真っ直ぐな少年が、世界の謎と現実に立ち向かう王道ファンタジー

舞台は、「白軍」「黒軍」と呼ばれる二大勢力が戦争を繰り広げ、不気味に息をひそめるもう一つの勢力「中央」が暗躍する世界。主人公の少年ランテは記憶喪失で、倒れていたところを白軍の一部隊に拾われるところから、物語が始まります。

何も知らないランテの視点に合わせて、RPGをプレイする感覚で開けていく序盤は、謎解きも多く含まれているので、考察を楽しみながら読み進められます。また、彼を囲む様々なキャラクターが顔を見せてくれます。人望が厚い実力者で、ランテを拾ってくれたセト、厳しくも優しい面を見せる女性の槍兵ユウラ、穏やかだけど実は鬼教官のテイト。ランテは彼らと、仲間として絆を深めていきます。

白軍にいる以上、ランテは黒軍との戦いや、何かを企む中央と関わり、巻き込まれ、けれど自分の意志で身を投じます。そんな彼の前に現れるのが、儚く不思議な雰囲気をまとった少女ルノア。彼女はランテが戦いに赴くことを嫌がっているようですが、いつも謎めいた言葉を残して去っていく。眼差し一つで心を捉えるような彼女に止められながらも、ランテは歩みを止めません。

そんな彼の行く先には、辛いこと、悲しいこと、苦しいこと、痛ましいこと……真っ直ぐすぎる彼には強く響く、暗い展開が待ち受けています。ランテだけでなく、彼が大事に思う仲間たちにも。個人だけでなく、仲間としてのこれからにも。

思い合うのにすれ違い、届かない。誰もが誰かを思いながら、けれどそう上手くはいかない関係。一人の中に秘められた複雑さや葛藤まで、丁寧に描かれています。だからこそ、キャラクターたちが愛おしく、身近にいるようで、肩入れせずにはいられません。

世界に秘められた謎、その答えに、ランテたちは傷だらけになりながら、それでも逃げずにどう向き合うのか。まだまだこれから、追いかけがいのある王道ファンタジー、ぜひご堪能ください。

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