信仰心とは何か。端麗な文体で綴られる、神と童子と鬼と人間の物語。

「沈み鳥居」とは、日本の弁天池に実在する名所です。
桃色のスイレンが水の面を埋め尽くす池に鳥居が半分、沈んでいます。
その幻想的な風景に息吹を与えられて紡がれる物語世界には、浮世離れした美貌の、しかしながら人間味を感じさせる個性豊かなキャラクターが生きていました。

崇拝される弁財天と、弁財天に仕える十六人の童子が居ます。
弁財天と言えば、七福神に名を連ねる女神。
此処では叡智と音の神、同時に戦闘神として描かれています。
童子は、この物語の中で、神に仕える眷属(従者)です。
童子は人並み外れた「力」を有しており、神に近い存在。
弁財天の庇護の許、特に「力」をそそがれているのは生命童子。
その「力」は弁財天と繋がっているかぎり強い効力を保っていましたが……。
弁財天の加護を受ける平和な世界に根拠のない噂が立ち、やがて鬼が現れて崩れていきます。

噂話に踊らされた人々。神への信仰心が無くなろうかと危惧されるとき、弁財天の生命の焔は、淡く儚く透きとおる。
信仰を失った世界で神は消えてしまうのか。
神の寵愛を受けた童子たちの運命は如何に。

冴え冴えとした感性と筆力が、水の面を蔽うスイレンのように美しく開花します。
作者様の精神性が優位に感じられる昔々の物語。
是非、ご一読ください。

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