最後にデートする事にしました(笑笑)。

「ふざけたタイトルが見えた気がしたぞ!」


「全くだよ! こんなの悪夢じゃないか!」


「それは俺のセリフだ! て、なんでこうなったーー!?」


 珍しく狼狽して頭を抱える凪。青ざめているが、きっと俺もそうに違いない!


 何故かデートする事になった俺と凪。いや、久々過ぎる登場なのになんだこの扱いわ!! 悪意しか感じない! 主に作者の怠慢野郎からな! デートなんだ!? 創造神の権力で強制参加させるとかふざけんなぁーー!!


「ねぇ今からでも遅くないから一緒に逃げない? 世界の果てまで」 


「世界の果てか……いや、世界越えないときっと無理だわ」


 逃れる未来が見えない。とか思っていたら、いつの間にか景色が遊園地になっていた。しかも、二人とも私服に変わってる。逃げ場なし、以前のレベルだわこりゃ。


「ほらな」


「……露出度が高くないだけ良しとしよう」


 因みに凪の格好はポニテと水色のワンピース。珍しいというかスカート系自体をあまり着ないから全然見ない格好だ。……我が鋼の精神はそう簡単には崩せんぞ?(*既に口調がおかしい)


「ハハハハハハ! ようこそバカップル様方」


「ッ! 貴様は、そっち側の人間だったか英次ィ!」


「私たちを裏切るとはいい度胸じゃないか!」


 入り口の前にいたのは凪と同じくらい腐れ縁の英次だチキショウめ。何故か執事服で似合っている感じがするから余計に腹が立つ! 満面な笑みだから倍腹立つ!!


「ハハハハ! いくらオレを睨んでも仕方ない話だよ? オレはあくまでアシスタント役だからねぇー」


「よし分かった。アシスタントじゃなくてスタントマンとして観覧車の天辺から落ちてくれ。お前の生き様をしっかり撮ってやるから」


「さらっと人を亡き者にしようとするな。アシスタントがダメならスタッフでもいいが」


「ならカメラならぬ『文章に描かれない裏側』で抹殺したらどうかな。私と零が組めば一瞬で済むよ」


「それだ」


「それだじゃないわ。いくらだだ捏ねても最後なんだから絶対やってもらうぞ? デート」


 くっ、すっかり悪に堕ちてしまったか、あんなに良い奴だった英次がこんな無様姿に!

 ……仕方ない。ここは親友として俺が止めなくては! 例えこの無様な敵が大親友の英次であっても!


「口にしなきゃなんでも許されると思ったら大間違いだぞ? 誰が悪堕ちしただと?お前が言うな。 良い奴?微塵も思った事ないだろ。親友?大親友? 寝言は寝てから言え。あと二回も無様とか言った? オーケー、お前がその気ならこっちも遠慮しないぞ」


 笑みだった英次の顔がいつの間にか冷たいそれになっていた。やべぇー。

 何処からともなく四角パネルのような物を取り出す。俺たちに見えるように縦にした。


「これでお前たちのデートの『お題』を決める」


「え、ルーレット?」


「……」


 パネルは液晶になっているようで、回転式のルーレットが映っていた。ただし、肝心の矢印が示す円の中は何も書かれていないが。

 予想してなかった凪がキョトンとする中、俺は良い表せれない不安感で気分が重くなった。……絶対やばいヤツやんこれ。


「……」


 だが、次第に理解し始めたか。少しずつ凪の周囲の空気が重くなるのを感じた。顔は見ないが、流石はこの世界の暗躍者だ。嫌がらせに関しては博士号を送れるくらいの推理力があったわ。


 と言っても大半の人間が気付いている筈なので、英次とも余計なやり取りはこの際端折るわ。


 あー、今回の俺と凪のデート場所は『遊園地』。そこまでは普通だ。いや、組み合わせが凪という時点で既に色々崩壊しているが、問題は英次が用意しやがったルーレット画面が付いたパネルだ。


「まず凪から頼むわ」


「う、じゃあ……押すよ?」


 イヤイヤながらポンとパネルを押すと、画面のルーレットが回り出す。こんな事をあと四回もしないといけないのか? しばらくすると針がゆっくりと止まり、隠されていたお題が出現した。





『メーリーゴーランドの馬で二人乗り(*たっぷりイチャイチャしなさい)』


「「地獄やん(だよ)!!」」


 今回の企画者は色々と容赦なくないですか! イチャイチャってなんだ!? この凪と?死ねと!?


