こっそり守る苦労人 短編下。

(なんだこの槍は? 魔力がごっそり削れたぞ?)


肩を突かれた痛覚も忘れて、魔法使いは驚いた顔で槍を凝視する。咄嗟に魔眼で敵の動きを読み鞭を放ったが、その代償に相手の攻撃を避けれなかった。

痛覚はしっかりあるのに傷がないのも驚きだが、それ以上にその部位に宿っていた魔力だ。


(痛みはあるのにこれはどういうことだ?)


肩の部分に巡っていた魔力が貫かれた瞬間に蒸発して消えた。


(まさか対魔力無効化の粒子エネルギーか? 俺の魔力にも影響を与えるほどのエネルギー体ってことか?)


無属性の纏わせた手で槍を抜いたが、やはり傷どころか服すら無傷だ。

物質ではなく生命エネルギー体にも見える。掴めたことを考えると魔力で触れるのは可能なようだが。


(触れている手の魔力が少しずつ削れてる。……喰われてるみたいだ)


触れている部分の魔力が煙を上げて蒸発するので、長時間の接触は厳禁のようだ。

消耗していく魔力量を分析しつつ男は、頭の中で簡単に相手の能力を整理してみた。


(どうやらこの黒いのが消せる容量は、槍一本でBランク魔法くらい。ただし、それ以外の物質への干渉はほぼ不可能。人体に対してのみは、魔力以外に痛覚も与えるから直接受けるのは避けるべきだ)


適当に槍を放ると自然と消滅していく。対応の難しそうな能力ではあるが、ある程度の仕組みは理解した。


(黒いのは触れなければ問題はないが、身体能力も非常に高い。仮に接近戦になった場合も長く組み合うのはやはり危険が伴う。……なら)


発動させていた無属性の身体強化を切る。

瞬時に魔力を練り直すと、魔法を選択する。


『思ったより強いな。お前』


特に時間を稼ぐ意図はないが、立ち上がっても攻めて来ない相手に声をかけてみる。

相手の方は未だに黙ったまま静かにこちらを見ていたが、彼の声に反応したか僅かに目元がピクリと動いた。


『なぁに、少しくらい話しても良いだろう? 無言の対峙ほどつまらない展開はないんだ』


それが面白かったか、男は笑みを浮かべて話を続けた。


『急に呼び出されて驚いたが、なんだかんだ楽しかったわ。本気は出せないが、珍しい相手と戦えてホントに楽しめた』


「……粒子の塊か。こちら側とは違うチカラで構成された肉体か」


『ほぉ、この肉体にも気付いたか』


返答されるとは思わなかったか、少なからず驚いている相手に青年は淡々と答える。

ちょっとした気まぐれか時間稼ぎか知らないが、青年もそろそろ決着を付けるべきだと思ったのだろう。


最後の会話を楽しむつもりで男の話に合わせてみた。


「チカラその物の正体は不明だが、ある程度の計算は出来る。多少の誤差は出てしまうが、修正できるレベルだ。お前の肉体そのものにも同じチカラが含まれるが、それは肉体内部ではなく肉体そのもの。これは槍が手応えで分かったから、次に直撃すれば倒せれる自信が俺にはある」


『自信家か、いや、事実と言うべきか……自分の力に過剰評価するのは危険だと思うが?』


「違う、これは必然だ。自信など必要ない。今の俺はただ敵を倒すだけの存在。昔からそうしてきた」


『まるで傀儡だな。寂しくないか? そうやって戦うのは』


「戦いに寂しさなんているか? 寂しさで何かが変わるか? 感情一つで戦いが流れたらそれは敗北の道だ。戦いの中に私情を持ち込むなと言わないが、最低限の覚悟を持って行うことだ」


『口が回るようになったが、どれも辛辣だな』


「俺は自分をヒーローとは思わないし、勇者にも英雄にもなりたいとは思わない」


『……これは好奇心から出る質問だが、お前をそこまでしたのはそのチカラが原因か?』


「だとしたら?」


少し、ほんの少しだけ、青年から冷たい何かが男の心臓を激しく鳴らした。


(踏み込み過ぎたか。何があったか知らないが、アレはオレとは別の地獄を知っている目だ)


