第十二話
プラズマの渦からアニーが飛び出し、地面に着した足の左太腿を撃ち抜かれた――魔弾、
結果、無様な転び姿を披露することになった。
「そろそろ降参しませんか? 目玉商品の新型、
シェークスピアも裸足で逃げ出す、ハムレットを演じていた男の声。とは、思えない甘い、甘い、甘ったるい――
「…………、…………」
全身の汗腺から吹き出した汗。で、熱量が一気に逃げていき、寒気立つ。言葉を掛けている男の本性に本能が反応した。
優しくアニーに語りかけてきている。が、隠しきれていない――嗜虐心が顕れていた。
そう、
主水が嫌われるのは。
性的嗜好の一つのタイプである――
それが、もとで。
ある一人の少女に深い傷痕を負わせ。責任を取るという形で、その少女と婚約したという噂話。が、女子情報網で広まり。主水は、女子たちから悪評判の大判を捺されてしまっている。
また、
中等部のとき。主水は、気に入らないという理由から、数名の男子生徒たちにペネトレイトを撃ち込み大怪我させたうえ。
結果――学園内で大の嫌われ者として扱われているのである。
睨んだ。恐怖を跳ね返すために。これから、この男は……遊ぶ…………敗北宣言する………………まで。
「そんな綺麗な瞳で睨まれ、たら。アニーさん」
唇を舌で
と、
何の気負いを見せることなく、踏んだ。
銃創から血液が止まることなく流れている左太腿をタクティカルブーツで――踏んだ、それも
「ッ!」
蒼い唇から痛みを訴える小声が漏れる。
だけ、だった。
アニー・ヴルガータという少女。は、異能者としての強さだけでなく、闘士としての強さも持ち合わせた人物であった。
異能の力を使い果たした、アニーの肉体は。
いま、や。
十七歳の少女でしかない。
主水が撃ち出した魔弾、
異能者たちのなかでも、上位の者だけが使うことのできる。奥の手の一つである、大気中から膨大な窒素を体内に無理矢理、取り込み。急激にアミノ酸やタンパク質、
自己再生遺伝子コントロールプロセス――――
一流の異能者、アニー・ヴルガータの姿は……もう――ない。
主水に踏みつけられ。痛みに耐えているのは、異能の力ではなく。本人の負けないという揺るぎない意志だけで、元は綺麗な淡いピンクの厚い唇を食いしばっているだけ。
観客席に居る生徒たち。は、皆黙り込み。その主水がアニーにしている非人道的な行為を観ていることしか出来ないでいた。
この試合の審判が、
「お前らも見習えよ、お嬢さまを。飾りで魔闘士の肩書き、くれてやってるんじゃないんだから、な」
と。
観客席でふんぞり返りながら前席の背もたれに足を組みながら。うずまきの形状をした棒付きキャンディを舌先で、ぺろぺろぺろぺろ、と舐めている人物に口答えできるワケがない。
……いろいろな意味で、怖すぎて……。
――魔弾、
対戦車用砲弾の一つである。劣化ウラン弾の技術を応用し、造り出された、魔弾。
ウラン鉱石を精製した後の純粋ウランからウラン濃縮を行い、核燃料としての低濃縮ウラン燃料を得た後に残る
主水が造り出す魔弾、
その製造工程で副産物として低純度の高次元物質が含まれた、血液粉末が造り出されてしまう。
主水は勿体ない。から、と。低純度の血液粉末を利用した魔弾を造り出すことにした。
そして――魔弾、ペネトレイトが造り出された。
効果、
命中した弾丸の持つている運動エネルギーを熱エネルギーへと変換し。先端部分の一部が溶解することで、弾頭形状が鋭利に変化する。
弾丸の性質特徴としては、
弾丸の威力とは、持っている運動エネルギーを撃ち込んだ相手の体内で、どれだけ放出できるかで、だいたい決まる。
弾丸が抜けるというのは、体内で運動エネルギーを放出させていないことになる。
だからと言って。
弾丸が抜けたから致死率が下がることはなく。入射角度や速度、人体に被弾した箇所。その他、もろもろの状況によって――死ぬときは死ぬ。
主水のもう一人の恋人。ではなく相棒、ワルサーPPKから撃ち出される
ただし、傷の治りが遅いで終われば――ペイン・バレットと呼ばれることはない。
――――とてつもない苦痛を相手に与えるのである。
皮膚に擦るだけでも常人なら、悶絶。例えるならば、生きたままノコギリで、斬られたと想像すれ……ば…………。
そして、
被弾したときは、体のなかをギザギザの刃が斬り刻みながら抜けていく。痛みだけでも、人体にとって不愉快極まりない感覚。に、貫かれるのおまけ付き。
運良く、気絶できれば幸運。
痛みに対して訓練された屈強な兵士たちでさえ、その痛みに耐えきれず、大声で泣き叫ぶ始末。
魔弾、
魔闘士として力を失って。少女、アニー・ヴルガータになっても。
なお、
魔闘士である気高さを失っていない証拠であった。
だからこそ、
魅入られたのかもしれない。
災難を与える勇ましき者――黒闇天の勇者に。
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