第17話 5歳児の夕食と記憶力

■リーブル宮殿 ダイニングルーム


広い。

何故こんなに広い部屋にしたんだろうか?

昔の皇帝は子沢山だったから、必要だったのか?


目の前には20メートルぐらいの真っ白なテーブルクロスが伸びている。

椅子には俺一人。

後ろで親友二人も食事中だが、話はしない。


給仕係も部屋にいるが、口を利いてはいけないしきたりだ。


静かだ・・・

うしろで肉を噛む音がはっきり聞こえる。


昔は、パパンとママンと食べていたことがある。

短い期間ではあったが、会話もあった気がする。


ママンが病気になり、パパンも病気になってから1年近く一人で食べている。

誰も教えてくれないが、やはり「寂しい」という感情なのだと思う。


そもそも頭の中のヤツが教えてくれるだけで、俺には満足な教育係がついていない。

皇太子は見て覚えることになっているからだ。

教育係がよからぬ方へ導くかも知れんと言うことだろう。


俺は記憶のあるときにはすでに、謁見の間で先王と一緒に報告や議案を聞いていた。

文字や言葉がわからないが、頭のなかでは解説するヤツがいた。

ヤツが言うにはこの国に明るい未来は無いそうだ。


カクメイか戦争かあるいはその両方により、いずれ滅ぶと言い切る。

国が滅ぶと言われても気にならないかったが、お前が死ぬといわれては、何となく嫌な気がする。


「死ぬ」と言うこともはっきりとはわからんが、死んでいくやつらを見るとあまり喜ばしいことではないのだろう。


と言うわけで、死にたくない=国を滅ぼさせない。

そのために、5歳なりに頑張ることにしている。


今日の夕食も贅沢なものなのだろう。

民は麦不足で、パンも満足に食べられないと各地の領主から報告が上がっている。


目の前には、何種類ものパンが皿に乗っている。

肉も順番に何種類も出てくる。

気に入ったものを少しだけ食べる。

残ったものは処分するのであろう。


セツヤクとかシッソケンヤクというものとは程遠いようだ。

カクメイだと言う声が聞こえる。


しかし、どうしろと言うのだ?

俺は出されたものを食っているだけだ。


少し出すものを減らしてもらうか?

いや、その程度では民の腹は膨れないだろう・・・


頭のヤツも万能ではない。

なんでも答えを持っているわけでは無い様だ。


うむ。やはり白玉の仲間を増やすべきだ。

宮殿内には俺の悩みを相談できるやつが少なすぎる。


ハンスも優秀だが、あまり自分の考えを言わない。

馬鹿大臣どもは使い物にならない。


よし、明日から白玉の仲間と俺の友達を増やすことにする。


でも、どうやって?


■リーブル宮殿 皇帝執務室


今日もハンスのやつは無理の無い範囲で国事を行えと言う。

やっと昨日の夕食から食事が取れるようになったと言うのに。


だが、やつの言う「無理の無い範囲」というのは「倒れるまで」と同意に思える。

今も机の上には、過去見たことも無い量が積み上げられている。


長丁場なので、ソファーに横になって聞くことにする。

午前中に聞いた100ほどの案件は全てハンスに任せた。


ほとんどが麦・金・人が足りないと言う報告だった。

ただ、今年の収穫は昨年並みで飢饉の心配は無いようだ。


北の帝国も今のところおとなしく、攻勢は無い。

秋の収穫後に仕掛けてくるのだろう。


「陛下、即位式の日取りですが、来月の第二の週に執り行います。」

「そうか、好きにしろ。」


「まず、第一日目に・・・」

「待て、即位式は一日ではないのか?」


「式典自体は一日で終了しますが、アメリア連邦各国の王、領主の謁見が続きますので全て終わるのは5日後となります。それぞれの夜に晩餐会も催されます。」


はぁ、どれだけ面倒なんだ。


「謁見はもう少しまとめて、一日、いや、せめて二日で終わるようには出来んのか?」

「いえ、これでも大幅に短縮しております。先王のときはほぼ一ヶ月続きましたので。」


一ヶ月も、何すんの?


「それから、式典の前までに、各国・各領主の来歴などにお目通しいただき、基本的な部分は覚えていただくようにお願いいたします。」


いやいや、5歳の記憶力を過信しすぎですよ!

絶対無理だって、ハンス!!

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