第12話 出戻り

休憩中、ある話を耳にする。

それはレブント帝国に嫁いだ令嬢が病にかかり、嫁ぎ先から三下り半を突き付けられたという話だった。


それは帝国に古くからある風土病で、かなりきつい病気らしい。

全身腫れあがって醜い化け物の様な姿に変わり、しかもかかると長くは持たないといそうだ。


治療方法は確立されておらず、かかれば数か月で死に至る病。

そんな状態で、その貴族の令嬢は嫁ぎ先から放り出された。

幾らなんでも嫁ぎ先が糞過ぎる気もするが、まあ最後は生まれ育った実家でと言う配慮の可能性もあるので、何とも言えないが。


「まあでも、自業自得ですね」


部下の1人が、その貴族の令嬢には同情出来ないという。

理由を聞いてみると……それは先日ロザリア様から聞いた、タラハシを捨てた女性である事が分かった。

どうやらこの国――少なくとも王宮周りではかなり有名な話の様で、令嬢に対して良い感情を抱いている人間はいないそうだ。


――それも女性は特に。


私は知らなかった――と言うか興味なかったが、どうやらタラハシはかなりモテるらしい。

そして目の前の部下も彼の熱烈なファンらしく。

その冷たい態度と、庇護欲を誘う過去とのギャップがたまらないとの事だ。


後、顔もいいからと彼女はささやかに付け加える。

気まずそうに付け足した当たり、顔ありきの話だとは思うが、まあそういう野暮な突っ込みはしないでおこう。


「まあでもだからって、酷い状態になって苦しんで死ぬ程の罪がその女性にあるかと言われたら流石にそんな事はないでしょ?」


「まあそう言われるとそうですね。軽率な発言でした。すいません」


私に謝られても困るのだが……

しかしタラハシは今どんな気分なのだろうか?

自分を手酷く振った女性がもがき苦しんで、ざまぁと思っているのだろうか?


それとも……まあ考えても仕方ないか。

それは私の関わるべき事ではないのだから。


「さて、休憩はここまで。仕事に戻りましょ」


パンパンと手を叩き、休憩の終わりを告げる。

私は自分の机に向かい、研究を再開する。

野菜を大型化する為の研究を。


この時、私は夢にも思わなかった。

自分に関係ないと思っていたその事が、後に帝国とタラハに大きな軋轢を生みだす事を。


そして私がそれに大きく関わる事になる。

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