第7話 細マッチョは必須アイテム
さて、そんなわけでまったく剣術が出来ていないことが明るみに出てしまったエドワードは、クリスティーナから思いっきり睨まれた。
なぜなら、クリスティーナの計画において、総攻めをするべきエドワードがヘタレだったからなのだ。足腰が弱すぎたのだ。
今更なのだが、乙女ゲームの攻略対象たる王子が軟弱だなんて!そんなのでは恋に恋する乙女たちが興醒めしてしまうではないか。
いや、BLゲームの攻略対象たちからだって興味を失われてしまうだろう。そもそも、こんなんじゃ総受け王子になってしまって、攻略対象たちから攻略されてしまうでは無いか!
王子が攻略されてどーするのだ?
そんなわけで、王子は走り込みをすることになった。もちろん、サボらないように監視を付けた。護衛騎士のプレストールである。
毎朝走り込みをして、剣術の向上を指南してもらう。これによって、クリスティーナの王子総攻め計画が飛躍的に進むのだ。
体を鍛える王子、目指すは細マッチョだ。この中世ヨーロッパ風の世界において、剣術は重要なアピールポイントだ。魔法なんてない。男らしさをアピールするならとにかく剣術だ。次は馬術だろう。
エドワードには、王子らしく愛馬は白い。王道である。まぁ、実際のところよく走るのは栗毛とおもわれるのだが……
兎にも角にも、クリスティーナの計画通り、エドワード総攻めキャラ化計画は進むのである。
「王子、すごい汗ですね」
走り込みをした後、プレストールは汗だくになるエドワードをマジマジと見つめた。ちょっと走っただけなので、プレストールはうっすらとしか汗をかいていない。
それに対して、エドワードは玉のような汗を吹き出している。だからと言って、見苦しいわけでは無い。美しい顔立ちに玉のような汗が宝石のように美しいのだ。
レモンの入った水をエドワードに差し出すと、エドワードは遠慮なく飲み干す。まだまだ細い首は水を飲み込む度に上下して、更なる汗の噴出を促しているようだ。
プレストールは、エドワードの汗を軽く拭いてやると、練習用の木刀をエドワードに持たせた。
「きゅ、休憩は…」
「今しました」
プレストールはしれっとそう言って、エドワードに素振りをやらせる。走り込んで素振りをして打ち込みをして、足腰の弱いエドワードを一から鍛え直すのだ。
せめて、学園での武道大会で無様なことにならないようにしなくてはならない。
王太子の婚約者であるクリスティーナから、プレストールは直々にお願いされたのである。
このままでは王子の面子がたもてない。
ちょっとだけ相手をして、プレストールもそれをものすごく実感した。幸い、近衛騎士団に王子を悪し様に言うものはいないが、たまたまあの日あの場所にいたのが第一騎士団だけだったのが、幸いだった。ここにうっかり第五騎士団や第六騎士団がいたとしたら、人の口に戸は建てられない、王子の剣術が酷すぎると、下手くそで弱いと揶揄されてしまっていただろう。貴族の子弟だけの第一騎士団だけで本当に良かったのである。
不敬にならないよう、第一騎士団の団員はできるだけ王子との模擬戦を見ないようにしていたし、婚約者であるクリスティーナがいたので、尚更近づこうとしなかった。
本当によく出来た団員たちだ。
クリスティーナも、団員たちを褒めてくれた。もちろん、その裏はこのことを内密にしろ。と言う無言の圧を含ませていることぐらい理解していた。
威厳を保つために、王太子たる王子を鍛えるのは、近衛騎士である自分の役割だろう。
王子のプライドを傷つけないように、上手に指導しなくてはならない。成果が出れば、未来の王太子妃からも信頼を得られる。
貴族としては、出世に繋がるたいせつな仕事だ。
「素晴らしいですわ」
もうそろ切り上げようとした頃、柔らかなクリスティーナの声が聞こえた。いつの間にかにテーブルがセッティングされ、給仕の者たちが作業をしていた。
「汗を流されて、朝食に致しましょう?」
どうやら、学園に遅刻しないように婚約者であるクリスティーナがやってきたようだ。
と、言うのは建前で、あくまでもクリスティーナは好物の取得である。
もちろん、汗を流すイケメン二人がイチャイチャするところとか、二人がシャワーを浴びるのに使い方を知らない王子にプレストールが個室に入り込んでシャワーを出してあげるとか、石鹸を泡立ててあげるとか、とか、とか………
そんなのを見たいだけなのだ、クリスティーナは。
言われて二人が休憩所に入っていく。ちょっとふらつくエドワードを、プレストールが支えるのがまた良い。さすがにこんな所でオペラグラスをだすわけにはいかないので、クリスティーナは二人が連れ添ってシャワー室に入るところを見られただけで良しとした。
何しろ、ふらつくエドワードの、腰をプレストールの手が支えたのだから!
(本当は逆、逆なのよ。でも、これからよ、これから。鍛えた王子が徐々にたくましくなって………)
クリスティーナの妄想は今日も朝からばく進していた。
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