悪役令嬢が貴腐人なので乙女ゲームは成立させません

ひよっと丸

第1話 誰のための?

「腐腐腐腐腐腐腐」


 麗らかな日差しの降り注ぐテラスで、優雅にお茶を飲みながら、オペラグラス片手に不穏な微笑みを浮かべる一人の令嬢が居た。


「いい感じですわ」


 オペラグラスでしっかりと覗き見をしているのは、王族だけに許された学園内の個室。そこにいるのは二人の男性。どちらも見目麗しい。

 向かい合って、談笑しながらランチを食べている。

 給仕係も二人の会話の範疇におらず、二人の世界は出来上がっているように見える。


「素晴らしいですわ」


 先程からお茶だけを飲み、オペラグラスを何度も覗き込んでいる令嬢は、全く食事をしていない。


(あの光景だけでお腹がいっぱいになるわぁ)


 こちらの令嬢、自分が乙女ゲームに転生したことをしっかりと自覚をしているのである。


「お兄様、そんな笑顔で……」


 こちらの世界で実の兄である人物と、同じくこちらの世界で自分の婚約者である王子がなく睦まじくしている様をこっそりと覗き見して、一人悦に浸っているのである。


 はっきり言っておかしい。


 令嬢に有るまじき思想である。

 というより、乙女ゲームの進行として、全くもって間違った方向に進んでいる。

 主人公はどうした?と言いたいところだが、攻略対象の王子に近づきたいが、王族しか使えない個室であるために、主人公は入れないのである。だって、誘ってもらえなかったから。

 誘われたのは婚約者の、兄。

 そう、なぜか、悪役令嬢ポジションにいる婚約者ではなく、その兄。

 何かが間違っているのだが、悪役令嬢は至極ご満悦である。


「腐腐腐腐腐、あなたの思い通りに進めさせたりはしなくてよ。自分だけが主人公だと思っているなんて甘いですわ」


 ニンマリ笑うのは悪役令嬢であるクリスティーナである。

 金髪縦ロールが誰よりも似合う、キングオブ悪役令嬢。

 オペラグラス片手に不気味に微笑むのである。


「自分だけが転生者だと思ったのが運の尽き。この乙女ゲームの、裏ゲームを制したわたくしにかかれば、主人公は入れ替わりますのよ」


 そうしてオペラグラス片手に、またお茶を飲む。


「素敵な眺めですわぁ」


 自分の兄と婚約者が仲良く二人っきりで過ごすのを眺めるのが至福のひとときとは?

 悪役令嬢は、一人満足そうに、笑うのであった。

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