クリスマスイベントにロクな思い出がない。

───クリスマス……イブ。

その単語を耳にすると、どうしてか胃とか頭とか痛くなる。(*人はそれをトラウマと呼んでいる)

軽く発狂したくなるし、願うならクリスマス文化自体を消し去ってしまいたいくらいだ。……逆恨み過ぎて呆れらそうだからしませんが。(*出来る出来ない以前の問題)


とにかく去年のクリスマスは最悪であった。

何が最悪だったかは……別作品で多分やるから参照してくれ。(*まだ出来てません)


トラウマばかりを掘り起こすシーズンでもある為、正直この時期だけは素直に楽しめれる気がしなかった。


凪たちはイブは家族と過ごすから、25日に集まろうと言われたが、正直25日も無しにしたい。このまま年末まで時をGOしてほしい。金払ってしてくれるなら是非やってくれないかなぁ!?(*くれませんね)


と、まぁこんな感じで俺こと泉零にとってクリスマス・イブは、トラウマフラッシュバック的なシーズンでしかないのだ。

だから何もせず、家でダラダラ過ごすことになっても全然オッケー。ヘタに出歩かずに大人しく部屋に籠ってシーズンを乗り切りたかった。



「見て見ておにぃちゃん! ほらサンタさんだよぉ〜」



ってちょっと30分くらい前までは本気で思ってましたが、訂正させてください。



「クリスマスイブ……最高……ッ」



我が妹、泉葵様がサンタコスでご登場なされた!!

言語がおかしくなってるが、聞いてくれっ! なんだよ! 下のミニスカが揺れて太腿の上部分が見えてるし! お腹周りが全開だから可愛らしいおへそ様が姿を露にしてらっしゃるんだよ!!


あと被ってるサンタの帽子が超可愛い!! 写メしたい! ていうかポスターにして飾ってやる!!(*脳内がオーバーヒート気味で暴走中ですが、こちらが作品の主人公ですのでお間違いのないのようにお願いします)


ああ、本当に可愛らしいおへそだよ。思わず――っと! 危ない危ない。危うく大人な方々にマジで怒られる件が出来るところだった。


というかスカートの丈とか本当に短い。背丈が低い方だから座ってても見えないが、かなり際どいものである。あと少しでも屈んだら妹様のアレが見えてしまう。




ゴクリ……





「よ、よーし!? オニィチャンと一緒に写真でも撮ろうかぁ!?」

「はぁーい!!」


自分でも怪しさ満載な顔と声だったのに、笑顔で手をブンブン振られた! ヤバいです……! も、もう悶死寸前ですっ!


ああ、神様よ! 夢なら覚めないで!!(*夢でいい気がしてきました)

マジでお願いです! 500円あげますから!?(*意外とケチだった)

何この状況は!? 親たちは知り合いと集まって外食で、俺たちだけのイブを過ごすことになったと思えば……! ちょっと目を離してる間に変身しちゃったよ!? この妹様は!?


「あれ? おにぃちゃんなんで泣いてるの?」

「ちょっと、目にゴミが入ってな」


嘘です。感無量して涙が滲み出ています。

油断するとすぐ決壊です。号泣の嵐が来て妹もドン引きしちゃう! ……ことはないかもしれないが、間違いなく心配はされるな。なんて良い子だよ!! こんなどうしようもない兄貴とは大違いだよ!!


「う、う……まさか、葵サンタさんとこの目で見る日が来ることになるとは……! お兄ちゃん感動過ぎて結構言動がキモくなってるけど大丈夫かな!?」

「大丈夫だよぉー。いつものおにぃちゃんだから!」

「それは全然大丈夫じゃない気がするなぁ」


凪のが伝染したか、知らないうちに意外と毒を吐くようになったよ、天然気味で。


「しかし、今年は偉くやる気満々だな。何かあったのか?」

「だって、去年は、全然おにぃちゃんやみんなとも楽しく出来なかったから……今年はどうしてもみんなで過ごしたかったから」

「……」


あたりを聞いた途端、昂っていた気分が一瞬にして冷めた。


去年クリスマスはイブともに散々だったから。俺の所為で無茶苦茶になった。


「なんでかなぁー……あの時のことは思い出そうとすると『モヤモヤ!』ってして、よく思い出せないんだぁー」

「高熱の風邪だったんだ。しょうがない」

「……うん、そうなんだけどねぇ……」


モヤモヤとは、記憶があやふやということだろう。葵らしい可愛らしい表現だが、俺は内心…………と疑いそうになる。


(葵の中にもうあの時の記憶は残ってない筈。本人は風邪だったと信じ込ませてるが)


