第三話

 物騒な建造物のなかで、吉祥天きっしょうてん主水もんどは、腕組みしながらムスッとしていた。

 例えるなら。

 ゴールデンハムスターが、餌場から大量にひまわりの種を両頬袋に詰め込んで、パン、パン、に膨らませている姿。


「お前、その仕草して可愛いのは、幼い子どもと女子だけだぞ」


 理事長――伏黒ふしぐろ牡丹ぼたんは、うずまきの形状をした棒付きキャンディを舌先で、ぺろぺろぺろぺろ、と数回舐めると、クルッと反転させると。再度、ぺろぺろぺろぺろ、と、うずまきの形状をした棒付きキャンディを舌先で、舐め始める。

 首を主水は不機嫌そうに左右に振り。


「ぷぅー、ほっといてください」


 七年前、十歳のときの主水は、憎たらしいながらも可愛らしかった、な、と思い出した。

 伏黒だった。

 が。

 いまは、周囲を状況の方が気になる伏黒だった。


「しかし、困ったことになったなぁー。なんで、バレだんだ?」


 主水はこの状況を引き起こした人物に心当たりがあった。


「あのお嬢さまが撒き散らすした、残留思念フェロモンを嗅ぎ取ったでしょ。あのゴシップ記者が」

「…………アイツか」


 そう言いながら、うずまきの形状をした棒付きキャンディを噛み砕くと。口の中でキャンディを木っ端微塵に粉砕し、胃の中に流し込む。

 すると満員御礼の観客席最前列から、プロフェッショナル顔負けの重厚な黒光りするカメラからフラッシュが猛烈にたかれていた。

 その閃光は、近代建築版円形闘技場コロッセウムの戦闘フィールドで、立ち話をしている二人に降り注いでいた。

 

「ははは」


 と、笑い声を発していが、伏黒のフェイスは、まったく笑っていなかった。

 その雰囲気から主水は嫌な予感が。

 うずまきの形状をした棒付きキャンディを歯で噛み固定すると、スタ、スタ、とある物体に向って歩いていった。

 その先には戦闘フィールドで、戦闘時に一時的に身を隠すために人工的に配置されている大きな岩があった。


「ぁ!」

 

 ――闘技場内に爆音と地響きが。


「ちぃ! 安全装置セーフティーネットを起動させてあるの忘れてた」


 猛烈なフラッシュを浴びせながら、写真を撮っているカメラ小僧に。身を隠すために用意されてある大きな岩を蹴り飛ばしたのだった、伏黒は。

 しかし。

 平然とカメラ小僧はフラッシュを絶え間なく、点滅させていた。一定の生徒たちと教職員は、頭痛がするのか頭を手で押さえながら、複雑そうな表情をしていた。

 それ以外の生徒とは――硬直していた。

 平然とシャッターを切っていたカメラ小僧が、シャッターボタンから手を離すと、力いっぱいに手を振りながら、目線をくださいとジェスチャーし始めた。

 そのジェスチャーに答えるように。

 右手を首元の前で左から右に移動させたあと、立てた親指を下に向けた――サムズダウンのポーズを伏黒はカメラ小僧にした。

 サムズダウンのポーズの意味。

 古代ローマ時代に闘技場で負けた剣闘士に対し、、と言う意味で観客たちが行っていた、ハンドサイン。

 だが、伏黒はではなく、、という意味で使用した。

 フラッシュが点滅を再開した。


「だから、それ、喜ぶだけだから」


 と、主水はツッコんだ。

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