第二話
自分の悲鳴が届いたのか? 美少女の叫び声が届いたのか? 強面で屈強な体躯の男たちに囲まれ、まさか銃口を頭に向けられる事態に発展するとは思ってもみなかった。
届いたのは、後者の美少女の叫び声だった。
幸い、ある意味で有名な学園の学生服を着ていたのと、特殊な生徒手帳を携帯していたおかげで、命を落とすことなく学園に着くことができた。
の――だが。
理事長室に、ご案内されることになるとは。
「春休みだというのに、学園指定の制服着用し、なおかつ、生徒手帳も所持してる。まさに、この学園の模範になるべき生徒だよ、
上質な革張りのソファーに全体重を預けふんぞり返り、目の前にあるアンティークな高級テーブルに、足を組んで乗せている姿。外国マフィア映画に登場する悪役の総元締めにしか見えない。
チャームポイントがあるとすれば、うずまきの形状をした棒付きキャンディを舌先で、ぺろぺろぺろぺろ、と舐めている仕草ぐらいだ。
これが通っている学園の理事長であり、
「模範生、吉祥天主水。これで、失礼します!」
「アホ」
呆れた表情で言い放ちながら男装の麗人が、うずまきの形状をした棒付きキャンディで、主水を指す。
「事故でしょ?」
「確かに事故だ」
「でしょ。あとは話し合って、お終い」
「話し合って、お終いねぇー」
「……ごねてるんですか?」
「彼女も自分に非があることは、認めている。ただ、一つ問題があってな」
「ぁー。胸を揉みしだいうえに、唇を奪ったのがダメでした」
「……、はぁー。彼女はその行為を許している」
「え!? じゃー、なに? が、問題なんです」
「お前、彼女よりも先に、痴女って大声で叫んだだろう。それが問題なんだ」
「そこなんですか。ある意味ですごい、人物ですね」
「ヴルガータ社のご令嬢」
「ぉー」
十字路は不吉なモノは、
うずまきの形状をした棒付きキャンディを数回、舌先で舐め、口の中に収納すると。
「と、言うか。お前、彼女がヴルガータ社のご令嬢、アニー・ヴルガータだと、気づかなかったのか?」
またしても、呆れた表情を見せながら、棒付きキャンディで、主水を指す。
清々しい表情で。
「他人の家族構成なんか知りませんよ。理事長、知ってるでしょ、俺の性格」
主水の言葉に、伏黒牡丹は、うずまきの形状をした棒付きキャンディを舌先で、ぺろぺろぺろぺろ、と舐めて返事をする。が、眼尻が微妙に下がっていた。
察した。
職務放棄する、気、満々なことを。
「分かりました。で、向こうの要求は?」
「さすがは模範生、話が早くて助かる」
主水の口から出た、というよりも、出させた発言に。キャンディを舌先で舐めながら、伏黒はしてやったりと薄く微笑んだ。
「入れ」
理事長室のドアが音もなく開いていく、ドアの隙間から視認できないが重いドス黒い空気が理事長室のなかに大量に流れ込んでくる。
扉が全て開きると、そこに――アニー・ヴルガータが立っていた。
「失礼します」
十字路で衝突したときと違って、落ち着きを取り戻した。ご令嬢トーンで、入室の挨拶し、歩いてくる。
あくまでも表面上、冷静さを取り繕っているだけで、一歩、一歩、
ドアの隙間から侵入してきた空気から分かっていたことだが……。
それと先ほど衝突事故を起こしたときと違い、この学園の制服を着用していた。
シックな
が!
どこで販売しているのか? 尋ねたいぐらい場違い感半端ない、ロングコードが目に飛び込む。中二病全開のSF映画やマフィアなどで見られるキャラクターが着ているロングコートを羽織っていた。
そこのソファーにふんぞり返りながら、棒付きキャンディを舐めている悪役の総元締めの幹部の一人にしか見えない。
と、いうか。
いま、俺もそれを着ているのだが。
最低でも色は寒色系から選択してほしかった。目立ってナンボ! という理由から、暖色系の真っ赤を選択した、この理事長センス。
男装の麗人を
まぁー、目立ってナンボ! のおかげで。頭蓋骨に
主水の肌が日焼けしたあとのようにひりつく。ソファーに座った状態でゆっくりと視線を動かしていくと、視線が合った。肌に痛みを感じさせている正体は、鋭くツリ上がった目元で睨みつけている、アニー・ヴルガータ。
「あれは事故だ。私が、こう――じゃなかった。私の至らなさが招いた結果だ、申し訳なかった」
自国の言葉ですら隣接する県一つ違うだけでイントネーションは大きく違ってくるほどに、話すということは難しい。しかし、アニー・ヴルガータは、異国の言葉を自国の言葉のように流暢な日本語で話し、座っている主水に深く頭を下げた。
正面衝突事故の第一印象から、もっと高飛車なお嬢さまだと思っていたが、腰の低いタイプらしい。
主水は、正面に座っている人物に視線を向けると、うずまきの形状をした棒付きキャンディを舌先で、ぺろぺろぺろぺろ、と舐めていた。
――職務放棄中。
さすがに男として、これ以上――。
頭を下げているアニーの前に主水は立つと。
「アニー・ヴルガータ様。どうか頭をお上げください、俺――私にも非がありました。どうか、ご無礼をお許しください」
「……、……」
主水の謝罪に、アニー・ヴルガータは、反応しなかった。それどころか微動だに、最初にした、深々と頭を下げたままだった。
「謝罪の意として、お――私にできる範囲でのお詫びをいたします」
主水が発した、あるキーワードに。硬い表情をし、深く頭を下げていた、アニーの顔がニヤッと歪んだ。
「フフフッ。できる範囲で、詫びをしてくれるのだなぁ」
「ちょ!?」
アニーは急に頭を上げ、主水に指差しながら。
「では、私と勝負しろ!
理事長室内に響き渡る高らかな宣戦布告をアニー・ヴルガータは、ドヤ顔でした。
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