特大の地雷だと感じたが、男はあえて挑発気味に肩をすくめる。

この肉体でどこまで戦えるか分からないが、目の前の青年の本気を見ずには終われない。『簡単に壊れるなよ』と内心で呟くと、練り込まれた魔力を全身へ巡らせた。


『いや、何処かオレに似てるなと思って――さ!』


言い切ると魔力を爆発させた。

衝撃波が周囲の地盤を削る中、彼の中から二色の魔力が出ると混ざり合い新たな色を示す。


――赤色の火。

――黄色の雷。


二色が絡み合い遺伝子の螺旋状のように結合した。


それは『融合』だ。

魔法使いが扱う技法の中でも最上位の技法の一つ。


『どうやら……このレベルなら問題なさそうだ』


混ざり合ったそれは緋色の雷光となった。

男の体に纏うと緋色の雷が雷鳴を鳴らす。暴れたそうに地面を駆け回ると、青年にまで届かないが、新たな敵の変化に青年の表情が初めて険しい色が見えた。


『“緋天の皇蕾衣カーディナル・サンダー”……ちょっと痺れるが、構わないな?』


絶対痺れる程度では済まないと思うが、冗談気味に言う男に青年は歪めた顔を引っ込めて、再び冷たく感情が乏しい無のモノへと変えた。素早く臨戦態勢を整えた。


「……


告げると手に再び黒きモノを出現した。

何をするかと男が注意している中、天高く抱えげて身体中から何か目に見えない大きな力を放出させた。


『――っ!? なんて威圧感だ。やはり今までの本気じゃなかったのか!』


瞬間、存在感が異様に増したのを感じて、男の体に緊張が走る。

あちらも全力を出したか、警戒を最大まで引き上げると青年は黒く染まった手を掲げた状態でこちらを一瞥。


そして。


「【異能術式カードアンサー】――起動。身に纏え【黒雷迅鎧こくらいじんがい】」


緋色の雷と対立するように“黒き雷”を呼び出して、その身に纏わせた。


さらに左右から先程よりやや短な槍を生み出す。

先が鋭利なものとなって黒き雷を帯びた槍を構えると、冷たい瞳を男へ向けてこれまでで最大の威圧を浴びせた。


『……いい殺気だ。本当に久々だ』


しかし、男からは発せられる声に恐怖の色はない。

寧ろ歓喜に近い。普通の試合や殺し合いとも違う。純粋な戦いの中でここまで楽しめたのが、嬉しくてしょうがないといった顔であった。


『さてと……そろそろやるか?』


動くのは思ったよりも早かった。

今度は相手の返答も待たず、雷鳴と共に緋色の雷となって駆けた。


『ラァッ!』


あっという間に青年の真正面まで駆けると、反応が全く出来ていない彼の頭部めがけて、雷を込めた踵落とし繰り出す。

速過ぎて認識すら出来てないのか、青年は身動き一つ取らず振り下ろされた雷の鉄槌をもろに受け……。


『なッ!?』


が、直撃しそうになったところで、“黒き雷”が男を襲い掛かっていた。

まったく動こうとしなかった青年だが、寸前で“黒き雷”を躱そうと横に飛んだ男の背後へ回り込んでいた。


「“二双”」


『ヤバ――』


男めがけて二本の槍を振るう。

その体躯を斬り刻もうと神速の太刀を見せたが。


『――なんてな? そいつは分身体だ』


斬り裂いたのは魔法使いが生み出した分身体。緋色の雷となって消滅した。


手応えがなく違和感を感じて退避行動を取ろうとしたが、青年よりも速く男が背後を取っていた彼の背後を取った。


『ミスったな。使


魔法使いの手から出現した緋色の魔剣――“雷轟く緋天王の一振りカーディナル・エッジ”が背中から青年を貫く。

一応急所は外れているが、確実に決め手となる一撃だった。



……相手が彼でなかったのなら。



「ああ、だろうと思った」


『えっ!?』


バキバキッと金属が砕ける音がしたところで、魔法使いの魔剣が剣先から砕けた。

まさか砕かれると思わなかったか、男は目を見開いて僅かに隙が作ってしまった。


『――ガァ!?』


動きを止めてしまった男の脇腹に突き刺さったのは、一本の黒き槍。

鋭い脇腹の痛みに苦悶の顔をするが、同時に駆け巡る電撃の痺れが“緋天”を纏った男を追い打ちを掛けた。


『ぐっ……た、ただの雷じゃないと思ったが、貫通力も高いのか!』


「【】。とある王が使ってた能力さ」


青年は振り向きもせず律儀に答える。背後を取った相手に彼の行動は冷静であった。

握られた一槍を逆さにして脇の下から体を貫いた魔剣を逆に貫いて、動揺している隙にもう一本の槍を使い脇腹を貫いていた。


『動きを読んでいたのか。……オレの魔剣が硬度で負けるとはな』


痛みと痺れに苦しみながらも魔法使いは察した。魔剣が彼の体を貫いたように見えたが、実はそうではなかった。

槍の方が先に彼を貫いて魔剣の突きを返して砕いたのだ。


『普通なら出来てもやろうとは思わない。実際に貫通しなくても痛みはあるんだろう?』


殺傷能力がない槍だった為に怪我はないが、魔剣を砕いて体から貫通した槍は、突き刺した部分から煙を出している。

どうやら彼自身も体内から異能の効果を受けると、同じようにチカラを削られるらしい。苦悶の顔こそ出てはいないが、脇腹を込められた力は槍を深々と貫こうとする。


『っ――また無言かよ!』


砕けた魔剣を捨てて男は退がろうとしたが、待っていたように“黒き雷”が体全体に駆け巡る。

“緋天”の魔力でガードしたが、それでも消耗が激しく身体の至るところから煙が上がり目眩すら起きてしまう。


「【―始槍しそう黑槍貫通こくそうかんつう】」


思考が鈍る中、青年がさらなる攻撃を仕掛けようとした。

突如出現した無数の投槍と二槍から繰り出された突きの連撃が男の体に深々と突き刺さった。


『がぁああああああ!?』


貫通する度に全身から煙上げる魔法使いと消えていく槍。

両手にある雷槍は雷を帯びていたからか、消滅することはなく何度も何度も男の体に鋭い突きを浴びせた。


(ああああッ! 容赦ないな!? 少しは戦いを楽しもうとか考えないのか!?)


