第28話 ストナーサンシャインぐらい
午前十時 両国駅
「早くない?ランチでしょ?」
「…休日にデートしたい彼女の気持ちもわからないのかねぇ、あんたは」
「…ごめん」
「はい、じゃあ行くよ!」
「…どこに?」
「ん?池袋」
「予想を超えてきた」
「あんたみたいなもんにはしんどい場所かもしれないけど私が行きたい所があるし、慣れなさい」
「はい……」
「あ…、よし」
貴俊は頭を叩かれた。
御茶ノ水から丸ノ内線で池袋に着いた二人。
「どこに行きたいの?」
貴俊は電車内でもずっと疑問だった。
「ん?サンシャイン」
「ストナー?」
「ゲッターじゃねぇわ!」
「やっぱ知ってるんだ」
「…ストナーサンシャインなんて知らないけど?」
「知ってる否定の仕方だよ、綾は世代だもんね」
「………違うけど?」
綾は静かに貴俊の前髪を掴み持ち上げた。
「はい、知ってます。違います!」
「私を何歳だと思ってんだ?」
「さんじゅ…」
「あぁ!?」
「二十八歳」
「よろしい」
綾は手を離した、本当は三十一歳。
二人は五歳差なので貴俊は二十六歳。
周りの視線を集めながら目的地に向かう二人。
「さっき写真撮られてなかった?」
「何で?」
「………綾が美人だから」
「まぁ、それもそうね」
「いや、髪の毛掴まれてたからだけど……」
「あんまり目立つことしないように」
「そのまま返すよ、ネットに写真上がって誰かにバレたらどうするの?」
「…しまった、考えてなかった」
「何それ、やっぱり可愛い」
「…あんまり目立つことしないように」
そう言いながら貴俊にボディーブローした。
「…かはっ!」
貴俊は大袈裟にならない程度に腹を押さえた。
その光景を隠れるように見ている人物が一人。
「…速水さんと野田さん、何でもここに?どうしよう、声をかけるべきか」
さっきの光景を見ては更に迷っていた。
「私が用事ある乙女ロードは二人の先なんだよなぁ。でも素通りするわけにはいかないよなぁ、チームメイトなんだし」
見ていたのはさとこだった。
「でもさすがに髪の毛掴まれてるところを見てから声をかけるのもなぁ…」
さとこは先程の光景がやはり衝撃的だった。
仕事中よりプライベートの方がヤバいじゃん、そう思ったさとこは普段貴俊が職場で何故耐えているかの答えを知れた気がした。
「いや!やっぱり声をかけておこう!」
さとこはふーっと大きく息を吐き、二人に近付いた。
「お疲れ様です!」
「…さっちゃん!お疲れ、どうしたの?」
「お疲れ様です」
声をかけると二人とも返してきた。
「私はこの先のお店に買い物で。お二人を見かけたので」
「そうなんだ、どこ行くの?」
「ちょっとそこのおと…、巣鴨プリズン跡に」
「いや、おとまで言ったら隠さなくて大丈夫ですし、巣鴨プリズン跡に買い物に行く同僚は少し怖いですよ、異世界に行くんですか?」
「……はいはい、そうですよ!アニメイトカフェです!!悪いですか!?」
「い、いえ、悪いとは言ってな…」
「異世界に行くんですか?とか、はぁ!?」
さとこは眉間にシワを寄せて両腕を腰に当てている。
「スイッチを押してしまったようでごめんなさい」
「………はっ!こ、こちらこそごめんなさい!!なんか、あの、その」
「大丈夫よ、さっちゃん。こいつが悪いから」
「…フォローしてよ」
「したじゃん」
「…え?もしかして今のが?」
「そうだけど?…はぁ!?」
「真似しなくていいよ…」
「お二人はどちらに?」
「秘密にされてこれから連れ込まれるところです」
「この先にあるのは…、あ!そういうことですね。今の時間はフリータイムですもんね」
「………えっ?あっ!そういうこと!?ランチって言ってたじゃん!」
「違う!!水族館!!」
「……ごめんなさい」
さとこの後に貴俊が続く
「ごめんなさい」
貴俊とさとこは綾の計画を潰したようで申し訳なく謝った。
「あんたが望むなら私はそっちの方がいいんだけど?」
「それは結婚してから」
