愛のために世界を滅ぼす男 vs 愛のために世界を護る男
- ★★★ Excellent!!!
天界ラスティーン。天空に浮くその国は、有翼人種の住む美しい国である。その深窓の姫レティシアは、体内に「月の結晶石」を宿している。月の結晶石とは、長い長い時間をかけた月の魔力を結晶化したものだが、それはかつて世界を奈落の底に突き落とした月下大戦の名残でもあり、いまなお世界を滅ぼし得る危険を秘めたものだった。
持ち主の願いを叶える石。そう聞いたとき、あなたは何を連想するだろうか。個人的な三大欲求だろうか。世界を手中に収める権勢欲だろうか。かつての月下大戦、その火蓋を切った魔王が求めたのは、一人の女性を救うこと、つまり、彼の願いとは愛に他ならなかった。
すべてを犠牲にするほどの愛は、当然、他の人間の願いとは衝突することになるだろう。そう、この愛の成就を阻まなければならない者こそが、この物語の主人公アレスだ。彼は、レティシアを魔手から救うために奔走する。これもすなわち、愛のため。
この作品は、愛ゆえに世界を滅ぼそうとする男と、愛ゆえに世界を護らねばならない男の戦いを描く物語だ。その中心に立つ女性たちもまた強い信念をもって事態に向き合う。決して生きやすい世界ではないが、それでも〈生きよう〉と願うとき、そばにいるのはやはり愛する者だろう。
鮮やかな情景、苛烈な戦闘、たおやかな心の動きを巧みに描き出す作家の手腕に注目されたい。グロテスクな場面を描かせたら右に出る者がいないのが月音さんだが、繊細な心情描写も同じだけ得意としている。変なひとだ。
2022年8月現在、完結まではまだ時間がある。ぜひご一緒に、アレスとレティシアの旅路を見届けよう。