第20話 おい!こら!!
綾の自宅
「はい、ベッドに私を寝かせて」
「いや、ここで降りようよ」
貴俊は玄関で降ろしたかった。
「ふーん、酔ってる彼女を見捨てるんだ」
「…ベッドまで行けばいいのね」
「初めからそうしなさい!」
「酔ってないのに……」
「何か言った!?」
「何にも」
貴俊はベッドに綾を寝かせようとするが、おんぶしている状態からどう寝かせればいいかわからなかった。
「……ん?どうすれば?」
「ん?何?」
「とりあえず……」
貴俊は立ったままベッドに対して後ろを向き、重心を後ろにしてから手を離した。
「…え?おい!こら!!」
綾は足がベッドに当たり、腕が貴俊の首を締める形で二人ともそのままベッドに倒れ込んだ。
「ぐぇ!!」
「………」
「あ、綾!」
貴俊は必死に綾の腕をタップしているが綾は力を緩めなかった。
「………」
「あ、や……」
貴俊はそれ以上何も言わなくなった。
「よし、気絶したわね?」
綾は貴俊の体をベッドに移動しようとするも
「…ん!くっ!………ちっ、無理か」
綾の力では貴俊の体は動かなかった。
「力入れてるしね」
貴俊は気絶していなかった。
「何となくわかってたわ…」
「タップしたよね?」
貴俊は苦しそうな表情をしている。
「その前に今のやり方は何なのかしら?」
「…ん?」
「手を離して捨てようとしたわよね?」
「…してない」
「いいや!したね!!」
「厳密に言うとどうしたらいいかわからなかった」
「聞けよ!!」
「どうしたらいい?」
「遅ぇよ!!」
「ごめん、経験浅くて…」
「は?浅い?」
「……無くて」
貴俊は下を向いた。
「………はぁ、まぁいいわ。じゃあお風呂行ってくるから!後で入ってくるのよ?」
「…ん?帰っていいよじゃなくて?」
「何を帰ろうとしてるんだ?」
「いや、あの…」
「わかってるわよ!要はログイン出来れば良いんでしょ!?」
「出来ればデイリーミッションも……」
「だから!それも何とかなる!」
「ん?どういうこと?」
「そこのクローゼット開けなさい」
「……?」
貴俊は不思議に思いながらも言われた通りクローゼットを開ける。
すると中にはノートパソコンがあった。
「…え?これって?」
「私がちょっと前まで使ってたゲーミングノーパソよ」
「これ持ってるのに買い換えたの?結構良いやつだよ?」
「………そうよ」
「何で?」
「一人どうしてもぶん殴りたい奴がいてね、スペック高いパソコンに変えたのよ。どうしてもぶん殴りたくて、どうしてもぶん殴りたくて!!」
綾は相当気持ちを込めて話した。
「………差し支えなければその人の名前は」
「オニオンって奴!!」
「その人、もしかしたら知ってるかも………」
「あんたの事だよ!!」
「綾はそこまで僕に夢中だったんだね」
「……あぁ、殴りたーい!!」
握り拳を作った。
「…落ち着こう?お風呂行くんでしょ?リラックスリラックス」
「とにかくあんたはそれでログインすればいいのよ!引き継ぎのIDとパスワードはメモしてるか画像で持ってるでしょ?」
「…うん、ある」
「じゃあそれを充電してる間、一緒にお風呂入りましょ。何もしないから」
綾は見せたことの無い笑顔を見せた。
「…する顔だよ?」
「体、洗いっこしよ?」
「…始まっちゃうよ?」
「こっちは始まってほしいからね!でもあんたの訳のわからない要望を聞き入れるわよ!お風呂ぐらいいいでしょ!?」
「……うん、じゃあ一緒にお風呂行こう」
「よし!じゃあまずはお風呂洗ってきて」
貴俊は何を言われたのかよく理解出来なかった。
「…ん?」
「お風呂洗ってからお湯張って来て」
「あっ、やること増えたね」
「上司命令」
「業務とは関係無いことはやり…」
「あぁ!?言われたことはさっさとやる!!」
「………」
貴俊は何も言わずに下を向いた。
「……ごめん、言い過ぎた」
そんな貴俊の様子に綾は焦る。
「………」
まだ何も言わない。
「怒った?」
「………怒った、何で上司命令とか言うの?」
「ごめん……」
「綾の中では僕はまだ恋人じゃなくて部下なんだね」
「ううん、違う!本当にごめん!」
「…帰るね」
「待って!!どうしたら信じてくれる?」
「じゃあ…、目を瞑って?」
「ん?…うん。っ!…んん」
貴俊からキスをされた綾はそのまま身を預けようとしたが、その意図に気付き体を離した。
