丁寧な筆致で丁寧な展開、送られるは魅力的な物語

第十一話まで読んだ時点でのレビューです。

世界観を共有する物語ということで「亡国の騎士とユリカゴの少女」を読んでみました。印象に残ったのは重厚さを仄かしながらはっきり感じられる繊細さ。各登場人物の心情、特にラルフの心の動きがやはり丁寧に書き連ねられています。

「辺境の歌」にもやはりその丁寧さが受け継がれていますが、変わっているのは規模感、展開の多様さ、と心情描写との比重でしょうか。しかし登場人物に感情移入できないかと問われてもそうではありません。時に苦悩があり、葛藤が見え、喜怒哀楽が確かに存在しています。

さて、今作「辺境の歌」は主人公ガルム・クランが様々な出来事に巻き込まれて「フォルザの壁」の先にある砦に送られるところから始まります。彼ら志願兵は毎月と毎年に一回押し寄せる魔物の軍勢から「フォルザの壁」同時に「帝国と人類」を守ることを課せられ、砦の修理や訓練を行うのですが……次第に読者はその様子に疑問を持つでしょう……。

浮き出てくる不安要素は危機感を煽り、読者の注目を引きつけます。「亡国の騎士とユリカゴの少女」とは一風変わった物語……しかし魅力は一回り二回り増し、これからのガルムたちから目が離せません。果たして彼らは『紅月の日』や『真紅の夜』を超えることができるのでしょうか……。

これからがとても楽しみな物語です。

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