第5話 5歳児の孤独

■リーブル皇国 皇帝執務室


やはりマリーといる時が、一番心が休まる。

目の前には上手い茶と砂糖がふんだんにかかった焼き菓子。


色々頑張ってはいるが所詮は5歳児だ。

できれば、誰かにかまって欲しいものなのだ。


「マリー、そなたは余のことが怖くは無いのか?」

「どうして、そのようなことを?」

「先の軍務卿の件は聞いたのであろう」

「はい、お耳にしました。でも、理由がおありになったのでしょう?」

「無論じゃ、余は必要も無く処断はせぬ」

「で、あれば何の問題もございません」


それだけ言って、俺を優しい目で見てくれる。


「マリーよ、そなたは余のきさきになるか?」

「まぁ! もったいないお言葉です。陛下がもう少し大きくなられたら、是非側室にしていただきたく存じます。」


はぐらかされたようだ。

この国では何歳でも結婚できる、余が望めばいまでも婚姻が行える。


「では、約束だ。必ず側室にする。」

「ありがとうございます。」


この笑顔をむけてもらえるのなら今のままで良しとしよう。

しかし、宮殿内にはもう少し白玉がおらんものか・・・


■リーブル皇国 皇帝 ドレッシングルーム


これから礼服用の裁縫士が来るらしい。

部屋にはマリー以外にメイドが4人並んでいる。

皆愛らしい顔をしておる。

もう一人の俺が喜んでいるのが伝わる。

だが、全員頭の上には黒玉が浮かんでいる。


何故なのだろう?

俺はこいつらにひどいことなどは何一つしていないと言うのに。

何故、こいつらは俺を嫌うのだ!?


こう言ってはなんだが、俺は5歳児のなかでも抜群の愛くるしさを備えている。

金髪の髪は適度にカールしているし、青い大きな目が白い肌にバランスよく配置されている。

普通は母性とか言うやつで抱きしめたくなるのでは無いのか?


何とか一人ぐらいは白に変えたい。

頭の上の玉は同じ色のままではない、そいつの心次第で白にも黒にも変わる。

だが、灰色などの中間は無い。

白か黒かいずれかだ。


4人の中で一番目をそらさなかったヤツに決めた。

こいつを白に変えたい。


「そなた、名はなんと言う」

「マチルダと申します」

「近こう寄れ」


震えながら近づいたマチルダと手をつないでソファーに連れて行く。


「マチルダよ。そなたに頼みがある」

「なんでございましょう。陛下」

「余の友達となれ」

「友達でございますか・・・」

「いかにも、毎日30分間 余とお茶会をすることを命ずる」

「しかし・・・」

「案ずるな、そなたが何をしようと、何を言おうと決して罰せぬと誓う」

「良いな、まずはお友達からじゃ」

「・・・承知いたしました」


頭の上はまだ黒玉のままだが、何事も一歩一歩だろう。

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