「私は今、あんたに操られたんだな?」
そう言いながら貴俊のネクタイを引っ張り、首を締める形になった。
「そ、そんな悪いことしないよ!」
「言っておくけど主導権を握ろうとか二度と考えんなよ?」
「わ、わかりました…。わかったからもう離して………」
「はい!風呂掃除!」
「行ってきます…」
テンションが下がっている貴俊に綾は元気になると思い
「ったく!仕方ないな!お風呂入ってる時おっぱい触らせてあげるから!」
と条件を提示するが
「あっ、それは大丈夫」
そう即答されてしまった。
「……私だって泣く時あるんだぞ?あんたは私に女としての魅力が無いって言ってるんだよね?身を削った言葉だったのに」
「ご!ごめん!そんなつもりじゃないよ!」
その言葉に綾はニヤリと笑う、そして貴俊はやってしまったと後悔した。
「許すわけが無いよなぁ、あんな傷付く事を言われちゃったらなぁ」
「えーっと…、何をどうしますか?」
「お湯と水、どっちがいい?」
「何が?」
「電気ケトルの熱湯と氷水、頭からかけるならどっちがいい?」
「…僕を殺すつもりだね?」
「そんなことするわけないでしょ!」
「いや、今のは…」
「いいから準備してきなさい!!」
「はい…」
数分後
「姫、今お湯張りしてるから」
パソコンデスクに座ってる綾に話しかける。
「はい、ありがと。そろそろ電源点くだろうから起動試してみて」
「あれ?ツッコミ無し?」
「姫は姫で中々良いぞよ?」
綾は腕と足を組み、背もたれに思いっきり寄っ掛かった。
「…じゃあ明日も職場で姫って呼ぶよ」
「それは絶対にダメ!」
「…どうしよっかなぁ」
「あんたも困るんじゃない?」
「強要されてる感じで呼べば問題無い」
「あるね!!あんた、自分の彼女が降格させられてもいいっての!?」
貴俊はすぐに反省した。
「…ごめん、二人きりの時は仕事とか職場とかそういう話はやめようか」
「……そうね、それがいいかもね。じゃあ謝って?」
「ごめんって言ったけど?」
「土下座以外は認めないけど?」
「そこは抵抗しておくよ」
「…まぁ、結婚後ね」
「………あっ、パソコン起動してみないとね」
貴俊は誤魔化すようにノートパソコンを手に持った。
「ふん!!」
綾はそう言いながらゲームをやっていた。
そんな姿に貴俊は一つ思うことがあった。
「抜け駆けしてるね?」
「………」
「綾、今どこ行ってるの?」
「ん?荒野」
「抜け駆けしてるね?」
「………」
「何で黙るの?」
「あんたの事が好きだから」
「ありがとう。……答えになってないね」
「文句あるの?」
「あるよ?」
「どんな?」
「抜け駆けしてるね?」
「………」
「綾が黙る時は罪悪感の時ね。可愛い」
「ちょ!はぁ!?違うから!!」
「慌てる所も可愛い」
「やめろって言わなかったか?」
「二人きりの時はいいって言ったよね?」
「……水の中で何秒、息を止めていられる?」
「殺すつもりだね?」
「湯船に沈めるだけよ!」
「いや、だからそれが…」
「ははーん、本当にやられたいらしいな?」
「どうやって沈めるの?耐えるよ?」
「太ももで頭挟んでそのまま沈める」
「微妙……」
「何がよ!」
「だって、それだと目の前に……」
「そうよ!!」
「嬉しいけど沈められるのは辛いから微妙」
「あぁ、そういう意味での微妙ね」
「辛い」
「……押し付けてやろうか?」
「それは嬉しいけど」
「………ごめん、それ以上言わないで。いくらなんでも引くわ」
「……お互いやめよう」
「うん、やめよう……」
二人は酒の影響もあり、話を進めていたが途中で我に返った。
「…キッチンにコップあるから水入れてきて」
「ん?…うん、それがいいね」
「他にもコップあるからあんたもそれで飲みなさい」
「うん、ありがとう」
貴俊は言われた通りにキッチンに向かい、二つのコップを手にウォーターサーバーで水を入れる。
「はい」
「ありがと」
「おかわりは?」
「まだ飲んでないけど?」
「僕はもう飲んだよ」
「………」
綾は画面に夢中だ。
「抜け駆けしてるね?」
「いいからあんたもインしなさい!!さっきから待ってるのわからないの!?」
「一ついい?」
「何!?」
「お湯張り完了の音が鳴ってる」
「…じゃあお風呂入ってからね」
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