 既に生き地獄を味わっている感じなのに、抵抗など無意味と言わんばかりに景色がまた一変ていうか、場所がメリーゴーランド前に移動してしました。……さっき平気で超常現象を起こすのやめてもらえませんか?


「……行くか。ここで止まってても、また英次辺りが強制介入して来そうだし。転移でいきなり二人乗りにされたら、速攻で」


「はぁ、そうだね」


 ホント、本気で抵抗したらと思わなくもないが、出来たら出来たで後が怖い。一番怖いのは、まだ中学生になったばかりの葵が巻き込まれないかどうか。頼むから禁断コースだけは勘弁してくれ! 保たないから俺の理性が!!


 中に入ると白い馬が沢山ある。昔、親や葵と一緒に乗って以来か? 子供頃なら凪とも乗った気もするが、さすがに昔過ぎて記憶が曖昧だ。……カボチャをイメージした乗り物もあるが、そっちじゃダメかな? ……ダメなんだろうなー。


「で、どっちが前と後ろに乗る」

「ある意味、究極の選択肢かもね」


 本当だよ。葵ならどっちでもお兄ちゃん大歓迎だけど、相手は暗黒皇帝の血筋引いてそうな凪。選択肢次第じゃグロ・バッドエンドに直行しそうだよ。主に俺の命が。


「……はぁ、仕方ないから私が前にする。零は後ろに乗って」


「一応理由を聞いてもいいか?」


「ダメージが少ないのがどっちか考えた結果だよ。まぁ逆だった場合、によっては零が屈んじゃいそうだしねぇ〜?」


「……感謝します」


 な、なんて恐ろしい未来だ……! 回避出来て良かったー!!

 男として反論したいところだが、凪がその気になったら俺の終わりだもんな。


「まぁ私はそっちでも別に良いけど? わざと押し付けて零のリアクションを見るのも楽しそうだし? もし発情したら葵ちゃんにバラすけど」


「だと思ったから絶対止めろよ?」


 結論、俺が後ろで凪が前に座った。待っていたかのように回り始めた。

 必然的に後ろから凪を抱える感じの構図となったが……アレ? これはこれで不味くない? さっきまで意識してなかったが、匂いとか感触とか意識し始めたらがガガガガガガガガ――


「む、何か邪な気配が」


「気のせいです気のせいです気のせいでございます」


「……冗談のつもりだったんだけど、頑張ってよ?」


 何か察したような凪の苦笑顔が間近で……悪夢のメリーゴーランドは続いた。




「次は俺が回すわ」


「私でも反応するとは思わなかった」


「パネルを貸してくれ」


「意外とチョロい?」


「いい加減にしろや」


 そんな感じで揶揄ってくる凪を無視してボタンを押した。

 後ろで凪が冗談だよとか言っているが、こっちは精神的に一杯一杯なのである。さっさと終わらせてさっさと帰る!


『コーヒーカップ(*回すのは零だけ)』


「また乗り物か? イチャイチャとかないだけさっきよりマシか。昔過ぎて記憶にないがどんな乗り物だっけ?」


「……(血の気が引いた)」


「凪?」


 お題が出た途端、調子に乗っていた凪の気配が急に沈んだ。どうしたの? また珍しい青ざめた顔をしているが、まさか苦手な乗り物か? 絶叫系とか平気そうに見えたが……と考えていたらまた場所が変わる。


「せめて合図くらい欲しいんだが」


 いい加減諦めた方がいいかもな。

 便利な移動現象のお陰で、名前通りコーヒーの乗り物がある場所まで移動していた。


「あー、そういえばこんな感じの乗り物だったかもな。回すのはこのハンドルか?」

「……」


 なんだか親父と乗った気がする。小さなドアを明けてカップの中に入る。向かい合うように座る凪。さっきから無言だけど大丈夫か?


