたのに、悪かったわね」
「いえいえ、元はと言えば睡眠の邪魔をした私が悪いんです。気にしないでください」
「あんたって、本当にお人好しなのね」
「そんなことないですよ。ところで、うなされてたみたいですけど……」
「大したことじゃないわ。中学生の頃、親友だと思ってた友人たちから仲間外れにされた。それがトラウマになって、いまでもたまに悪夢を見る。よくある話よ」
「そ、そうだったんですか……」
友璃奈先輩のつらい過去を知り、いままで感じたことのない痛みが胸を襲う。
本人は大したことじゃないと言っているけど、悲しさや寂しさがひしひしと伝わってくる。
「だから、もう誰とも関わりたくないの。一人なら裏切られる心配もないし、対人関係であれこれ悩む必要もないでしょ?」
友璃奈先輩は自嘲気味に笑い、なにかを堪えるような声音で言葉を続ける。
「というわけだから、もうあたしに話しかけてこないで。ルームメイトと仲よくなりたいなら、部屋替えの申請をした方が手っ取り早いわよ」
「嫌です! これからもどんどん話しかけます! うなされていることに気付いたら、布団に潜り込んで思いっきり抱きしめます!」
直前の言葉をかき消すように、私は声を大にして言い放った。
「なにを言って――というか、なんで抱きしめられなきゃいけないのよ」
「安心できるかなって思ったんです!」
「暑苦しいからやめて」
「じゃあ、子守唄を歌います! おばあちゃんに褒められた歌唱力を披露しますよ!」
「それで安心できるような年齢じゃないんだけど」
「あっ、そうだ! 逆転の発想で、悪夢が気にならないぐらいのホラー画像を」
「見せなくていいから……はぁ、もういいわよ」
友璃奈先輩が額に手を当て、溜息を漏らす。
呆れられてしまったのだろうか。
いま新たに『毎日添い寝作戦』を思い付いたので、できれば聞いてもらいたい。
「私の負けよ。蕾と話してたら、いつまでも過去のことを引きずってる自分が幼稚に思えてきちゃった。すぐに変わることはできないだろうけど、もう馴れ馴れしくするなとは言わないわ」
「やった~! 本人のお許しを得た以上、遠慮しませんからね!」
「えぇ、望むところよ」
友璃奈先輩は柔らかな表情で、そう答えてくれた。
待ち望んでいた言葉を貰えて、寝起きにもかかわらず私のテンションが跳ね上がる。
「授業や部活のことも聞きたいですし、トランプはもちろん、お風呂で洗いっこするのもいいですね! あと、せっかく同じ部屋で暮らしてるんですから、寝落ちするまでおしゃべりしてみたいです!」
「はいはい、適度に付き合ってあげる」
「友璃奈先輩も、やりたいことがあれば遠慮なく言ってくださいね!」
「……蕾、本当にありがとう。いまさらこんなことを言うなんて虫がよすぎると思うけど……これからもよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
満面の笑みで答えつつ握手を求めて手を差し出すと、友璃奈先輩は少し恥ずかしそうにしながらも、しっかりと握ってくれた。
***
登校前、着替え中や食事中はもちろんトイレでも延々とだる絡みした私は、さすがにウザいと注意されてしまった。
怒っている様子ではなかったけど、個室の中まで同伴するのは、いくらなんでもデリカシーがなさすぎたかもしれない。
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