第31話 取り敢えず

「うーん……意図がまるで分らないわね」


カサン国王から使者が遣わされ。

国王――カンダダから大賢者に当てた手紙が手渡される。

私はその中身を閲覧して首を捻った。


あの王子が態々手紙をよこしたのだ。

それはきっと、碌でもない物だろうと覚悟して私は目を通したのだが……


前王は許したが、代が変わり、お前の犯した罪を追及する事もやろうと思えばできる。

手紙にはそう記されていた。

まあこれは脅しだ。

此処までは分かる。


問題はその後だった。


そうされたくなければ、我が国とタラハの交易の仲立ちを受け持つ事。

特に紙類やロッザリーニなる人物の発刊している書物を優先的にカサンへと輸入する事が出来れば、全ての罪を不問とする。

そう書かれていた。


もう一度首を捻る。


真っすぐに捉えるなら、紙を送れと言う事なのだろう。

だがそんな物を手に入れて、カンダダは一体どうするつもりなのだろうか?

それが分からない。


因みにロッザリーニはロザリア様のペンネームだ。

流石にあの内容の書物を、次期王妃である彼女が実名で書くわけには行かないので、ペンネームを使っている。


「どうした物かしら」


無視したかったが、使者が私からの返事を待っているためそうもいかない。

何らかの答えは出す必要があるだろう。

困った私は、クプタ王子とロザリア様に相談を持ち掛けた。


「成程ね。文字面通りなら、紙が欲しいって事なんだろうけど……」


「違うわね!」


私と同意見のクプタ王子の言葉を、ロザリア様はきっぱりと否定する。

彼女の態度は王子相手でも容赦がない。


「カンダダって男は女好きなんでしょ?だったら答えは出てるじゃない!意中の女性が私の作品のファンで、きっとその女性を口説く道具にしようとしてるのよ!」


「……そうですね」


お馬鹿な答えに、適当に返事を返す。

一国の王が、女性を口説く為だけに交易を開くなどありえない。

それはいくらカンダダでもそうだろう。


「何よ!その気の無い返事は!私の推理に隙は無いわ!」


「まあその可能性も考えられるけど。常識的に判断するなら、紙を取り入れて自国の文化水準の上昇を狙っているとかかな。書物を増産すれば、知識を蓄積しやすいからね」


王子もサラリとロザリア様の言葉を流した。


「やっぱそうですかねぇ」


以前の一件が尾を引いて、どうしても裏を疑ってしまう。

だが冷静に考えればその辺りが妥当な判断だ。

何でオマケとはいえ、ロザリア様のBL本の事が書いてあったのかは謎だが。


まさか本当に意中の相手に……いやまさかね。


「取り敢えず、カサンとの交易の兼は僕から父上に話してみるよ。ただあまり無茶を吹っかけて来るようなら、色々と考えないといけないけどね」


「有難うございます、王子」


タラハからすれば、遠く離れたカサンと交易するメリットは特にない。

だが私のためにそれを用意してくれようと王子が配慮してくれたのが、純粋に嬉しかった。


「気にしなくていいさ。君はこの国にとってなくてはならない存在だ。それに……将来の僕の妻でもあるからね」


「……」


王子の口から妻と言う単語がでて、恥ずかしくなって俯いてしまう。

ロザリア様の誕生日も近い。

私と王子の婚礼もそう遠くはない未来だ。

それを想像すると、頭に血が上ってくらくらする。


「ちょっとクプタ!私も将来の妻なんだから、私の意見も少しは真面に聞きなさいよね!」


「いや、まあ君は特殊だから……」


「誰が特殊よ!全く失礼しちゃうわ!ターニアもそう思うでしょ?」


「ええ、そうですね」


私はその問いに、感情の籠らない棒読みで返す。

すると彼女に恨めし気に睨まれてしまった。


ひょっとしてロザリア様は自分が特殊――どころか特異レベルだと言う事に、本気で気づいていないのだろうか?

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