「いったいどうした? もしかして怖いのか?」


 見た目はカップだけど普通の乗り物のようだが、凪からしたら違うのかもしれない。強制参加のようなものなので、抵抗は無理だから諦めろと言おうとしたが、項垂れたままの凪が横に首を振った。


「こ、怖いのは怖いけど、別のこの乗り物が怖いわけじゃない。怖いのは寧ろの君の方だよ」


「は?俺? どういう意味だ?」


「分かっていると……分かっているとは本当に思うけど、一応言っておく。――ちゃんと加減してよ??」


 こっちの両肩を掴んで、必死な顔で言い聞かせて来る。

 何をそんなに必死になっているんだ? 焦っている感じにも見えるが、とりあえず安心させるつもりも含めて、親指出して『オーケー、勿論分かってるよ』と笑顔で返答しておいた。



 ――まぁ、つい楽しくなってうっかり超えかけたけど。


 まぁ竜巻も起きてないし、大丈夫大丈夫。

 終わった瞬間、場所がトイレに変わって、真っ青の凪がランナーみたいに走り込んで入ったけど……ダイジョブダイジョブ。


「アハハハハ、今度は私の番だねぇー。覚悟しなよ零ィ……!」


 全然大丈夫じゃなかったわ。なんかキレた様子の凪がトイレから出てくると勢いよくルーレットのボタンを押した。



『ジェットコースター(*凪は零の手もしくは腕にしがみ付く)』


「さぁ腕を出して零! 思いっきり押し付けてやる!」


「突然遠慮がなくなったな! そういうのは回避するんじゃなかったか!?」


「大丈夫、私こう見えて結構ある。着痩せタイプってヤツだから」


「いや、そこの心配じゃないし、そもそもあるのは普通に分かっイヤァアアアアアア!?!?(*どっちの悲鳴かはご想像にお任せします)」



『お化け屋敷』


「今度は俺が逆襲してやる番だ!」


「葵ちゃんじゃないんだから、私が怖がると思ってるの?」


「あ、あそこの下半身半裸のゾンビ男。なんか凪の兄貴に似てない?」


「ひぅ!? 君は鬼なの!? 妹になんてモノ見せてんの!!」


「ん、よく見たらゾンビの大半が全裸……学校の男子ばっかに見え――」


「なぁぁぁああああああああ!?(*どっちの悲鳴かはご想像にお任せします)」




 と……いつの間にか互角の攻防戦となった零と凪のデート。

 いや、こんなのデートじゃない。とか思う人が多々と思うが、色々とリハビリも兼ねていた事もあり、なんか変な方向に走ってしまった。もう少しラブコメを勉強しておくべきだったか?


 というわけで最後は定番の定番である『観覧車』です。

 争う疲れた二人の様子をどうぞ。




『観覧車(*特に指示なし、一周したら終了)』


「はぁぁぁぁぁぁ……疲れた」


「やっと落ち着ける」


 ジェットコースターも大分拷問コースだった。まさか凪があんなに大胆な行動を取ってくるとは。腹いせにお化け屋敷で散々弄ったが、ゾンビとはいえ知っている奴に似た全裸は俺の精神にもダメージが来たわ。武が出て来た時は迷わず蹴り飛ばしたが、見たくないものがあり過ぎて、結構パニックになった凪に振り回された。


「このまま一周すれば終わりか……本当に終わるんだよな?」


「まだ隠し球がありそうで怖いけど」


 二人揃って疑心暗鬼。散々な目に遭わされた所為で色々と疑り深くなっていた。


「まぁその時はその時で考えればいいか」


「そうだね。もう今更って感じだし」


 そう、ジタバタしてもどうしようもない。どうせ拒否権ないんだから。

 せめてこの時くらいはゆっくり休みたいと背中の方へ体重を預けていると、


「……ねぇ、英次から聞いたんだけど」


「ん?」


 沈黙が嫌になったか、それとも狙っていたのか、唐突に凪が問いかけてきた。


「零、また異能者として活動を始めるって本当?」


「ああ、本当だ」


 正確には受験が終わってから、高校に入るくらいだと思う。

 やらかしたのは一年の終わりの冬。実質的には中学の二年からの休みだからな。まるまる2年は魔獣対峙から手を引いた日常生活を送っていた。


「どうして? せっかく手に入れた生活だよ?」


「分かっている。けど決めたんだ」


「あの別世界から来たって言う魔法使いの人達が関係してる?」


 別世界からの来訪者。数ヶ月前のお盆休みの時だ。あの王の一件で調査に来たという剣士と対峙。妹を狙っていると勘違いした俺がうっかりボコボコに……しかけたところであの人が現れて説明された。


