第14話 防護服

「そういう事なら任せて!」


王宮の庭園でくつろぐロザリア様に事情を説明すると、胸にどんと手を当て快諾が返って来る。

どうやら彼女は病気を退ける何か良い物を知っている様だ。

相談したのは正解だった。


「材料を確認してみるわ」


ロザリア様はそう言うと、目を閉じた。

彼女の錬金術は、作り出す物からその素材を逆引きする能力があるらしい。


「うん、家である材料で大丈夫そうよ!早速向かいましょう!」


「分かりました。では御手を」


「うん?手?何で?」


「空を飛んでいきますので」


馬を走らせるより飛んだ方が早い。

残されている時間が僅かである以上、一分一秒でも急ぎたかった。


「え!?ほんとに!!やったーー!!」


ロザリア様が目を輝かせて喜ぶ。

空を飛べるのが純粋に嬉しいのだろう。


だが――


「し、死ぬかと思った……」


屋敷について彼女を下ろすと、その足元はおぼつかない。

かなりスピードを出してきたたため、体への負担が大きかったのだろう。

訓練している自分を基準でやらかしてしまった。


「す、すいません!つい焦って急ぎ過ぎてしまいました」


大貴族の令嬢に無茶をした。

しかも仕事をさぼって。

もしロザリア様が苦情を出したら私は首ものだろう。

そうならない様、必死に頭を下げる。


「いいのいいの。事態が事態だししょうがないわ」


そう言って、ロザリア様は笑って許してくれる。

彼女は屋敷に入ると出迎えたメイド達に指示を出し、私を連れて例の倉庫こうぼうへと向かう。

私達が中に入るのと同じぐらいのタイミングで指示を受けたメイド達が駆けてきて、中央の敷物の上に木やら鉱物等を置いて去って行った。


「さて、それじゃあ魔力をお願いね」


「あ、はい」


ロザリア様の肩に手を置き、魔力を譲渡する。

前回の大物とは違い、今回は人が身につける物サイズなので大して魔力が要らない様で、魔力の供給は直ぐに終わった。


そして彼女は振り返り――手を合わせる。


前回同様素材が光を放ち、それが収まった時には人型をした服と、その横に管の付いた謎の器具、それに中心に穴が開いた円型の青い物と、針の付いた細い管が出来上がっていた。


「これを着て、このマスクを頭から被る。で、この青いのはテープって言って、これで繋ぎ目を塞げばどんな菌やウィルスもばっちりよ」


菌やウィルスと言うのがよく分からないが、恐らく病原体の事だろう。


「これが……」


手に取るとごわごわした素材だった。

胸のあたりにチャックと、ペタペタとくっつく仕掛けが施されている。


「ありがとうございます!それじゃあお借りしますね!」


「ああ、待って。これも一応持って行って」


そう言うと、ロザリア様は針の付いた筒を私に渡してくる。

中には液体が満たされていた。


「ペニシリンって薬なの。効くかどうかは分からないけど、一応持って行っておいて」


「わかりました」


道具の使い方や服の身に着け方をササッと教わった後、急いで王宮へと戻った。

私は令嬢の屋敷の在り処を知らないので、まずはタラハシを探す事にする。

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