スカウト交渉は異能世界も大変。
『スカウト』とはアイドルやスポーツ選手などでよく使われる単語だ。
掘り出しの卵を見つける為にスカウトマンが日々街を徘徊しているが、話題にして早々に悪いが、今回はどうでもいい気がした。
「何故なら英次。貴様の人生がここで終わるからな」
「前回のゲームの件だよな!? 待ってくれ話せば分かるっ!」
「英次、貴様の遺言はそれだけか? ならさっさと散れ」
「落ち着こうか!? 人間は話し合えば分かり合える生き物だから!」
いつものように休日。
誰もいない公園に呼び出した英次の首を取ってやろうとしていた。
心配ない俺の手刀は分厚い丸太だって両断出来る! 英次の首くらいスパンと胴体と別れさせてやるよ!?
「だから潔く首を差し出せ英次!! 俺が介錯から炭焼きまで済ませてやるからよ!?」
「もう主人公のセリフじゃない!? お願いだから正気に戻ってくれ!? 本当にあのゲームは悪かったから!?」
ゲームとは何のか。知らない者は前回を……出来れば読まないで。俺にとって黒歴史でしかない話だったから、しかもいつもの如く凪に撮られて、プライバシーなんか無くアップされる始末っ!
学校ですれ違う男子からはプレーボーイとか女喰いのラブコメ主人公とか言われ、女子からなんて無言で避けれるだけだが、寧ろそっちの方が辛いくらいっ!
動画のことを知らない黒河だけはいつも通り接してくれたが、女子陣が常に見張っていて犯罪者でも見るかのような蔑んだ眼差しが四方から俺を監視していた!
「分かるか!? 学校での俺の扱いを!? 男子どころか女子にまでバレて現在進行形で最大の敵扱いなんだぞ!?」
「ギャァァァァァァ!? 手刀から斬撃が出てるぅぅぅ!? 子供用の砂場が一瞬で真っ二つにぃぃぃぃ!?」
いくら説明して誰も信じてくれず、終いには黒歴史の塊であるゲーム自体が裏ルートで大量に流れているとか変な噂が出てくるし! 知った瞬間、俺の魂が芯まで焼き尽くされた気がしたよ!?
「初めて涙でベットが濡れたぞ……だが、それこれも」
間違いなく儲ける為に凪が流通させているが、そのゲームデータを作り上げている者は、俺の目の前にいる!!
「貴様が凪に手を貸したのが、そもそもの原因だろうがァァァァァァ!」
「ステイ! ステイだ零! おっしゃる通りだけど弁明させてくれ! あの九条さんにだぞ!? 拒否権なんて最初からなかったんだってぇぇぇぇぇぇ!?」
「それも前に聞いたわアホがっ! だったら俺の一声を掛けろっ!」ジャキンッ!!
「だぁああああああ!? さすがに異能を出すダメぇぇぇぇ!? 何で1番目立つ黒鎌を出してんだぁぁぁぁ!」
言われてさすがに冷静になってきた。
正直今すぐ〇〇してしまいたいが、こいつの言い訳も理解出来なくもないので、渋々……超渋々ではあるが、延命も仕方ないと譲歩した。
「はぁ……ま、お前の要望も訊く予定だったし、ついでに消そうと思ったが、仕方ないか」
「ついでに消さないでくれ。とりあえず冷静になったのなら話いいか?」
このクソ野郎は同じ中学2年生の
凪や武と同じで昔から家族付き合いな腐れ縁であるが、得意分野が『改造版のゲーム制作』から『宝クジ』とかバランスがおかしい。……ちなみに『宝クジ』に関しては、忠告して本人も分かっているので、異能を使うことしない。
そう異能者だ。凪と同じで英次は数少ないこの街の同業者であった。
ここまで話せば俺が発狂する前にあった前置きの意味が分かるかもしれない。
今回は非常に珍しいが、リニューアルした物語でほぼ初の異能話であった。
「能力者のスカウトってことか? この街だと結構珍しいなが、スカウトする程の逸材なのか?」
「ああ、覚醒したばかりのタイプだが、見た限り中々の物のようだ。見つけたのは偶然だが、本人はまだ周囲には隠しているっぽいから、今のうちに接触して交渉したい」