「全く関係ないとは言わないが、前から考えてはいた」


 決断の一つとも言える。前々から英次に戻って来て欲しいと言われていたが、どうしても決断出来なかった。

 戻ったらやっと手にした日常を失うかもしれない。また妹と距離が出来てしまう。分かってきた感情まで消えるかも。そんな恐怖が俺の考えを鈍らせ続けていた。


「けどあの人たちを見て思った。俺はただ逃げてるだけだと」


「辛かったんだ。逃げても仕方ないよ?」 


「逃げ続けてる。それじゃダメだ」


 もう戦う必要がないなら俺はいつでも異能を捨てれると思うが、それは無理なのが現実だ。

 魔獣は少しも減っていない。また増え始めている。この街には――俺を必要としている人達がいる。


「まだ辞めるわけにはいかない。大変なのは分かっているが、この街を守りたい」


 だから受け入れないといけない。

 あの冷たい死神の力を。また感情が凍り付いてしまうかもしれないが。


「凪」


「っ」


 ゆっくりと彼女の手を掴む。

 小さな動揺が伝わる。そんな彼女を見つめて俺は言った。


「信じてほしい。それだけで俺は俺でいられる」


「……分かった。なら私も信じるよ零」


 小さな誓いだ。簡単に壊れてしまいそうな。

 けど、凪は受け入れてくれる。ギュッと掴んでいる俺の手を握り返してくれた。


「でも、どうせならもっと信じさせて欲しいかも?」


「? 言葉だけじゃ足りないか?」


「足りないね。もっと男らしく私を信じさせてよ。レ・イ?」


「……」


 そして自然とお互いの距離がゼロとなる。

 日が沈んで気付いたら、俺たちのデートは終わりを迎えていた。



 〜隠れ異能者の日常〜(完)。




おまけという名の言い訳回。


英次「……あれ、オチは!?」


零「あるわけないだろ(キッパリ)」


凪「作者の気分押しだからねぇ。そこまで今後の展開影響もないし(最後ら辺以外は)」


英次「オレ完全に嫌な役じゃん! 居る意味あったか!?」


零・凪「「ない」」


英次「ハッキリ言うなぁぁぁ!」


零「あー、英次が混乱しているので締めは俺が。コホン、みんなも急な展開ばかりで付いて行けないって思うよな? 俺もだ。だってずっと放置されていた話だ」


凪「ホント急だったよねー。なんでだろう?」


零「色々と事情はあるが、具体的には現実逃避と気分転換だろうな。『アレ』が終わらんとゲームに逃げてる」


凪「え、あれ? 結局無理って話じゃなかったっけ?」


零「かなりストーリーの大幅変更と端折っている部分多数ではあるが、どうにかやっているらしい。途中で挫折する可能性大だがな!」


凪「ゴールデンの間に終わらせる予定だったのにねぇ? 終わらなかったんだ」


零「ボーリングの九ゲームはいくらなんでも無茶が過ぎた。筋肉痛や熱で後半グッタリして無理だったそうだ。こっちはその時の保険だが、本当はアレの後にやるつもりの話を急遽完成させたらしい」


凪「……なんか迷走してない?」


零「……まぁやるだけやるんじゃないか? だからをしている」


凪「――え?」


 物語は『新・こっそり守る苦労人(仮)』へ続く。


*作者コメント*

 とりあえず生存報告を含めた細かい事は、近況ノートの方でお話しします。

 まだ先の話ですが、こちらの『こっそり守る苦労人』の新しい物語を制作を決定しました。ほぼ確定と思って大丈夫ですが、いつもコロコロ変わる作者なので、そういう可能性もあるんだ程度で考えてください。


 日常編の急な終わりとなりますが、今後の他の作品もよろしくお願いします・

 近況報告は多分夜遅めになると思います。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こっそり守る苦労人 〜隠れ異能者の日常〜 ルド @Urudo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