第26話 バレた

「うー、考えすぎてよく眠れなかった」

さとこは少しフラフラしながら出社した。


「おはようございます。って誰もいないか」

彼女はいつも誰よりも早く出社している。

そしていつも始業時間よりも早くから仕事をしていた。



「…さっちゃん、おはよう。ちゃんとタイムカード切ってる?」

綾が出社してきた。


「おはようございます、…あっ、忘れてました」

「さっちゃんの真面目な所は私好きだけど、そういうところはちゃんとしてね?」

「すみません…」


「…あれ?濱口さん早いんだね」

貴俊も後に続いてきた。


「野間さんも今日早いですね」

「え?う、うん。今日は早く目が覚めてね」

「…そうですか」

それにしても二人で続けて出社は怪しい。


二人に対して疑念を持っていたさとこは、ここだ!と、思った。


「昨日、二人で泊まったんですか?」



「そう、結構遅くまで……、え?」

「バカ!!!」


貴俊が口を滑らし綾が注意した。

確定だった。


「いえ、大丈夫ですよ。何となくわかってましたから」


綾は胸の辺りが落ちていく感覚だった。

「…え?もしかして全員?」


「いえ、多分私だけです。他の人達はないないって言ってますから」

「…そう」

綾は少し考え、話し始めた。


「さっちゃん、話していい?」

「はい…」

「さっちゃんの言うとおり、私達付き合ってるの」

「はい、そうだと思ってました」

「でね、これは内緒にしておいてもらえると助かるんだけど………」


「別に良いですよ。それをバラした所で私にメリットがあるわけじゃないですし。でも色々聞いていいですか?」

「う、うん。いいよ」

「いつからですか?」

「…ここ最近からなの」

「どんなきっかけで?」

「ごめん、ちょっとそれは…」

綾はきっかけを話したくなかったが貴俊はそこを言わないとさとこは納得しないだろうと思った。


「話した方が良いよ。今は濱口さんしか聞いてないわけだし、そこを話さないと色々終わらせられないと思う」

「………わかったわよ。実は共通のゲームをやっていてね」


「…友人じゃなくてゲームですか?」

「共通のって言い方はそう思うよね」

「すみません、余計な事を言いました」

「ううん、それでそのゲームで私とあいつはトップを争ってるの」


「……え?じゃあライバルって事ですか?」

「うん、まぁつい最近までお互いを知らなかったんだけど」

「そのライバルからなぜ?」

「こいつが私にぞっこんだったの」

綾は貴俊を指さした。


「とんでもないこと言ったね!?」

「事実でしょ?」

「……そうだけど」


さとこは二人のやりとりを冷静に見ていた。

「えっと、お互いをゲーム内で知るきっかけは何だったんですか?」

「あいつからチームを組もうって言ってきたの」

「綾からだよね!?」

「…さぁ?」


捏造されると思った貴俊が話を進めた。

「…ちょっと話は飛ぶけどボイチャしながらイベントを一緒に戦わないか?って話になって。いざ話してみたらお互いにあれ?って思ったんですよ」


「…なるほど」

「それで私にぞっこんのあいつは」

「ぞっこんって言葉は古いと思う」

「あぁ!?」

綾は怒りたかったが貴俊とさとこの二人で抑えるようにジェスチャーをした。


「それでリアルで会って話してる内に元々僕が速水さんを好きだった事がバレて、今は網にかかって抜け出せない状態」

「…お前、マジでさぁ」

「ここではやめておこうよ」

「覚えてろよ?」

綾は少し強めに貴俊の頭を叩いた。



「な、何となくわかりました。そのゲームって何か聞いてもいいですか?」

「シャイニングセイバーオンラインってゲーム」

「え!?」

さとこは驚いた。


「え?」

「…私もそれやってるんですけど」

「そうなんですか!?」

「ちょっと待ってください…。トップ争い?」


綾は何となくまずいと思った。自分がフージンだとバレたくない。

「ごめん!トップ争いは言いすぎた!」


貴俊もそれを察した。

「百位くらい…かな?」

「そ!そうね!見栄張っちゃった、恥ずかしいね」


二人の慌てようにさとこは仮説を立てて揺さぶることにした。

百位くらいはウソだ、と。


「私は五位から八位ぐらいをウロウロしてるんですよ」

「え?トップランカー!?」

「はい、グラスって名前で」


「え?あっ、え!?」

「グラスが濱口さん!?」


「知ってくれてるんですね、嬉しい」

「そりゃあ、イベント戦で最後まで残ってたのを綾が倒したし、昨日僕も闘ったし」

「おい!お前!!」

貴俊が口を滑らせた事を綾は怒った。


「…あっ」

「はぁー………」

綾は額に右手をあてた。