「さっちゃん、今の聞いた?こいつ、結婚してからって言ってんの!」
「それだったら相性合わなかったら捨てちゃえば良いんじゃないですか?慰謝料貰えるし」
さとこの言葉に綾は少し引く。
「…う、うん」
「綾、…ね?」
「うん、わかるわ。うん」
「…?何がですか?」
「い!いえ!なんか濱口さんの彼氏さんとは仲良くなれそうだなって、ハハ」
上手くない笑い方をしながら貴俊はその場を取り繕う。
「そうですか?…うーん」
さとこは考えている。
首都高の下に着いた所で三人は別れる事にした。
「じゃあ、私はこっちなんで」
「うん、それじゃもしかしたら今夜闘うかもしれないけど、そうなったらよろしくね!」
「お手柔らかにお願いします」
「いや!こっちのセリフです!お手柔らかに」
さとこは二人に手を振ってから背を向け歩いて行った。
「で?どうする?」
綾が貴俊にあやふやな聞き方をする。
「ん?ランチ?」
「フリータイム、ここに来る前にあったわよね?」
「水族館行くんでしょ?」
「ふん!」
そのタイミングで信号が青になり、綾はスタスタ歩いて行った。
サンシャインの中には色々な施設があり、貴俊はランランとした目で四方八方見ていた。
「はいはい、水族館行ってから行こうね」
「うん!ここ一日中いられるね!」
どうやら楽しんでいるようだ、綾はニヤニヤした。
水族館に入ると様々な魚やイカやクラゲを見たあとにカエルやカメ等を見て、屋上に上がった。
「あんた!カワウソめっちゃ可愛い!めっちゃ可愛いよ!!」
「うん、何かを求めてる鳴き方してるね」
「あ!ペンギン!ペンギンだよ!」
「あ!あっち、ペリカンいるじゃん!」
二人はカワウソやペンギン等を見てニコニコしながら水族館を出た。
「あー、可愛かったぁ」
「綾のはしゃいでる姿、可愛かった」
「はぁ!?はしゃいでないし!」
「はしゃいでたよ」
「………」
「痛い!」
貴俊は何故か頭を叩かれた。
「で?あんたはどこ行きたい?」
「ランチ食べようよ、お腹空いた」
「何食べる?」
「和食の店、さっき施設案内で見つけてた」
「え?シーフードじゃなくていいの?」
「水族館行ったあとのシーフードはちょっと…」
元々の目的であるランチを食べるために店に入った。
「今日は楽しかったよ」
「ちょい待ち、何を食べたら帰ろうとしてるんだ?」
「え?だって今日……」
「あのさ、イベントは夜九時からなんだけど?」
「うん、だからそれまでにやることやらなきゃ」
「昨日やったんじゃないの?」
「寝たよ」
「は?何で寝てんの?」
「……やっぱりやってたんだね、あの後も」
「え?それって当たり前じゃないの?私が責められるの?」
「せ、責めてないよ。寝たのは僕の勝手だし」
「だよね、じゃあ今日はちゃんとしたデートするわよね?今までしてないんだから」
「もしかして術中に嵌まってる…?」
「付き合ってるんだからデートしたいのは当たり前じゃないの……」
綾は淋しそうに下を向いた。
「う、うん!そうだね!そういうのまだしてなかったんね!」
「じゃあ土下座して?」
「意味がわからない」
「術中に嵌まってるとか侮辱的な発言されたから。土下座されないと私達、先に進めない。未来が見えない」
「前も言ったけどそこまでではないと自負してるから絶対にしない」
二人は食事をしながらくだらないことばかりを話していた。
その間、貴俊はずっと綾に足を踏まれていた。
「そろそろ行こっか」
「とうとう最後まで言わなかった…。あんた、ちょっとヤバいよ」
「言った方がヤバくなるって事はもう知ってる」
「…たまには叱られたいな」
「何百倍にもなって返ってくるって知ってる」
「つまんねぇ男だな」
「でも綾は僕の事が好きだから」
「腹立つなぁ、あんたは?」
「愛してる」
「どのぐらい?」
「ストナーサンシャインぐらい」
「…わかんねぇよ」
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