異能者は家系とかで遺伝して目覚めることが多い。
しかし、稀に全く関係ない者から異能が発現されることがある。大半の者は戸惑い怖がるが、調子に乗って騒動を起こす者も中にはいる。その場合、街を管理している異能者から成敗を受けるが、俺達の街の異能者はほぼ身内や親戚が多い。
そして現在は、俺が魔獣の討伐を専門にして偶に暴走した異能者を絞めている。
代わりに英次は、外部の異能機関と接触して情報交換とさっき言ったスカウト、もしくは注意など説明をして初心者の異能者が道を外さないように見張っていた。
「手伝って欲しいのは、武力行使された時だ。まぁ相手の性格的にないと思うが、やはり念を入れておきたい。スカウト自体はこっちでやるからその辺は安心してくれ」
「ま、俺も交渉は得意じゃないからいいが、武力行使の方も極力遠慮したい。出来るならそっちで済ませてくれよ?」
まぁこいつなら性格面の把握して対処するから問題はないだろう。……ゲームの件は忘れないが、とりあえす今回は大人しくスカウトの協力をした。
「お断りします!」
「え、えと……そんなにダメかな?」
見事に一蹴されていた。
オイ、全然ダメじゃねぇか。性格は把握してるんじゃなかったのかスカウトマンよ。
もの凄く警戒されて近寄れそうになかった。
相手は何と小学生の女の子だった。
真面目な娘で最初は警戒されて話すら難しかったが、こちらも異能者であることを説明して街の中での最低限のルールまで伝えると、疑いの視線はある程度消えていた。
異能世界の基本である魔獣については真っ先に伝えた。まだ遭遇してはいないそうだが、遭遇前に聞かせれたのでこっちとしても良かった。
本人も自身の能力に戸惑っていたようで、話を聞けれたと礼を言っているが、それでもまだ警戒は解かれていなかった。
「異能についての説明は感謝します。ですが、私は1人で大丈夫です。間違っても人前では使いませんし、魔獣だって迷惑にならないように1人で倒します」
「いや、さすがに訓練を受けてない子には討伐は無理だよ。説明したけど魔獣は一般の人には見えないが、本気でこちらを狙いに来る。ランクによって厄介な能力を持つタイプもいるから、最低限の訓練を受けたとしても正直厳しいんだ」
「必要ありません! これ以上言って来るなら、こちらも取るべき手を取りますよ?」
外野側として話を聞いている限りどうも手応えが悪い。
子供だからという訳でなく相当我の強い育てられ方でもされたのか、拒絶的な強い眼差しでもしっかりとした眼力で英次を睨み付けていた。
しかし、このままではラチがあかないどころか、変質者扱いかガチバトルに発展しかねないのは明白であった。
「───なら試してみるか?」
「へ?」
しかし、小学生とガチバトルは遠慮したい。
なので妥協案を提示してみた。
「【黒夜】……球となれ」
手のひらから出てきたのは『黒き霧』。
それを野球ボールサイズにして彼女に向けた。
向けられた黒い球体に警戒の顔をしたが、何もしない俺を見て少しだけ警戒を落とし訊いてきた。
「それは異能ですか? それでどうするつもりですか?」
「君の異能力を確かめる」
「は?」
何を言っているんだという顔をする少女。
俺は特に気にせず球体を持つ手を彼女の前へ。
「これは異能の力を消す異能だが、量によって消せる量が違う。大人の異能者ならこれぐらい1発で消せる」
「つまり、それを私の異能で消せるか確かめたいということですか?」
「君が誰の手も必要しないと言うなら」
「……いいでしょう。どうせ必要ないと思いますが、その挑発、乗って上げますよ!」
頷くと英次に向けていた強い眼差しが俺を捉えていた。
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