第23話 大賢者
「軍事演習……ですか?」
「ああ」
魔導長官に呼ばれて執務室に向かうと、そこでレブント帝国が国境付近で大規模な軍事演習を始めたと聞かされる。
その為、国境ギリギリに大軍――タラハ的には大軍だが帝国的にはそうでもない――が集結しているそうだ。
勿論それはタラハに対する示威行為に他ならない。
その気になればいつでも滅ぼせる。
そういう事だろう。
実際帝国とタラハでは、国力に十倍以上の開きがある。
戦争になれば万に一つも勝ち目は無いだろう。
まあ勿論、それは私の力抜きの話ではあるが……
とは言え、仮に私が全力を尽くしたとしても、それでも勝機は五分五分がいい所だろう。
私は無敵でもなければ魔力も無限では無いので、流石にほぼ一人で帝国全軍を相手にするのは難しい。
「それで、君には国境警備に当たって貰いたいのだ。大賢者として」
国境警備は分かる。
此方の対応如何では本当に戦争になる可能性がある以上、国境に集まった兵士が急に雪崩れ込んで来た際の対処は必要だ。
それ様に力を当てにされての事だろうが……
「大賢者……ですか?」
巷では、私が大賢者と噂されているのは知っている。
研究室の子達や、ロザリア様がそれはもう嬉しそうに話してくれるから。
だがそれは只の噂話でしかない。
それを大賢者として、などど長官から言われるとは思いもしなかった。
「国から正式に、君に大賢者の称号が付与される事になった。それだけ今回の問題に君の力が期待されている証だ。少々重荷かもしれんが、タラハ国の大賢者として頑張ってくれ」
「わかりました」
私はその旨を了承する。
状況的に旗印が欲しいのだろう。
大国に睨まれている以上、国民の不安は大きい。
それを払拭する為の旗印が。
「大賢者就任に当たって、君に最初に求められる任務は示威行為だ」
「了解しました」
分かり易い大きな力は軍事力であると共に、抑止力としても機能する。
大賢者を敵に回すと痛い目に遇うと相手に知らしめ。
此方が只の弱小国でないと認識させられれば、相手も迂闊には手出しが出来なくなるだろう。
「大賢者就任式は明日執り行われる。今日は一日休みだ。自分の意思で自由にしてくれていい」
「はい」
私は敬礼してから執務室を後にする。
長官は自由にしていいと言っていた。
これは休日を楽しめと言うのではなく、もしこの国を出るなら、今日が最後のチャンスだぞと言う心遣いだろう。
生まれ故郷でもないこの国の窮状を無理やり押し付けるのを良しとせず、私に自分で選ぶ機会を与えてくれたに違いない。
なんだかんだ言って優しい人だ。
「ま、普通の休日としてゆっくりさせてもらいましょ」
戦争になれば、私は旗印として前線に立つ事になる。
命を危険に晒し、更に大量の命を奪う事にも。
だがその全ては、もう既に覚悟済みだ。
この国に来て、クプタ王子を好きになった時に全て。
私はこの恋に全てをかけると決めている。
だから王子の為に、私は出来る事全てをするつもりだった。
「就任式か……だとしたら王子に会えるわね」
でも、大賢者ってどういうポジションになるのだろうか?
かなり高い地位になるのなら、王子の第二夫人もワンチャン出て来る。
そう考えると、悪い事ばかりではない。
そんな事を考えながら、私は私室へと帰るのであった。
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