第10話 錬金術
翌日、私は約束通りロザリア様の屋敷へと向かう。
屋敷は王宮から少し南にあり、建物に関しては……まあ何とも言えない規模だった。
元居たカサン基準だと、中堅貴族の屋敷レベルと言った所だろう。
別に貧相と言いう訳ではないのだが、ロザリア様のロレンス家が国の有力貴族だと考えると、国力の貧弱さがもろに出ている感じではある。
まあそれはこの屋敷に限った話ではなく、王宮に関してもそうではあるが……
「ようこそ!ロレンス家へ!」
門番に案内され屋敷の中に入ると、ロザリア様に出迎えられた。
その背後には従者がずらりと並んでおり、私に向かって一斉に頭を下げる。
「さあ!こっちよ!来て!」
私はそのまま手を引かれ、屋敷の奥。
その裏口から外に連れ出された。
裏手には大きな蔵があり、ロザリア様は私をそこ連れて行く。
「ここは……」
壁際にはよく分からない機械類が並んでいる。
蔵の中央には大きなシートが敷かれ、その上に山の様な鉱石や植物類が積まれていた。
此処は一体?
「ようこそ!私の錬金工房へ!」
そう言うと彼女は私の手を放し、両手を広げて見せる。
工房と彼女は言っているが、周囲に置かれた謎の機械は兎も角、真ん中に積まれた物を見る限り、およそ何かを生み出す場には見えなかった。
良く言って物置と言った所だろうか。
「それじゃあさっそく始めましょう!転生者が力を合わせて刻む――歴史的な偉業を!」
偉業とは大きく出たものだ。
まあ遊びなのだから、少しぐらいオーバーな方が盛り上がるのだろう。
取り敢えず、私は固唾を飲み込むふりをしてロザリア様の次の行動を待った。
「さあ!」
さあ!と言われても……彼女は床に積まれた物の前で仁王立ちしたまま動かない。
私の方からアクションを起こさなければならないのだろうが、正直何を求められているのか分からないので、その呼びかけに答えるのは難しいのだが。
「えっと……私はどうすれば?」
取り敢えず聞いてみた。
「昨日言ったじゃない。魔力をお願いよ」
「ああ、成程」
錬金術には魔力が必要だと言っていたのを思い出す。
私は頷いてロザリア様の肩に手を置き、魔力を流し込んだ。
「これぐらいで良いですか?」
「まだよ!まだまだ足りないわ!」
既に一般的な魔導士2-3人分の魔力を流し込んでいるのだが、彼女はまだ足りないと言う。
幾ら魔力を流し込んでも、受け止める器が無ければ受け止めきれずに溢れ出すだけのだが。まあ遊びに合理性を求めるのは野暮という物か。
取り敢えず、私は言われるがままに彼女の体へと魔力を送り続けた。
「チャージ完了よ!」
3分ほど魔力を流した所で彼女は大声を上げる。
そして背後へと振り返ったと思ったら、パシンと乾いた音を立てて勢いよく両掌を合掌させた。
「何がっ!?」
光が。
閃光と言っていいだろう。
強烈な輝きが背後に積まれた物から放たれ、私は余りの眩しさに目を閉じた。
それでも光を完全に遮る事は出来ず、瞼の裏が真っ赤に染まる。
暫く待つと光が収まり、私は恐る恐る目を開く。
「――っ!?」
そこには、先程迄なかった巨大な金属製の機械の姿が……
只のロザリア様のごっこ遊びだ思っていたが、突如表れた巨大なそれに私は思わず言葉を失ってしまう。
「これが錬金術よ!」
「……凄い……です」
凄い。
その一言以外に答えようがなかった。
まさかロザリア様にこんな力があったなんて……
「貴方の魔力があってこそよ。大型の機械を作るには大量の魔力が必要だったんだけど、普通の魔術師の魔力じゃ全然足りなくて困っていたの。貴方のお陰よ!」
「はぁ……」
お陰と言われても、それ程大した魔力は送ってはいないのでぴんと来ない。
それにしてもこの機械は一体なにをする装置なのだろうか。
「これはね!紙を大量生産する機械なの!」
私の疑問に答える様に、ロザリア様は機械をパシンと叩く。
結構勢いよく手を叩きつけてはいたが、興奮している為か痛みを感じてはいない様だ。
しかし紙か……
「羊皮紙では無くて……ですか?」
「そう!紙よ!それもお手軽簡単に!」
もしロザリア様の言葉が事実なら、それはとんでもない事だ。
紙は製造過程が複雑で、作るには高いコストがかかかってしまう。
その為値段は一般市民から見れば目玉が飛び出るほど高く、極一部の貴族が愛用する嗜好品に留まっている。
そんな高価で貴重な物を低コストで大量生産する事が出来たならば、この国の主要産業となってもおかしくないレベルの発明だった。
「さあ始まるわ!BLの夜明けが!」
ん?BL?
何それ?
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