第14話 5歳児と馬車

■馬車の中


ガタガタ揺れる。

気分が悪い。

もう、5歳だ、粗相はしたくない。


何で見に行くと言ったのであろう。

言った自分の口が恨めしい。


昨夕・・・・

執務室で白虎の腹に乗っかって、じゃれている俺のところへ

無表情なハンサム君が入ってきた。

嫌な予感しかしない。

あと少しで夕食というのに。


「陛下、軍務卿より練兵視察の準備が整ったとの連絡がございましたので、明日朝より出立する手配を整えました。」


-視察?・・・

-ウム、新しい軍務卿にそんなことを言った気がする。

-だが、俺の中ではその件はもう終わったような・・・


「その件じゃが、少し前の話じゃし。もう行かなくとも良いのではないか?」


「陛下、恐れながら申し上げます。兵士達はこの日に向け、厳しい修練を積み。陛下の御前に出ることだけを励みにして、明日を迎えております。」

「もし、陛下が・・・」


「わかった、わかった、ハンス。余が間違っておった。して、視察はどこに向かうのじゃ?」


「ブリリアント平原にございます。」


-ブリリアント? 確かそんなに近くでは無い記憶が。


「ブリリアントは、時間にしてどのぐらいの場所であったか?」


「はい。馬車で約半日でございます。」


-半日?

-じゃあ、往復で1日ってこと!?


「ハンスよ。それは遠いぞ。遠すぎるのではないか?一日中馬車に乗ることになるのではないか?」


「いえ、ご安心ください。明朝は日の出前に出立し、現地では昼食を含め2時間ご滞在いただきます。その後、宮殿へのお戻りは夕方前を予定しております」


「宮殿へお戻りいただいてからも充分に国事を決裁いただくことが可能でございます」


-そうではないと言うに!


「いや、余が心配しておるのはだな。そのような長時間の馬車移動にこの5歳の体で耐えられるのかと言うことじゃ」


皇帝用の馬車は、8頭引きで恐ろしいスピードで走ることができる。

だが、揺れる。すさまじく揺れる。

あんなものに一日中乗っていれば・・・


「陛下、ご安心ください。馬車は改良を施しております。鉄製の板を入れて以前の馬車よりも揺れが収まっております。さらに、12頭引きにパワーアップしておりますので、移動時間も短くなりました」


短くなって半日なんであろうが!

少しは仕返しをせねばな。


「では、ハンス。そちも同道せよ」


「陛下、喜んでそうさせていただきます。ですが・・・、不在の間に未決事項が山積するため、お戻りいただいた後のご決裁は5倍くらいのお時間が必要となりますので、ご協力をよろしくお願いいたします」


はぁ、ああ言えばこう言う。

こいつの頭上が白玉と言うのはおかしいんじゃないか?

俺の能力が間違っているのか?


「もうよい、貴兄は執務をしておれ。戻ったときには決裁が無いことを所望する」

「承知いたしました。可能な限り処理しておきます」


・・・

ハンスめ、何が、揺れが収まっただ。

確かに尻は以前より痛くないが、ずーっと揺れ続けているではないか。


しかし、このスピードに親友たちはついて来ているのか?

二人は馬車には乗れないから、俺が出かけるときは走ってくる。

必ずついて来るが今回は過去最速だ。

本当に大丈夫か?

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