第十四話
佳境を迎えた。
ここに至るまでに、彼女はあらゆる手段を尽くして。あの少年に勝つため、アニーは自分自身の能力を徹底的に研鑽してきた。結果、得た力は確かに、強大なモノへと変化した。
しかし、
天から異能の才を与えられ、努力しても埋まらない差が、そこにはやはり存在していた――天才なかの天才。
言い聞かせていた、自分に。
天才のなかでも優劣があることを。ただ、どれだけ劣勢があっても、決して勝負の世界に絶対はありえない、相まみえ対するまで、は。
アニーは周囲から幾度も、無謀過ぎると忠告された訓練。だが、彼女の信念は揺るぐことなく、鍛錬に励んだ。
そして、強くなった。だが、強くなればなるほどに、相手の力量を見抜くことことにも、長けてしまった。
アニーの目の前に立つその姿。
闘ってみて
……このまま終わらせるわけには……いかない!
身体は限界を超えていたが、アニーの意志はそれを超えていた。痛みをこらえ、呼吸を整える。
最後の一手を撃ち出すため、隠し続けてきた切り札を。
誰にも知られることなく、秘めてきた究極の一撃。これを繰り出すには、今の状態では魔力がない、その代わりに
……この一撃で、すべてを……終わらせる!
心の中で叫んだ。意識が朦朧としたなかでも、その決意だけは揺るがなかった。すべてをこの瞬間に。
『わたしのかおをおぼえて』
主水はすぐ
弾丸が皮膚に触れながら熱を帯び、弾頭先端は
意識を失うどころか、覚醒させる否応なく。
主水は理解している、ペネトレイトに撃ち抜かれる痛みを。
コンピュータシミュレーションを駆使して計算を行い、高次元物質による核融合反応が持つ破壊力とその有効範囲を細かく算出できる
ので、
自分自身の肉体で
自動でトリガーを引くように作った特殊装置で固定したワルサーPPKから、軽い発砲音が鼓膜を振動させるよりも先に、まるで灼熱の針が突き刺すかのような、鋭い痛みが走った。
「イ! 痛!!」
と、大声を上げ、目に涙が浮かんだ。思っていた以上の痛みに、鼻水も垂れた。
「……コ、コレ。イタスギ……ナンデス、ケド…………」
出血している腕をもう片方で押さえながら、必死に涙と鼻水を止めようと頑張った。が、次々と溢れてくる涙と鼻水が止まることはなかった。あと、実験室の床にどんどんと広がっていく血液――視ると意識が。
慌てて、近くの緊急連絡端末に触れ通信をした。
「ジ、ジッケン。シッパイ」
「はぁ? 意味、分かんないだけど」
「チ、トマラナイ」
「あなた。
「ィ、イタミデ……シュ、シュウチュウリョク、ガ」
「はぁ? もっと意味、分かんないだけど」
「…………」
「ぇ、ぇーえーェーエー! も、もんど、もんどー!!」
「…………、…………」
バカなことをした、な。
あのときは若気の至りで、実験したのが悪かった。
自分でも驚くほどに、寝不足を理解しないで実験に臨んだことを。
涙と鼻水を出した表情で意識を失い。大量の血溜まりのうえに倒れている姿で発見され、緊急搬送された。
世界最強の異能者になる――ちょうど一年前の出来事だった。
普段なら容易に解決できる問題でも、寝不足により著しく低下した思考力が及ぼす影響は、計り知れなかった。
頭がぼんやりとしている、な、って感じだった。ワルサーPPKを装置に取り付けるだけなのに、何度も失敗を繰り返していた。別段、複雑でなく順序立てて、作業すればいいだけなのに。
そのときに気づくべきだった。
目の前の物事を適切に対処し、問題を冷静に解決できないことの意識。
そして、
判断力が鈍ることで、不適切な選択をしてしまう危険性、に。
運ばれた病院の医療カプセルの治療培養液に浸かりながら、深く反省した。
二度と…寝不足で……実験は――やらない、と!
微かに笑みを浮かべ、主水はアニーの言葉に応えた。
「タァーン!」
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