黒闇天の勇者

はちごさん

第一話

 日課であるコンビニから、いつものキャラメル色の炭酸飲料を購入して、学園に向かう途中にある十字路に差し掛かると。

 ふと思い出した。

 なぜ? それを思い出したんだろうと、吉祥天きっしょうてん主水もんどは、思った。

 ヨーロッパでは古来より、なモノとして、語られていることを。


(たしか……)


 身寄りの無い人や処刑された人を埋められていた場所。理由は単純なこと、その死者が蘇ったときに、十字路だったらどちらの道を辿たどればいいのか、迷わすためらしい。

 また、十字路は土地の境界が曖昧になることから、境界線という結界が不安定になり、結界の効果を弱める場所とも考えられていた。

 そのうえ、黒妖犬ブラックドッグと呼ばれる、黒い犬の姿をした不吉な妖精が十字路に出没するという民話が伝わったことにより。

 ――不吉な場所と考えられるようになった。


 それが、いま、目の前にあり、そこを通って学園に行かなくてはならないという、不吉フラグを立ててしまった。

 コンビニで、購入したキャラメル色の炭酸飲料の真っ赤なキャップを勢いよく回すと、プシュっという景気のいい炭酸の抜ける音を出しながら、甘い砂糖のいい香りが漂う。

 グイっと三分の一を胃へと流し込む。


「げぽぉー」


 気を取り直し、十字路に足を踏み入れたときだった。


 驚愕で紅の瞳ルビーアイの瞳孔が見開く!

 日本人特有の美少女ではなく、外国人特有の美少女だった。美術館に展示されている女神像を年齢に比例させ、少し幼くした美しい顔立ち。

 髪は太陽光を吸収し、より、輝く、紅蓮ぐれん。髪質からか、ゆったりとしたウェーブがかかっていた。

 きめ細かい上等な絹を撫でている感触の肌に、日本人の同年代から考えられない、起伏のボディライン。出るとこは、出て、引っ込むところは、引っ込む。

 外国人だから凄いのか? この美少女の発育が凄いのか? 主水もんどには、判断ができなかったが、凄いとしか言いようがなかった。

 左右の手に一つずつ、重量感ある物体が! 揉むと五本の指が優しく飲み込まれていく柔らかさ、だが! それだけでなく! 跳ね返す弾力もある。

 延々と揉んでいたい。

 追加で。

 厚めの唇の感触も、なかなか、だった。


 美少女が急に触れている唇を剥がし、喉仏が震えるのが見えた。それに連動するように、空気を肺に吸い込む吸引音が聞こえてきた。

 あ! 不味い。 これは、大きな声で叫ばれる。

 と、いうことで。

 ――先手必勝!


「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁーーーーー!!!!! ち、ちじょぉぉぉぉぉーーーーー!!!!!」

「ち、ちょっと待ちなさいよ! そ、それ、私の台詞セリフでしょ! そ、それに、な、なんで、男のアンタが! さ、さきに、叫んでんのよぉぉぉぉぉーーーーー!」 


 かくして、十字路から急に飛び出して来た、美少女と衝突し、その拍子に唇を奪ってしまった不可抗力。そして、本能に任せて胸を揉みしだくという不慮の事故は、隠蔽いんぺいされた。


――――ことには、ならなかった。

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