ひっそりと沈む鳥居に隠された美しく残酷な物語

弁天池の睡蓮に隠れるようにひっそりと佇む「沈み鳥居」。
そこにはどのようなドラマが潜んでいるのでしょう。

弁財天に仕え、人々を苦しめる鬼を退治する童子たち。その中でひときわ弁財天から愛された生命童子がこの物語の主人公です。

美しさと凄惨さ。
表と裏。
善と悪。

二つの背中合わせのものが物語に深い陰影を与えます。
弱者の面をかぶりつつも、日和見主義で簡単に真心を裏切ることのできる人間たち。
その心を反映するように影が薄くなってゆく弁財天。
内側の憤りと哀しみが外側を鬼のかたちへと変えていく恐ろしさ。
その映像的な描写にはとにかく引き込まれること間違いありません。
流麗であるとともに凄味があり、色気さえ漂う筆致です。

生命童子が辿る運命とは。
「愛してはならぬものを愛した罪」とは何を意味するのか。
それはこの物語の果てに明らかになることでしょう。

衆道やBLといった言葉に臆して遠ざけるのはあまりにも勿体ない、どっしりとした読み応えのある伝奇小説です。

「深緋に染まる太陽を瞳の奥に隠し、この世の終わりまでも見据えているかのように真っすぐだ──」

主人公を端的に表す一文です。
あなたもこの生命童子の美しく残酷な運命を見届けてみてはいかがでしょうか。

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