想っているから、譲れない。信念と矜恃の物語!
- ★★★ Excellent!!!
記憶喪失の状態で目覚めた主人公ランテ。親切な軍人たちに無事(?)拾われ、彼は寝床と仕事を得ます。任務をこなしていく日々の中でやがてランテは自身に宿る力に気づき、世界を巡る陰謀へと足を踏み入れていく――という王道ファンタジー。
軍や政治が息づく骨太な世界観。ですが何も知らないランテの視点を借り、順序よく読み込んでいけるのが心地よいです。剣や槍を使った豪快なアクションに加え、『呪』と呼ばれる魔法のような力が活躍。しっかりとしたファンタジーを魅せてくれます。
天真爛漫で好奇心旺盛なランテは主人公として申し分ないですし、彼を取り巻くキャラクターたちも本当に魅力的。ランテを優しく導いてくれる兄貴分のセト、強気だけど面倒見の良いユウラ、そして柔らかい物腰と手厳しい指南術をもつテイト(推し)。彼らが所属する北支部をはじめ、ほかの支部の面々も実にバランスよく個性的な人々ばかりです。これほどの登場人物を的確に動かしつつ個性付けができるだけでも、作者さまの筆力の高さが窺えます。
そして何より、熱いストーリーが一番の魅力!この世界は「白軍」「黒軍」という二大勢力に分かれて長い争いを続けているのですが、それに身を投じる人々にはやはり強い信念が宿っています。自分のため、大切なひとのため――そして、世界を変えてしまうほどの欲望のため。全員が何らかの意思を貫くため、誰かとぶつかっていく展開はアツいの一言。一度は剣を交えた者同士が組むことになったと思えば、寝食を共にした者と袂を分かつ厳しい場面もあり、1話たりとも見逃せません。
決して単純明快な物語でもなければ、一発逆転の爽快さを求める話でもありません。幾多の苦難と、正解の出せない問題が次々に襲いかかってくるような厳しさをもつ物語、という印象が強いです。
けれど読み進めてしまうのは、この争いの果てに何が待ち受けているのか――そして愛してやまないキャラたちが、それぞれにどんな結論を出すのか気になって仕方ないから。絶対に最後まで追いかけたい!と思わせてくれるパワーがある作品です。
秋の夜長にぴったりな読み応えのある深い作品をお探しの方に、ぜひ!