第2話 高校生になった!
入学式を終えて、晴れて私も一人前の高校生になった。
いまは一番小さいサイズの制服でも丈が余ってるけど、高校生活の中で爆発的に急成長するはず。
「友璃奈せんぱ~い! 私、高校生になりました!」
ホームルームを終えてクラスメイトとしばらく話した後、私は全速力で寮に帰った。
もちろん、建物の中や人が多いところでは走っていない。
部屋に戻るや否や、ベッドに腰かけている友璃奈先輩のところへ歩み寄る。
「知ってる」
スマホをいじりながら、友璃奈先輩がつぶやいた。
確かに、高等部の学生寮で生活するということを考えれば、わざわざ言う必要なんてなかったかもしれない。
高校生になった喜びや友璃奈先輩と話したい気持ちが高まりすぎて、つい考えなしに発言してしまった。
「卒業する頃には友璃奈先輩より背も胸も大きくなってるはずなので、見ていてくださいね! その時には、お姫様抱っこさせてください!」
「あんたが卒業する頃には、私はもう卒業してる。それに、お姫様抱っことか絶対に嫌」
「あっ、そうでした。じゃあ、友璃奈先輩のおうちまで会いに行きます!」
「来なくていい。だいたい、ただ同室ってだけで、私と花咲さんは赤の他人なんだから」
「これから仲よくなっていきましょう! 私のことは、ぜひ名前で呼び捨てにしてください!」
「はぁ…………蕾」
「はいっ、友璃奈先輩!」
「ウザい」
「えっ!? ごっ、ごめんなさいっ!」
やってしまった。
入寮した日に反省したばかりだというのに、舞い上がって歯止めが利かなくなっていたらしい。
「……ここまで冷たくあしらわれて素直に謝るなんて、相当な変わり者ね」
「そ、そうですか? えへへ、ありがとうございますっ」
「いや、別に褒めたわけじゃないんだけど。変わり者扱いされて嬉しいの?」
「嬉しいですよ! だって、個性があるってことじゃないですか!」
いまこうして友璃奈先輩と話せるきっかけになったと考えれば、なおさら嬉しい。
「どうでもいいけど、もう少し声を抑えて。ここの壁ってけっこう薄いから、周りの迷惑になるわ」
思わず大声で「分かりました!」と言いそうになり、慌てて手で口を塞ぎつつコクコクとうなずく。
「夜中に激しく盛り上がってる時とか、特に要注意ですね」
私はあごに手を当て、神妙な面持ちで告げた。
「よ、よよ、夜中に、激しく……!? きゅ、急になに言ってるのよっ」
友璃奈先輩はビクッと体を震わせ、顔を真っ赤にして動揺を露にする。
「わ、私、なにか怒らせるようなこと言いました?」
身に覚えはないけど、友璃奈先輩の態度が先ほどの一言で一変したのは紛れもない事実だ。
「さっきも言ったけど、あたしたちは同じ部屋で生活してるとはいえ、赤の他人でしかないの。仲よくなるつもりはないし、間違ってもそういう関係になんてならないわ。未来永劫有り得ないと断言してもいい」
「えーっ、そんな悲しいこと言わないでください。もっと仲よくなって、休日の前には夜更かししてトランプで盛り上がりましょうよ」
「え……あ、さっきのって、トランプの話?」
「はい。ババ抜きで負けた時とか、悔しくてつい大きな声が出ちゃいませんか?」
「そ、そうね、そうよね」
「別のなにかと勘違いしたんですか? トランプ以外で、夜中に激しく盛り上がるようなこと……」
頭を悩ませていると、友璃奈先輩がおもむろに立ち上がり、飲み物を買いに行くと言って足早に部屋を出る。
去り際に見えた横顔は、未だに紅潮したままだった。
***
よく小学生と間違われるけど、私もれっきとした高校生。
数分としないうちに答えへと辿り着き、友璃奈先輩と同じように顔が真っ赤になる。
誤解のおかげでいつもよりたくさん話せたと思えば――いや、普通に恥ずかしい!
友璃奈先輩が戻ったら、きちんと謝ろう。
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