第四話
世界屈指の大企業の一つである、ヴルガータ社のご令嬢である――アニー・ヴルガータは、物怖じするどころか、数多の視線をスポットライトのように感じていた。
アニー・ヴルガータにとって人に見られるということは、呼吸をするように当たり前のことだからだ。
ランウェイで注目を浴びている自分の両鼓膜の振動からは、数多の視線の口から発言される内容を脳に伝える。
『あの子がヴルガータ社のご令嬢』
『すっげぇー、空気からして違うな』
『あの瞳と髪の色、すてきぃ……』
『でも、相手が
『…………? 昼行灯って誰のことですか?』
『うん? あー、新入生か。
『
『なんで? 戦うことになったんだ』
『知らないよ、そんなこと。……まぁ、ありえるとしたら。吉祥天とヴルガータが、ライバル企業だからじゃないかな』
『なるほど、縄張り争いってことか』
『オレ、
『あの大会以来、あいつは全ての大会は棄権、そのうえに授業の実践訓練もエスケープしてるからな』
『しかし、ヴルガータ社のご令嬢には感謝だな。あの昼行灯の闘いが観れるんだから』
漏れ聞こえる昼行灯――
アニー・ヴルガータは、心のなかで嬉しさのあまり失笑してしまった。
まさに、もう一つの二つ名のほうが、似合っていると。
――
「アンタ! 言っておくけど、試合開始した瞬間に降参するのなしよ!」
主水の身体がピクッと反応した。
アニーは、フッと鼻を鳴らすと。
「ここに来る途中、アンタの話題で持ちきりだったから。試合開始した瞬間に降参するだろうな、と安易に想像できたわ」
「……………………」
審判役である
「あきらめろ」
「あきらめ、ました。理事長、試合開始の合図を」
主水の言葉を聞くと、背中を向け退場していく。アニーとすれ違いざま、微笑みながら。
「アニー・ヴルガータ。あの男をどこまで追い詰めることが、できるのか、楽しみにしているよ」
アニー・ヴルガータは、にやりと笑う。
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