第29話 冗談
「はぁ~、カルメさん綺麗でしたねー」
それでなくても、絶世の美女だった彼女が純白のドレスまで身に着けていたのだ。
溜息を出すなと言う方が無理な話である。
荘厳な聖堂で行われた結婚式は本当に素晴らしいもので、タラハシとカルメさん、二人とも本当に幸せそうだった。
「でも結婚パーティーはないんですね」
「この国だと、早く夫婦を2人にしてゆったりさせて上げようってのが通例だからね」
まあ確かにそうなのかもしれない。
周りから祝福されるのも悪くはないが、結婚したんなら二人っきりになりたいと思うのが人情だ。
私も王子と結婚したら……
「はいはい。変な妄想してだらしない顔しないの」
「あ、すいません」
考えていた事が顔に出てしまった様だ。
「少し気が早いわよ」
「へへへ」
私とクプタ王子の婚約は、もう正式に取り決められている。
ただ第一王妃に当たるロザリア様がまだ成人していないので、結婚は彼女の成人待ちだった。
流石に第二夫人が正妃である彼女より先に結婚するのは不味いので、まあ仕方のない事だ。
まあ待つと言っても、後1年とちょっとだし。
早くその日が来るのが待ち遠しい。
「所で、貴方の以前いたカサンで王位継承が行われたのは知ってる?」
「いえ、そうなんですか?」
まあ国王陛下は60近い高齢だった。
いつ跡継ぎに譲ったとしても、おかしくはない年齢だ。
王位継承が行われても不思議では無いだろう。
「なんでも国王が崩御して、第二王子のカンダダ王子が王位を継いだそうよ」
「えっ!?」
崩御にも驚いたが、思わぬ名前にギョッとした。
不細工な顔で迫られた事が脳裏にフラッシュバックして、不快な気分になる。
「冗談……ですよね」
「第一王子は少し前に病死しているそうよ」
第一王子は、第二王子のカンダダとは似ても似つかない精悍で男らしい感じの人物だ。
婚約パーティーで見かけた際は、病気を患っていた様には見えなかったのだが……
「国王と第一王子は暗殺されたんじゃないかって、ちょっとした噂になってるそうよ」
「暗殺……」
第二王子のムカつく顔を再度思い出す。
確かにデリカシーの無い非常識な男ではあったが、いくら何でも暗殺までするだろうか?
まああくまでも噂は噂。
気にしても仕方のない事だろう。
「しかしロザリア様、よくそんな情報をご存じですね」
私も大賢者と言う立場上、色々な情報に対して敏感にアンテナを立てている。
だがカサンは此処から遠く離れた国だ。
そう気軽に情報は入って来ない。
そんな国の情報を彼女は何処から仕入れて来るのだろうか?
それが不思議でしょうがない。
「うふふ、内緒よ。まあBLネットワークとだけ言っておこうかしら」
「ああ、成程」
この国ではそれ程でもないが、近隣の国ではBLはちょっとしたブームを起こしているそうだ。
実際、ちょくちょく他国の貴族の子女が遠路はるばるやってきては、ロザリア様と面会されている。
きっとその辺りの繋がりで得た情報なのだろう。
「どうする?ターニアは俺の婚約者だから返せとか、カンダダ王子に言われたら?」
「えぇぇ……嫌な事を言わないでくださいよぉ」
考えるだけでも怖気が走る。
マジ勘弁です。
「あはは、ごめんごめん。冗談よ冗談。でもターニアはうちの大賢者として有名になっちゃったから、向こうは絶対こっちに気づいてるはずよ。嫌味ぐらいは言われるかもね」
まあ確かに。
腕吹き飛ばしちゃってるし……自業自得とはいえ、絶対恨んでるわよねぇ。
あたしの事。
「そうですね。何か言いがかりを付けられるかもしれないですし、クプタ王子にも相談しておきます」
「おやぁ、王子と会うための口実かしら」
ロザリア様が口元を手で覆って、意地悪に笑う。
「ち、違いますよ!」
私はそれを手を振って否定しておく。
まあ確かに8割ぐらいは王子に合うための口実ではあるのだが、残り2割程度は本当に心配しての事だ。
「そう、じゃあ後で二人で相談に行きましょうか?」
「え!?」
「あ!凄く嫌そうだ!」
「そそそ、そんな事は!!」
「ふふふ。ほんっとターニアは分かり易くって、揶揄い甲斐があるわね」
「勘弁してください」
やれやれ、ロザリア様の冗談には毎度焦らされる。
困った物だ。
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