血飛沫どころか服すら傷付かない。突き刺さった箇所から煙が上がるのみだが、突かれる度に男の魔力と精神力が容赦なく消耗する。

痛覚も増して意識が闇に落ちそうになり、男の方も楽しむことを忘れて本気で焦り出した。


『うッ……“緋蕾降臨ヒライコウリン”っ!!』


もはや無理矢理魔力を解放する以外に方法がなかった。

意識が飛ぶ前に“緋天”の魔力を爆発させて、飛んでくる無数の槍を払う。向かって来る連撃ごと青年を押し返した。


『鬱陶しいわっ!』


「ぐっ……!」


至近距離からの魔力爆発の反動で青年の体が大きく吹き飛ぶ。

が、纏っていた“黒き雷”の影響したか、雷の如き速さで体勢を戻して着地すると、すぐさま二本の雷槍を構えた。


「“二双・雷伸”」


『甘いわ!』


距離を取った状態で左右の雷槍の先端から鋭い黒き雷の飛ばすが、放出量が増した男の緋色の雷が全てを弾いてしまう。……攻撃力だけでなく防御力も数段増していた。


「まだ足りないか」


ならばと二槍を消した青年は、右手を構えて体内の『心力』と“黒き雷”を集め始める。

相手の守りは、もう雷槍でも貫けない強度に達している。纏っているチカラの大きさがこれまでと明らかに違っている以上、男の肉体にまで届かせる一撃が必要だった。


最大の遠距離技を繰り出す為に“黒き雷”を右の手のひらに収束させた。


しかし、それを黙って見ていた男から不穏な気配が出始めた。


『……いいのか? 確かにそれくらいは必要だが、これを受けたらさすがに死ぬぞ』


忠告する男の手のひらには、緋色よりもさらに濃い塊が集まっている。

莫大な魔力が込められた魔力球が出現しており、人一人を消し去ってしまうレベルではなく、下手したら学校が消し飛んでしまうレベルの球であった。


『正面からの攻撃ならこっちに分がある。避けるべきだと思うが、本当にそれでいいのか?』


「……ああ」


極小サイズにまで込められたソレを構えた男が言うが、青年はさらに濃い“黒き雷”を右腕に纏わせると。


――受けて立つ。


『ふ、そうか』


言葉こそなかったが、そう受け取った男は微かに笑う。

恐らくこの場に存在して居られる時間ももう僅かだ。内部から崩壊が始まっている肉体からそう感じ取ると、高まった緋色の魔力を一気に解放した。


『終わりだ――“緋天王の炎蕾砲射カーディナル・バスター”ッッ!!』


手のひらに浮かぶ“緋天”の魔力球を前方へ放つ。

放たれた魔力球は雷光の粒子となって巨大となり、大きな放射線に変わって校舎ごと青年を飲み込もうとした。


「【―始雷しらい黒鳴こくめい】」


雷鳴を轟かせながら巨大な破壊のエネルギーは、彼が繰り出した同じくらい巨大な“黒き雷”の放射線と衝突した。


***


これが最後だ。構えられた緋色の砲撃を前に俺は迎え撃つ。

1秒にも満たずすぐに発射されるが、俺の思考は一切止まっておらず、あの攻撃に対して有効な手段を割り出した。


脳内の演算能力を高めて、異能に術式を加える【異能術式カードアンサー】を起動させた。