何かの拍子に消した筈の記憶が復活なんてことが起きたら…………アレを見られてしまった以上、もう誤魔化しは不可能だろう。

可愛らしい妹の頭を撫でながら、俺は放置するか処置すべきかと、複雑な心境の中で考えてしまうが……。


「エヘヘへ! おにぃちゃ〜ん」

「───ッ!!」


サイコーですよ葵様。全然問題ないと思います!!(*投げ出した)

そもそもシリアスな雰囲気は、今の俺には似合わないんだよぉー。完全無害な妹スマイルを写メしながら、俺は急降下していた気分を急上昇させて軽く燃えていた。



カメラマン零(スマホだけど)。

これより撮影を開始するッ!!!!(*キャラ崩壊5秒前)



「よぉ〜し!! 良いぞ葵! そこっ! そこでポーズだッ! 決めろ! 弾けろぉ!!」(パシャパシャパシャパシャ!)

「サンタさんだよぉ〜! メリークリスマース〜!!」

「ギャァアアアアアア‼︎ 俺の天使さんがプレゼント届けに来てくれたァァァァアアア!?」(パシャパシャパシャパシャ! パシャパシャパシャパシャ! ───写真をロックしました)

「葵はおにぃちゃん専用のサンタさんだからねぇ〜。なんでも欲しいものあげるよぉ〜?」

「ならば是非葵を!! 我が妹も頂きたいです!! 絶対大事にしますからッ! 後生大事に育てますからッ!!」(録画を開始しました)

「おにぃちゃん大好きぃ!!」

「俺も大好きだぁーーー!!!!」(録画完了しました。『プライベートファイル』に保存しました)


写メや動画を撮りながらコスも堪能中です。癒されるッ! 体の中の余計な毒素が浄化されていく感じだぁ〜!!(ハイ・テン・ション!!)





けど……だからかなぁ。

ハイテンションし過ぎて俺の思考回路が狂ったらしい。

この後の展開は流石の俺も反省したわ。




「いいよいいよぉ!? そのお腹を見せるようなポーズを維持してッ! ソファーに寝っ転がれば怪我はしないから、葵よ行けぇぇぇぇぇ!!」

「うう、このポーズはちょっと恥ずかしいかなぁ」

「さぁそっちにお尻を向けて……上げ過ぎないように! 二度ほど下げるんだ!」

「うふぇ〜!? 難しいよぉ〜! おにぃちゃんどうしたのぉ?」


すっごい暴走してなんかポーズ要求がどんどん如何いかがわしいものになってた。後半鋭い俺の指示に怯え始めた妹を見て正気に戻ったけど……戻らなかったら悲惨なことになって、キワドイとんでもないのが残ってただろうな。


「ごめんな? お兄ちゃん周りが見えなくなって……怖がらせたよな」

「ううん。ちょっと驚いたけど、おにぃちゃんにあんなに構えて貰って葵は嬉しかったよ?」

「ッ」


一瞬うるっと来ました! 変態アニキにアレなポーズばかりさせられて半泣きだったのは間違いないのに。

なんで健気な娘なんだ。お兄ちゃん何回目になるか分からないけど、また感動で号泣しそうです!! ホント、良い子に育ってくれて感謝しかありませんよぉ!!


……ただ、戸惑いつつも恥ずかしそうにして、ポーズを取ってくれたけどさぁ。この時ばかりはちゃんと身の危険を察知して止めるか逃げてほしかった。


お兄ちゃん的にはその辺りも不安になるんです。


「おにぃちゃんがこんなに喜んでくれたんだから! サプライズは大成功だねぇ!!」

「そうか……あ、ちなみにそのサンタコスは何処で用意したんだ? まさか手作りじゃないだろう? 買うにしても結構高かったんじゃないか?」

「大丈夫。ア◯◯ンで買ってもらったから! 武おにぃちゃんに相談したら買ってくれた!」

「……妹のよく分からない行動力にお兄ちゃん複雑です。あと武のヤロウは後で『ピーピー』の刑にしてやる」(*放送禁止用語が出たのでピー音に変換しました)

「ふぇ?」


俺ですらあまり利用しないのに……なんて思ったけど、サラッと武に買って貰ったと告げた葵の言葉に……俺は脳裏であのモブをどう吊し上げにするか考えてしまった。(*死神モードの思考中)


(人の妹になって際どいのを着せてんの!? 俺が喜ぶからか!? 感動して崇め奉るからか!? 大正解だが、漏出度全開なヤツを選んだ時点でギルティだ!!)


