第2話 結成

貴俊の自宅


仕事から帰ってきた貴俊は部屋着であるスウェットに着替えるとすぐにパソコンの前に座り、モニターの電源をオンにする。


ゲームを起動すると出てくるお知らせを読むとそれは次のイベントの告知だった。



「……次はチーム戦か。ぼっちプレイヤーの俺には関係無いかな」


ゲーム内ではギルド、いわゆるチームのようなものが組めるが貴俊はギルドを作っただけで他にメンバーはいなかった。

その方が自由に出来るからという理由でそうしているが、次回のイベントのような時には参加してもつまらないのでそこは少し後悔していた。


「まぁ、また個人戦トーナメントの優勝の為に新しい攻め方を研究しますか…」

そう呟いた後に冷蔵庫からチョコを取り出し、またパソコンの前に座った。




綾の自宅


仕事から帰り、部屋着に着替えると買ってきたサラダと炭酸水をエコバッグから取り出し食事を始めた。


「野間の好きな人が誰なのか予想の立てようが無かったな…。なんで私も色々と聞かなかったんだろう」

社内での貴俊との会話の至らない点を反省しながら食事を進める。


「顔は良いって褒めたのになんか期待するような反応じゃなかったし。戸惑ったりしなかったって事は私の事を何とも思ってないって事よね、やっぱり…」

貴俊の顔を褒めたのは綾なりの作戦だった。


それに少しでも戸惑うような仕草や慌てたりしたら、少なからず自分を意識するだろうと思っていた。

しかし貴俊はそういった素振りは見せなかった。


「暖簾に腕押し、糠に釘。はぁ……、せめて連絡先知ってたらなぁ。……やっぱり何かにかこつけて聞こうかしら」

綾は少し悪い顔をしていた。




ゲーム内


オニオンは荒野でモンスター相手に戦っていた。

しかしその相手はまさかのドラゴンだった。


「…まずい!滅多に会えないレアモンスターだからって挑むべきじゃなかった!!」

オニオンはその前々から何回もモンスター相手に戦闘をしていたため、もうスキルを放つ為のマジックポイントも無く、更に回復アイテムを持ち物に入れ忘れていた。

「負けるとさっきから今までの分が無かった事になって、ギルド拠点に戻されるんだっけ?……それは嫌だな」

しかしもう打つ手は無かった。



その時、ドラゴンの背後から攻撃を仕掛ける者がいた。

「…ん?誰かが助けてくれてる!」

確認するとそれはフージンだった。


「…げっ、何でここに?ありがたいけどなんかカッコ悪い所見られた感じで複雑…」




少し前


「…次はチーム戦か。でも私は一人だしなぁ、どうしよう?報酬は欲しいんだけど…」

ゲーム内のお知らせを読んだ綾は次回イベントの事で悩んでいた。


「数人の都合に合わせるのは好きじゃないのよね、そんなの仕事だけで充分。………でも報酬は欲しいのよね」


悩みながらもイベントまでに何か考えようとフィールドに出て、モンスター討伐をする事にした。



しばらくモンスターと戦っていると荒野エリアから数人のプレイヤーが移動してきた。

「…ん?何かあったのかしら?」


フージンは不思議に思いながら荒野へエリア移動する。

視点を回すと離れたところにモンスターがいた。


「…あぁ、ドラゴンが現れたのね。今なら倒せそうだし、レアアイテム欲しいから倒しましょう」

フージンがドラコンに近付こうとすると、一人で戦ってる者がいることを確認する。


良く見るとそれはオニオンだった。


「あっ!こいつ!…先に倒されたら差がついちゃうわね。早く私もダメージ与えて戦闘に参加したことにしないと」


フージンはドラゴンの背後からダッシュ攻撃を仕掛けた。

するとドラゴンの攻撃対象が自分に変わった。


ドラゴンから離れた所に移動し通常攻撃を繰り返すオニオン、その姿にフージンはイラッとする。



「はぁ?何なの?こいつ。……あれ?まさかピンチだったの?」

フージンはドラゴンの横に回り込みノックバック技を繰り出し、ドラゴンから離したオニオンに回復アイテムを使った。




「助かった!!…なんか複雑だけど全力で戦わないと」

オニオンは回復アイテムを使ってくれたフージンにカッコ悪い所は見せられないと出し惜しみ無しでスキルを繰り出した。


全力のオニオンとフージンにかかれば、強敵であるレアモンスタードラゴンもいとも簡単に討伐されてしまった。



「えーっと、チャットチャット、と」

チャット申請をフージンに送った貴俊。



「…ん?オニオンからチャット?」

綾は申請を許可し、とりあえず

「こんばんわ」

と挨拶した。



「フージンさんこんばんわ、助かりました。ありがとうございました」

オニオンはお辞儀した。


「いえいえ、ピンチだったんですか?」

「お恥ずかしながらアイテムを持たずに戦ってしまいまして、死ぬところでした」

「それは大ピンチでしたね…」

フージンの頭の上に汗マークが連続表示された。


「はい…、ギルドに戻されて今日やった分が無駄になるところでした。お礼をしたいのですが今回のこちらの分の獲得素材を受け取ってくれませんか?」

「え?いいんですか?」

「はい、ぜひ」




「素材を全部くれるなんて…、オニオンっていい奴かも。……あっ!」

綾は何かを思い付いた。



「ちょっと待ってください」

「え?はい…」

「素材はいいので次回のチーム戦イベントに一緒に出てくれませんか?」

「イベントにですか?」


「はい、私は一人なので諦めてたんですけど、どうしてもイベントの報酬が欲しいんですよ」

「装備品でしたっけ?」

「はい、その装備品を身につけて得られるスキルが欲しいんです」

「大丈夫ですよ、こちらも一人なので」

「良かった!じゃあよろしくお願いします」

今度はフージンがお辞儀した。


「フージンさん、ギルド持ってますか?」

「持ってないです、オニオンさんは?」

「僕は持ってますよ、一人なのに笑」

「笑笑、じゃあイベント終了までオニオンさんのギルド所属になっていいですか?」

「フージンさんが良いなら大歓迎です」

「じゃあその辺も含めてよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


チャットを終わらせた二人。



「まさかの展開だな、あのフージンとチーム戦に出るなんて……。ってかこれ最強じゃないか?個人戦の一位二位が組むんだぞ?」

貴俊は何となく気持ちが高まっていた。



「ふっふっふ、オニオンと組めば確実に優勝出来るでしょ。…しかしアイテムを持ち忘れたって結構抜けてる奴なのかしら?まぁイベント前に二人で準備すれば大丈夫かしらね」

綾は炭酸水を飲み干して寝る準備をした。

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