すると右腕全体にさらに濃い黒き雷が込められる。

莫大な『心力』が込められたものが、右腕のみに凝縮された。


『終わりだ――“緋天王の炎蕾砲射カーディナル・バスター”ッッ!!』


そして相手が溜め込んだ巨大な緋色の放射線が発射された。

脳裏の浮かぶ計算では間に合うが、掠っただけでも間違いなく致命傷になる。纏っている【黒雷迅鎧】なら受け切れるかもしれないが、それでもリスクが大きい。


どのみちここまで準備して置いて、退く選択なんて俺にはなかった。壊れても大丈夫だろうが、校舎の被害も一応隅に入れて、俺もまた雷を帯びた拳を打て解放させた。


【ー始雷しらい黒鳴こくめい


放出されたのは、莫大な量の“黒き雷”。『心力』をこれでもかと凝縮されているので、この雷も掠っただけでも危険なものだ。手傷を負うことはないが、精神ダメージが許容量をオーバーすれば廃人確定なのだ。



そして俺が放った“黒き雷”と緋色の雷が激突した。



その反動で両者共に吹き飛びそうになるが堪える。

さらに威力を上げて相手を押し出そうとチカラを注ぎ続けた。


激しくぶつかり合う二つの雷。

塊だった互いの雷が火花のように散っていく。

その度に俺と男が押し出されそうなるが、懸命に堪えて尚もチカラを注ぎ続けていると……。


「……なに?」


時間にしても数秒の間だが、たった数秒で既に辺りにエネルギーが拡散して、互いの雷が膨張して周囲を破壊していた。


厳密には相手の雷のみだが、俺にとって想定以上の破壊エネルギーであった。

俺の異能があれば相殺して御し切れると思っていたが、余りにも膨大な相手のエネルギーがこちらの異能の効果の限界値を余裕で超えていた。


「マズいな……大き過ぎる」


分析している間にも拡散レベルはどんどん大きくなり、とうとう校舎全体を半壊し始めた。

消し切れず溢れ続ける相手のエネルギーが無差別に周囲を破壊していた。


このままでは間違いなく校舎が消えてしまう。


「くそ……」


正直校舎どうでもいいが、これ以上は拡散は危険過ぎた。

素の放出を止めさせないと、さらに拡散して俺の異能でも止めれなくなる。


というか、その前に俺が消し炭になる。出し惜しみのつもりはなかったが、被害が拡散していく世界を見ても良い気はしない。


少々強引なやり方だが、相手の雷を抑えるに俺は奥の手を切ることにした。


「【術式融カードフュー……」


脳内で再び演算処理を行おうとした。


――その時。




『流石にこれ以上は見てられないな。――消し去れ……“魔無ゼロ”』




天から届いたのは男の声だった。

不思議なことに男も驚いて視線を左右に動かす。俺にも居場所は分からないが、ハッキリと聞こえた声は大きくなく、透き通るように耳元に響いた。



そこから衝突する俺達の前で異常現象が発生した。

音もなく二色の雷の中心に無色の渦が生まれると、霧のように二色の雷を消し去って広がって止まった。正直意味が分からなかったが、俺たちの必殺技を無に還して静かに消失した。


