第4話 もしかして

貴俊の自宅


「さっきの速水さん、可愛すぎないか?俺、変な感じにはなってなかったよな?」

そう言った後に洗面所に向かい、鏡で自分の顔を確認する。


目を見た後に少し上向きになり、鼻を確認する。


両手を口の前にかざし息を吹きかけてからすぐに吸い込む。



「うん、目やにも無いし鼻毛も出てない、息も大して臭くない。さっきもこんな感じに速水さんには見えていたはずだ」

自分の身嗜みを確認しては安心した。



買ってきたヘッドセットを箱から取り出し、パソコンに差し込んだ。

「あとは設定を変えて、っと」

フージンとの集合時間より早めにログインしたオニオンは今までやったことがないボイスチャットに少し緊張していた。


「これでちゃんと聞こえるのかな…」

昨夜、約束していた場所に向かった。



綾の自宅


「あいつ、もしかして私に惚れたのでは?」

先程まで一緒にいた貴俊の反応を見てそう感じていた。

「惚れてないにしても意識したはず。…でも好きな人いるって言ってたよな。……あれ?それって私の事かも!」

綾は上機嫌だった。


「そうよね、普通に考えてそうよね!じゃなきゃあんな!!……あんな」

それと同時に今まで自分が貴俊にしてきたことを思い出しては下を向いた。


「……私が男ならそれは無いな」

そして少し落ち込んだ。


「なんで私、あいつにあんな感じで接しちゃってたんだろう……」

綾はため息をついた。



オニオンとの約束時間の五分前にログインしたフージン。

「あれ?今気が付いた、ギルドに入るとマップで離れてるメンバーの位置がわかるのか。もうオニオンいるし」

集合場所にオニオンがいることを確認すると、すぐにそこへ向かった。



「オニオンさん」

集合場所に着くとフージンはオニオンの事を呼んだ。


「…あっ!聞こえる!フージンさん?聞こえますか?」

慌てたような返答がオニオンから来る。


「ふふっ、聞こえますよ」

その様子に思わず笑ってしまった。


オニオンが挨拶をする。

「……あ、あの、はじめまして」


しかし不思議な挨拶だった。

「はじめまして…、え?」


「いや、声で話すのが」

「そうですね、なんか変な感じですね」



フージン、いや、綾は何となく思っていた事もあり、オニオンの話し方や声に少し引っ掛かった。

「やっぱり…?」


それはオニオンに聞こえていた。

「何がですか?」

「あっ、あぁ、すみません!こっちの事です」

「そ、そうですか…」



オニオン、いや、貴俊も少し気になっていた。

「この声…」

「はい?」

「い!いえ!」

「私の声、変ですか?」

「……いえ、ちゃんと聞こえますよ」

「なら良かったです」


「……」

「……」

沈黙が生まれた。


「じゃ、じゃあ行きましょうか?」

フージンから話し始める。


「そ、そうですね。また荒野にでも行きますか?」

「それよりもオニオンさん、アイテム大丈夫ですか?」

「アイテムですか?」

「回復アイテム、調合してます?」

「あっ……」

「してないんですね…。じゃあ今日はイベント準備の為に回復アイテムの素材集めをしましょう」

「はい、ありがとうございます」


その日はお互いはぎこちないながらも二人で素材集めに勤しんだ。



金曜日


綾は昨夜感じた疑念を持ったまま出社した。

「直接聞くのはダメだしなぁ、もし違ってたら私がそれをやってるって事がバレちゃうから…」

綾の中で七割ぐらいオニオンは貴俊だという思いがあるがそれをどうやって確かめるか悩んでいた。


そう悩んでる間に貴俊が出社してきた。


しかし綾を見るといつも通り挨拶をし、デスクに座った。

「あれ?普通ね…」


貴俊の事だから何かしらいつもとは違う雰囲気や戸惑いにも似た仕草を見せるんじゃないかと思ったが意外に普通だったのでオニオンじゃないのかもという考え方も意識することにした。




デスクに座った貴俊も考え事をしていた。


「フージンが速水さんかもしれないけど聞けないよなぁ、今日はいつも通り…、いや、いつも以上に関わらないように気を付けよう。変な感じになっても嫌だし」

貴俊は貴俊で、もしかしたらという気持ちを持っていた。



そんな状態のまま昼休憩になった。



フロアは貴俊以外いなくなったので綾は少し揺さぶってみることにする。


「野間!」

「…は、はび!」

貴俊はいきなり呼ばれたので噛んだ。


「は?」

「いえ、何ですか?」

「進捗は?」


貴俊は少し目線が下になり、そして数秒後に上げた。

「………順調です」

しかし、綾とは目を合わせなかった。


「今の間は何!?」

綾は少し強めに言う。


「順調です!」

「よろしい!」

綾は大きな声とともに頷いた。


「…え?それだけですか?」

「昨日はちゃんとヘッドセットで相手と話せたの?」

「は、はい…」

「男?女?まぁ…、男か」

「いえ、女性でした」


貴俊の返答に眉がピクッと動き

「…へぇー、どんな女?」

と綾は詳しく聞くことにした。


「い、いえ、そこまではまだ掴めてないですけど」

「そう…」


「昨日は調合アイテムの素材集めを一緒にしました」

「…っ!!そうそう!調合してないとかあり得ないからね!?」

「…えっ?」


綾はしまった!と焦り始めた。

自分から仕掛けたのに!と。


「あ!いや、その女の思ってるような事を言ったのよ!」

「…そうですね、速水さんはゲーム詳しいんですか?」

「やったことないわよ」

嘘をついた。


「は、はぁ…」

「何?」

「いえ!」

「さっさと終わらせて昼休憩に行きなさい!!」

「はい!すぐに!」


綾はデスクに戻りながら

「本当にオニオンは野間かもしれない…」

と確信にも似た考えを持った。



数分後


会社近くの立ち食い蕎麦屋に向かっている貴俊も

「速水さんから調合って言葉出るか?しかも調合してないって知ってたし…、しかもボイチャのあの声…」

やはりフージンは綾ではないかと考えていた。

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