年越す前にアイツの時間を止めてやるッ!

安心しろ! 墓場には年越し蕎麦を置いてやるから!


「ほらほら、おにぃちゃんの大好きなサンタコスだよ? もっと見て撮っても良いだよぉ?」

「うん、ちょっと待とうか妹よ。妹様のその格好は大好きだけど、言い方に何か隠された悪意を感じるんだが……気のせいかな」

「あれ? 嬉しくないの? サンタコスがご馳走じゃないの?」(*何も知らない無垢な表情)

「いや、嬉しいけど後半については明らかにおかしいから。……ちなみに誰からそんな風に聞いたんだ?」

「ふぇ? なぎおねぇちゃんだよ?」


そうか、そうか……やってくれおったな。あのアマァァァ!!

イベントの日での為とはいえ、家の方を優先するとかおかしいとは思ったが……!


既に仕込みは完了していたってことか!?

武もそうだが、二人ともグルだな。



ハハハハハハハハ! ……よし。



「ふぅー、ごめん葵。ちょっとお兄ちゃん用事を思い出したから少し出かけるわ」

「え、急にどうして……っておにいちゃん!? なんで雨ガッパなんて着て、それにその刀は何!? いったい何処行くの!?」

「なぁにちょっとゴミ掃除を……解体しに行きたくなった」

「急になんで!? それでなんで刀なの!? どこから出したの!? って待ってぇ!!」


結局必死に止めらてしまったので、夜の暗殺は諦めるしかなかった。ふん、運のいい奴等め。せっかく最後を『聖なる夜』から『世なる夜』に変えてやろうとしたのに。(*気付かれないように黒刀消滅)


「2人とも葵が相談したのがきっかけなのぉ! 何度も相談に乗ってくれたし、ネットショップも手伝ってくれたから、2人を責めないでぇ〜!」

「う、葵がそう言うなら……」


今度見かけた時は、タダじゃおかないと復讐を誓いかけたが、若干涙目な天使の妹からの慈悲だ。大変不承不承であるが、妹に免じて今回だけは行った所業にも目を瞑ろう。



……なんて思いかけたが、落とし穴は他にもあった。



「───ブッ! 葵様!? そ、そのパン……は何ざます!?」

「ふぇ? あ、これのこと?」(スカートの端をペロン)

「ってスカートを広げちゃダメ!? レディでしょう!?」


見えたのは偶然である。思わず座り込んでいたところ、反対のソファーにボフンと音が漏れそうな勢いで、妹がヒップドロップしたのが原因だった。


ただでさえミニなのにふんわりと捲れて…………

お子様ではない。明らかにアダルティーナ凶悪の殺人兵器が!!


ていうか、なんて凶悪的なものを着てらっしゃるの!? この妹様!?

普段とのギャップがどうこうのレベルじゃない!! 思わず人格が違うのかと本気で疑い掛けたが、葵はニコニコ顔で話してくれた。


「か、借り物?」

「うん! 下からでも見えにくし、見られも他の人のだからだいじょうぶ! って言われて借りたのぉ! 紐は初めてでスースーするけど、なんだか大人になった気分で楽しいよ?」

「そ、そうなの?」


それを聞いてちょっと安心しました! いや、後半がどう聞いてもアウト感満載だけど。とりあえず妹の物じゃないことを喜ぼうかと無理やり納得しかけたが……一連の仕組まれたイブの裏側を思い出した俺は……。



絶対マズイだろうと思いつつ訊いてしまった



「ち、ちなみにそのパンツは誰から借りたのかな?」

「ふぇ? ゆかおねぇちゃんだよ?」


ギャァァァァァァァ!?

ブルータス、あなたもですか!?

なに犯罪級な物を葵に貸してんですか!?


「ていうか、普段あの人着てんのかよぉ!?」 

「ゆかおねぇちゃんは大人だねぇ〜。葵も頑張らないとぉ!」


そこは頑張らなくて良いから!?

まだまだ、純粋な妹でいて頂戴!!


こうして、2人っきりのイブの夜は、まだまだ続いた。

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