いったい何が起こっているのかと訝しげな俺だが、事態はさらに俺の予想なんてアテにならないものへ変化した。


『その辺にしてもらうぞ? 分身体のオレよ』


『――げっ!? まさか……!?』


「は……?」


呆然とする俺たちの前に一人の男が降り立つ。

対峙していた男に似た真っ白なローブを身に付けた黒髪の男だ。

髪の色は違うが何処か似ている気がすると思ったら、驚いた男が口にした『本体』の単語からあっちが本物だということか。


『暴れ足りないなら、オレが相手してやるよ』


何がなんだか分からないままであるが、現れた黒髪の男は何処か怒った様子で分身体? の男の方を睨み付けると。


『“融合”』


――『透明度の高い水の光』、『宝石のような氷の光』、『神々しい月の光』の三つが集う。

彼の体に溶け込むと姿を変えて、真っ白な髪と濡れたような金色と水色の瞳をした者が現れた。


『――“宝玉天の限界点クリスタル・メイター”』


『そ、その形態は……!』


『“三重・強制魔法陣トリプル・ディメンション・オーダー”』


驚いている男を他所に白髪となった男の周りに、三つの魔法陣のようなものが浮かぶ。


『“純水龍の猛雨アクア・ストリーム”、“吹雪の斬魔剣ブリザード・エッジ”、“月光の光輪ルナ・リング”』


『っ、この……!』


そこから爆水のトルネード、氷雪の斬撃、光の輪っかが分身体へ襲い掛かる。

分身体も光の剣を出してそれらを弾いているが、質量が圧倒的に違っており次第に押されていく。


『“短距離移動ショートワープ”』


あの緋色の強化も消えている影響か、押された分身体は倒れそうになるが、その前に瞬間移動した本体の男が眼前に立っていた。


『ラァァァァァッ!』


そこから繰り出される魔力を帯びた打撃の嵐。

分身体の顔や胴体をボコボコに殴って行く姿は容赦の一言であるが、それだけやっても粉々にならない分身体を見るとそれだけ必要ということか。


『“宝玉の王威クリスタル・アクセル”ッ!』


次の瞬間、宝石のように輝く手足。

光輝く結晶の刃が形成されると、分身体へ剣舞の如き無数の斬撃を浴びせていく。

さらにボロボロになった男へ、強烈な輝きの蹴りをお見舞いさせた。


……その蹴りが校舎の屋根を吹き飛ばして大変なことになっているが、もう原型がどうとか考える暇なんてなかった。


『グゥゥゥゥッッ! や、やっぱりつえ……』


『“宝玉天の魔導煌クリスタル・オーダー”ッ!』


全身の宝石のような魔力が火花を上げて増大する。

男は両手を構えると、そこから宝石のような凝縮された大剣を生み出した。



『終わりだ。――“宝玉天の光撃ダイヤモンド・レイ”』



宝石の輝きをした極太の光が分身体を欠片も残さず消し去った。


そして視界が真っ白に染まる。

何故か遠退く意識の先で微かに声が聞こえた。


『なかなか面白い見世物だった。噂に聞いた【エレメント】と【王殺し】のシンクロはまだまだのようだが、いつか俺の領域に立ったら、その時は俺自身とやろうか』


さっきとは異なる軽い調子の声であった。

もう意識はほぼない状態だったが、それでも反射的に『なんで最後にネタバレみたいなことするかな?』とか『領域ってなに? 神的な何かですか?』とかツッコミたくなったが、そんな気力など消えかけた意識の中にいる俺には不可能な訳で……。



『また会おう。他所の世界の『苦労人』』



俺のはそこで終わった。



***



……。

…………。

…………パチリ。


「う……」


そこでようやく俺の目が覚めた。

無意識に起き上がると、やかましく鳴り響く『目覚まし時計』をゴミ箱へ豪速球で投げ付ける。


何故か分からないが、非常に理不尽な夢を見させられた気がしたからだ。


『ブー! ブー!』


呆然とする中、傍に置いていたスマホが震える。

画面からメッセージが届いたのだと知ったが、送ってきた人物が幼馴染だと分かるや無意識に頰がピクリと動いた気がした。


いや、気がしたというか明らかにヒクついていた。





差出人:九条凪(ドS)

宛 先:泉零

件 名:モーニングコール☆


やぁ、おはよう。起きてるかなぁ?

幼馴染からのラブコールだよ♫


追伸:良い夢見られたかなd( ̄  ̄)?





「……」


内容が読み取った途端、思わずスマホを置いて窓を開けた。

眩い朝日を見上げながら『天気良いなぁ』など現実逃避しつつ、下の階で身支度をしているであろう愛しの妹へ、朝のおはようをするのだった。


ついでに幼馴染の危険度が数段増したが、あの女いよいよ神に近付いたんじゃないか?


えろげーで幼馴染が最強パターンなこと多いが、アレは絶対バクだと最後の締めとして述べたいね。


グダグダと続いてしまったが、俺の泉零の何気ない話はこうしてとして幕を閉じたのだった。






これ本当に必要な物語だったか?

ていうか、夢オチかよ! どうせなら義妹とのラブコメにしてくれよ!?

なんて叫ばずにはいられなかった。

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