第十三話
大の字で天井を見上げている少女が居た。
裂かれ破れた衣服から視える美しい真っ白い柔肌に対比し、赤黒い滲みが数カ所。少女を支え、前、前、と蹴り出す強い味方が今では重篤患者のベットになっていた。
胸部は早く上下運動し、血液を通して体中に大量の酸素を送るため、必死に仕事をしていた。
が、
呼吸音は短く浅い。これは生体機能が極度に低下し、体に酸素が効率的に取り込むことができていない状態。
ありていに言って――瀕死。
その姿を飄々とした表情で、少年は見下ろしていた。
紅蓮の髪は乱れ散り、眼も
倒れている少女、彼女は――アニー・ヴルガータ。
見下ろしている少年、彼は――
アニーと主水が闘っていたコロッセウムとは。本来、異能者たちの育成訓練施設兼競技闘技場として利用されることを目的にした設備なのだ。
が!
中世時代のコロッセウムへと変化していた。
エンターテイメント、社会的儀式、政治的宣伝、社会的地位の向上など、多岐にわたる目的で使用、利用されていた。しかし、その一方で闘技場は暴力や死の象徴でもあり、過酷で残虐な――見世物。
アニーは叫ぶことをしなかった。
悲鳴を上げたほうが痛みを抑える効果ある、聴覚鎮痛。意識を痛みから別のナニかに意志を集中することで、痛みを緩和する手段の一つ。
人は誰に教えられたわけでなく、自然にこれらの鎮痛法を身につけている。それは生命の危機に脅かされたときに生き残るため。
そしてもう一つ生命を守るための防御機能、失神である。これにより、身体が危険な状況から保護的な反応として意識を失うことで、危険な状況から一時的ではあるが距離を置くことができる。
両方の選択肢を拒むことを選択するために、叫ぶことをしなかった。
さいご、最後に撃ち込む――そのため、に。
視界が揺らめき、うっすらとしか見えないが主水の姿が。
でも、アニーには確信できていた。表情は崩さず冷静でありながら、楽しげにゆがんだ眼差しをしていることに。
今まで好き勝手に
主水はゆっくりと近づいてきた。
アニーはかろうじて視線が彼の手元に移る。
一歩、一歩、近づいてくる足音はアニーにとってはカウントダウンに聞こえたていた――自分にとどめを刺す。
主水はアニーの額に銃口を向け狙い定める。
彼は決して銃口を密着させない。映画やドラマでよく見られる、銃口を人の額に直接押し当てるシーンは、実際の銃の使用方法としてはあまり現実的でない。
装填不良、安全性問題、戦術的不利のどれかに問題が生じる可能性があるからだ。
銃口を物体に密着させるとガス圧が逃げられず、正常な反動が得られなく。これにより
また、密着させた状態で発砲すると、反動やガスの圧力で銃が暴れ操作が制御不能になり対象以外に危害を加えることにも。
次にしてしまうことが銃を武器として扱う者として、もっともやってはいけないこと――銃が銃である特性を自ら殺すこと。
拳銃はあくまでも近距離戦闘を想定して設計されている武器であって、近接武器ではない。
近づけば近づくほどに命中精度は上昇する。が、脅威上昇するとは限らない。
それは、相手が銃に触れる機会を上昇させてしまうことになるから。もし、撃ち手を押されたり掴まれたりし、銃口が逸らされ初弾が外れたうえに奪われることがあれば、形勢逆転される。
引き金を引くだけで幼稚園児にも満たない年齢の子どもでも、大人を殺すことができてしまう殺傷能力……しかし……射手を保護する機能が射抜かれる側にも機能している。
銃の特性を理解している者からすれば、銃口こそが最重要であり。それさえ注意していれば、刃物を持っている者から奪うより躊躇することなく奪うことができるからだ。
小火器を用いた戦術は、ある程度の距離を保ちつつ、制圧力を維持することが基本となる。
したがって、映画やドラマで見られる銃口を額に直接押し当てるは、視覚的な緊張感を高めるための演出であり、実際の銃の使用方法や戦術的な観点からは正しいとは言えない。
と、
主水に銃を教え提供している人物から、ガミガミと言われたことにより。皮肉にも頭と体に銃という武器を扱うことに関して、しっかりと身に付けることになった。
アニーは薄れる意識の中で、戦いを挑んだことを嬉しく誇らしかった。十歳で世界最強になった少年と、ごく短い時間だが渡り合えるだけの実力になっていることに。
自身の力である――“
幼少から自分には才能があった。大人の異能者を圧倒でき、勝利という良い知らせを与えてくれるほどに。
彼女、アニーの才を奢らせることをさせなかった
各国政府とそれに属している企業。さらに各異能組織が利害関係を完全に無視し、安全対策にだけ注力した――
崩壊させた人物の一人が、主水である。
アニーは驚嘆し、鬼才を凌駕する力に魅了されたのだ。
そして戦いを挑んだ。その力は、想像を遥かに超えるものだった。戦いに敗れた悔しさと、彼への変わらぬ敬意が交錯するなか、アニーは最後の力を振り絞って言葉を。
「わたしのかおをおぼえて」
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