第九話
その効果は吸血鬼や狼男、魔女や悪魔などを射殺できるとされる伝説で語られる曖昧なものではなく。人類が年月を掛け研究し造り上げてきた科学技術力、と、おなじだけの年月を掛けて研究し創り上げられた異能の力。その両方を利用し複合化させ兵器の一つ。
軽い核種同士が融合することで重い核種になる核融合反応の理論を根底にし。現在までに知られている核種を用いるのではなく、魔力もとい異能者の精神力で生み出された高次元物質で核融合反応を引き起こし、高温高圧によって発生する反応プラズマにより被弾した相手を損傷させる。
それが――インターセプターの正体。
アニーの左手に持っていたパリーイングダガーが光ったのは、主水が撃ち出したインターセプターが被弾した証拠。そして、左側から襲ってきた
左手に握り持っていたパリーイングダガーは、跡形もなく消滅しており。左腕は力なくしだれ、白い肌は熱傷により腫れただれ、滴り落ちる血液が地面に黒い滲みに。
その理不尽極まりない破壊力で負傷した身体は、冷静に痛みの信号を脳へと送った、が。信号は強制的に割り込んできた高揚信号により、上書きされていた。
証――――自身の異能の強さの。
主水が好んで使う魔弾の一つであるインターセプターには、兵器として致命的欠陥があった。
条件で破壊力が大きく左右されてしまう。その条件が異能者の精神で創り出された高次元物質の
異能者でない一般人にとってインターセプターは、銀と主水の血液粉末が混じっているだけの
ただし、異能者にとってもインターセプターは魔弾と呼ぶには、そぐわない魔弾でも、あった。
被弾した異能者により、
能力が低い異能者が生み出した高次元物質に被弾したとしても、インターセプターは核融合反応、しない。
現実世界に存在しない高次元物質で核融合反応を引き起こすには、膨大な質量を内包した高次元物質に、膨大な質量を内包した高次元物質を融合させる必要がある。
魔弾――
これほど異能者、と、して。アニー・ヴルガータ、と、して。嬉しいことは――ない!
十六歳で世界最強になった少女は、同年代の異能者の憧れになった。そして、次に同年代の異能者の憧れになったのが、十歳の少年。
アニーが憧れた存在であった少年と、いま、こうして対等な力を身につけたということが証明できたのだから。
「あれだけの反応プラズマは、なか、なか、お目にかかることはありません。それに、
右手の人差し指をスライドに押し当てながら、
に、
一回、深呼吸し、
「世界最強からの褒め言葉、ありがたく頂戴しておくわ」
インタセプターで負傷した痛みと心底喜びから、無意識に口元が鋭角に上げる、アニー。
「質問しても、いいかしら?」
「いいですけど…………降参してか――」
「――し、ない!」
短く首を横に振って、
「はい、はい、答えられる質問なら答えてあげます、よ。あと、質疑応答中に左腕、最低でも止血、だけは、してください、ね」
アニーの圧力に屈指してしまい逆に降参させられた、主水だった。
人体機能を操ることは異能者にとって、そう難しいことではない。精神の具現化で創り上げられた、高次元物質は攻撃だけでなく、戦闘時には身体強化にも利かせている。だからこそ異能者は常人離れした、動きができる。
高次元物質を
至近距離から超音速初速弾よりも遅いが、
左腕の止めどなく流れ出る血液が凝固し始めると、反応プラズマで美しい肌が無残に腫れ上がっていた、腫れも引き始める。
「インターセプターって。追尾機能あった、かしら?」
「いつもの
「げ、げんてい、品」
静かに漏れた呟きは、主水には聞こえていなかった。
「先程も言いましたが、アニーさん降参しません? 自己治癒力で左腕を再生し終えたとしても。体力と精神力を大幅に消費している状態で、追尾機能搭載した、インターセプターを相手するのは――」
「――いいから、撃て」
「ぇ」
「新型、インターセプター攻略してやる!」
「…………、…………」
主水は限定品という言葉を出したことを強く後悔した。目の前に立っている、アニーは、白い肌がより白くなっており、西洋屋敷に出てくる幽霊を見ているようだった。原因は左腕からの出血による貧血。
ねっとりとしたアニーには似つかわしくない脂汗が、美しい顔から吹き出していた。左腕を再生するのに体力と精神力を根こそぎ持っていかれ、身体機能が急激に低下している、体は正直。
もし、この状況を一般人が視れば、百人中、百人が救急車を呼ぶ状況だというのに、当の本人は――ギラ、ギラ、と瞳を輝かせ闘志を燃やしていた。
「マジ、で。どうしょぅ」
静かに漏れた呟きは、アニーには聞こえていなかった。
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