「どっちがどっちかわかりませんが、オニオンさんとフージンさんですね?」

「…もう無理よね?」

「いや、まだいけるんじゃ?」

「お前ちょっと黙ってろ」

綾は貴俊を後ろに引っ張った。


「…うん、私がフージンでこいつがオニオン」

「すごい偶然ですね」

「え?」

「だっていつも個人戦決勝を闘ってる二人が速水さんと野間さんで、私も二人と闘ってたなんて」

「…世間は狭いわね」

「ですね、……野間さん」

「はい…」

「私は野間さんを倒したい」

「私もオニオンを倒したい」

綾がすぐに便乗した。


「……急に駆逐対象に?」

「オニオンって腹立つんですよねぇ、遠くからショボい攻撃連発してから魔法使ってきたり」

「わかる!!腹立つよねぇ」

「リアルでは情けない奴なんだろうなぁって思ってましたけど、それが野間さんで納得しました」


「…今、悪口が直撃してますけど」


「情けないしどんくさいし仕事できないし意気地無しだし」

「綾はちょっと黙ってよう」



「速水さんはそんな野間さんのどこが好きなんですか?」

「…え?」

さとこの矛先が綾に向かった。


「私だったら野間さんからコクられても断りますけど」

「何気に切っていきますね」

貴俊は離れた距離から新しく傷をつけられた。


「え、えーっと。元々私もこいつの顔が好きでね?あのー、だから、んー。」

「…両思いだったんですね」

「そうなるのかな?…うん、そうだね」

「わかりました」

「も、もういいの?」

「はい、知りたいことは知れましたし。私の予想は当たってましたし、倒したい相手がリアルで見つかりましたし」


「……僕の闘い方ってそんなに敵を作る?」

「何?わかってなかったの?」

「腹立つ以外の感情は生まれませんよ」

「ごめんなさい…」



少し間が空いた後にさとこが話し始める。

「一つお願いをしてもいいですか?」

「何ですか?」


「…次のチーム戦イベントに私も入れてくれませんか?」

「え?僕はいいですけど、今のギルドの方々は大丈夫なんですか?」

「急遽入った自動参加のギルドですし、それにお二人とやった方が私も上に行けそうなので」

「わかりました、じゃあ帰ったらギルドの招待を送っておきますね」

「はい、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

「さっちゃんも仲間に入ったらもう敵無しじゃない?」

「そうだね」


二人の言葉とは逆にさとこは下を向いた。

「…でも私、今悩んでるんです」

「武器ですか?」

「…わかりますか?」

「はい、綾の時は大剣、僕との時は大盾でしたから」

「いやらしく魔法を使ってくるオニオンって人にどうしたら勝てるかって考えてまして」

「………本人ここにいますけど」


「魔法を防ぐスキルって無いんですか?」

「…防ぐのは無いですけど軽減はありますよ」

「え?どのスキルですか?」

「魔法レベルを上げると獲得出来るスキルです」

「うーん、すぐに取得しようとするとめんどくさいなぁ」


悩むさとこの横で綾が苛立っていた。


「…ちっ、はぁー」

「………それ、拾った方がいい?」

「あんた、私が魔法使ってみようとした時に止めたわよね。そういうこと?」

「違うよ」

「じゃあ何!?」

「魔法レベル上がっていくと物理攻撃の威力下がるよ」

「………皆、遅いわねぇ」

綾は時計を見た。


「僕は魔法上げすぎたから魔法と間接攻撃で闘ってる」

「今日土曜日だっけ?」

「そんな状態でゴリゴリの武闘派といつも闘ってる」

「悪かったわよ!」

綾はとぼけることを諦めた。


「仕事以外は結構速水さんが追い込まれるんですね」

「さっちゃん?思ってても口に出しちゃダメよ?」

「は、はい…」


「綾は結構何も出来ないですよ」

「…ついに言いやがったな、こら」

綾は最上級に怖い目を貴俊に向けた、それに気付いた貴俊は

「って思いがちだけどすごい優しいんですよ!!」

と話したが

「私が勝ったら覚えてろよ?」

もう遅かった。



「イベント戦勝ったらどうするんですか?」

さとこはぶっこむ。


「結婚後は私の召し使い扱いかな」


「え?結婚?結婚するんですか?」

「勝ったらね」

「え?…あのどういう?」

「私が勝ったら結婚」

「野間さんが勝ったら?」

「僕が勝ったら結婚」

「………すみません、ちょっとよくわかりません」

さとこは引いている。


「結婚後の主導権争いって感じかな」

「…あ!あぁ、そういうことですね」

とりあえず無理矢理納得した。

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