第12話 見目麗しきが良きかな

ランチの席には、エドワードとアティカス、フランチェスコの三人がついた。

 相変わらずクリスティーナは、婚約者であるにも関わらず同席しない。なにしろ、本日から一人増えて三人で、そう、エドワードを挟んで二人が……


「いい眺めです事」


 クリスティーナは、いつもの通りにオペラグラスを片手に優雅にお茶を嗜む。

 留学から帰ってきたフランチェスコは、アティカスに比べて日焼けした肌が健康そうだ。あちらの気候のせいだろうか、以前より精悍な感じがして、そそられる。エドワードと並んだ時、身長ではそうでも無いが、身体の厚みを、比較するとなかなかよろしい。


 まだ、鍛え直しが完成していないエドワードと比べると、その腰が強そうだ。もちろん、騎士に比べれば薄く細いかもしれないけれど、アティカスよりは丈夫に見える。


 先程のシャルロットに対する態度からも分かるが、なかなか冷淡な様子がいい。そんなフランチェスコがエドワードに、組み敷かれたら、なんて想像したら鼻血が出そうなのでクリスティーナは淑女として控えるのだ。


 夜まで待とう。


 人目に付くところで、そんなこんなを想像してはいけない。




 で、特別室の三人は大変仲睦まじく談笑しながらランチを食べていた。

 美形が三人も密室に揃うなんて、なんとも素晴らしいではないか。


 だが、そこに入れて貰えなかったシャルロットは、悔しさのあまり半泣きだった。新しい攻略対象が現れたというのに、まったく相手にされなかったのである。


 シャルロットは主人公であるのになぜなのか?納得できないのである。

 シャルロットはあくまでも、自分が乙女ゲームの主人公と信じて疑わない。だからこそ、天真爛漫なキャラで攻略対象者立ちに近づくのだ。

 裏ゲームをクリスティーナが始動しているとも知らずに。


「フランチェスコが帰ってきたということは、隠しキャラの隣国の王子エドアルドが出てくるわよね」


 シャルロットは乙女ゲームの、攻略キャラを考えるので忙しい。

 隣国は夏の国設定で、アラビアンチックな感じになっている。日に焼けた鳶色の肌に、金髪緑眼のお約束な姿をした王子が、国の衣装を身につけていると肌の露出が激しくて、割れた腹筋とかが兎に角セクシーなのだ。


 日本人にとって、正統派王子のエドワードも捨てがたいが、エキゾチックなアラビアン王子のエドアルドもかなりいい。とシャルロットは思っていた。

 あくまでも、自分が乙女ゲームの主人公と信じて疑わないから。


「フランチェスコの高感度がものすごく低いから、上げなくちゃ」


 あくまでも乙女ゲーム攻略のため、シャルロットは攻略に意欲を燃やすのであった。




「フランチェスコ様が帰国なされて、エドワード様のご学友も安泰ですわね、お兄様」


 帰宅する馬車の中、クリスティーナはアティカスに問う。

「そうだな、フランチェスコから隣国の、教育や政治についての知識を得られる。何より、お前を憂いさせる要因……」


 そこまで言って、アティカスは言い淀む。

 そんなことを口にしては、可愛い妹がまた悲しい顔をしてしまうのではないか。自分だけの力でどうにもできない不甲斐ない兄となってしまうのではないか。そんなことを考えてしまう。


「フランチェスコ様は、なかなか冷淡でいらっしゃるようですわね」


 実は影でこっそり見ていたクリスティーナは、捨て猫のように扱われたシャルロットをしっかりと見ていた。


 フランチェスコのシャルロットに対する態度がどうしようもなく高感度が低すぎる。それはもう、救いようがないぐらいに低い。もはやマイナスなのではないか?

 そうなると、乙女ゲームでは、隠しキャラであるエドアルドが出てこないのだが、裏ゲームが始動しているので、それは問題ない。


 シャルロットに対して高感度が低いということは、フランチェスコの、エドワードに対する高感度が高いということだ。

 もちろん、目の前にいる兄であるアティカスのエドワードに対する好感度も高いはずだ。だからこそ、シャルロットに対して冷たいのだ。


「済まないクリスティーナ、私もフランチェスコのように気丈に振る舞えれば」


 アティカスからの謝罪を聞いてしまって、クリスティーナは内心ほくそ笑む。もちろん、馬車の中で兄と二人であったとしても、口元をしっかりと扇で隠してはいる。


「いいえお兄様。お優しいお兄様が誰よりも心を痛めている事をわたくしは理解しております」


 クリスティーナがそういえば、アティカスは微笑んでくれる。

 問題はあくまでもエドワードだ。


(ヘタレ王子を何とかしなくちゃだわ)


 なかなかエドワードが俺様王子様にならないので、クリスティーナは若干焦っていた。

 なにしろ、これから登場するエドアルドは、南国の雰囲気をめちゃくちゃ出してきて、若干チャラいのだ。


 受け受けしいままのエドワードでは、太刀打ちできない。下手をすると、エドワードがエドアルドに嫁に貰われてしまう。


 まぁ、それでも美味しいのだけれど。


 そうなってしまうと、エドワードの立ち位置が微妙になる。総攻めではなく、リバが入ってしまう。


 クリスティーナの趣味ではない。

 それは避けたい。


「エドワード様にはもう少ししっかりとして頂きたいですわね、お兄様」


 クリスティーナはにっこりと微笑んでそう言った。

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