第8話 ピクニック
「素晴らしい天気ですね!」
晴天の青空を見上げて叫ぶ。
王子達とのピクニック。
久しぶりに王子の顔を見た私のテンションは爆上げだ。
「何がそんなに嬉しいんだ」
タラハシがしかめっ面で私を睨み付ける。
これでこの男さえいなければ最高なのだが。
「あら、天気がいいのは良い事よ。タラハシは雨の方が好きなの?」
ロザリア様が、嫌味たっぷりなタラハシを窘める。
「いえ、そういう訳では……」
「ははは、折角のピクニックだ。楽しくやろう」
太陽の下、その太陽にも負けない程クプタ王子の笑顔は眩しい。
此処に誘ってくれたロザリア様には、感謝の気持ちでいっぱいだ。
因みに今、この場には私と王子。
それにロザリア様とタラハシの4人しかいなかった。
王族の外出ともなれば、普通はもっと物々しく護衛が付くものだ。
だがここは貧しい小国タラハ。
そんな国の王子の命を狙う者もなく。
こうやって4人――私とタラハシは護衛役――でピクニックに出掛けていた。
「しかし、便利な魔法だね」
王子が私の魔法を褒める。
今使っているのは収納の魔法だ。
ピクニックで必要な荷物は、この魔法で全て謎空間に収納してあった。
「はい!私が生み出した魔法です!」
王子に褒められ、嬉しくてついつい声を張り上げる。
飼い主に撫でて貰った犬が狂った様に尻尾を振るが、気分はきっとこんな感じなんだろう。
因みに、収納に使っている空間の事は実はよく分かっていない。
生み出したのは私だが、まあ取り敢えず便利だから使っているという感じだった。
そのため、余り大事な物を入れるのはお勧め出来ない感じである。
まあだがピクニック道具ぐらいなら問題ないだろう。
無くなった所で大した支障はないし。
「他の魔導士達も使えるようになるのかしら?」
「それはちょっと難しいかもしれません」
空間に干渉する高位魔法であるため、その魔力消費はすさまじい。
並みの魔導士では魔力が足りず発動させる事は難しいだろう。
「それは残念ね。その魔法が使えたら関税をちょろまかす事も出来るでしょうに」
タラハは周囲を峻厳な山々に囲まれている為、全ての交易は南にあるレブント帝国を経由する必要があった。
だが帝国は軍事に優れた強国であり、またそこを経由しない事にはタラハが何処とも繋がれないのをいい事に、出鱈目な関税を吹っかけてきている。
タラハが国として貧しい一番の理由はこれだった。
「ロザリア様。それがバレれば戦争にもなりかねません。そのような魔法はない方が宜しいかと」
タラハシが私を睨む。
まるで魔法が存在する事自体、悪い様な態度だ。
流石にムカついたので睨み返してやった。
「まあまあ、そういう話はまた今度にしよう。ここへは楽しみに来たんだから」
「そうですわね。取り敢えずお茶に致しましょう」
そう言われてテーブルと椅子、上に引くクロス、それとティーセットを私は謎空間から取り出した。
タラハシは手伝うそぶりも見せないので、一人でセッティングしようとしたら王子が「手伝うよ」と言ってくれる。
やっぱりクプタ王子は凄く優しい。
「王子がその様な事をなさらなくても!?」
「こういうのは準備を含めて楽しむ物だよ」
王子がそう言ってウィンクする。
タラハシには勿体ないので私にしてください!
などと思ったが、勿論口にはしなかった。
結局タラハシも手伝う事になってしまったのがアレだったけど、私は王子と一緒に作業が出来て幸せだった。
その後の紅茶も、王子との談笑も最高の物で、若干タラハシが鬱陶しかったが概ね最高のピクニックだったと言えた。
恋敵同伴というのがあれだけど、ロザリア様には感謝しなくっちゃね。
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