第2話 5歳児の施政方針

■リーブル皇国 皇帝謁見の間


-バンッ!


おれは小さな可愛い手で椅子をたたいた。

目の前の3馬鹿大臣は不毛な議論をやめて、こちらに眼を向ける。


「陛下、いかがされましたか?」

「あー、結論から言うと摂政は要らぬ」

「バ、何を仰いますか、幼い陛下に国事を行うことなど出来るはずがございません」


「確かにな、そうかも知れんが貴兄らの中から一人選ぶのは難しい。よって、当面は摂政不在で余が執務を行う」

「そのようなことは・・・」


「黙れ、貴様は余の命令に従わぬと言うのか?」

「決して、そのようなことはございません。が、・・・」


「案ずるな、貴兄らの心配は良くわかる。摂政不在は6ヶ月としよう。その間の貴兄らの働きで誰を摂政にするか決めようではないか」


3馬鹿大臣は顔を見合わせた。


「そこでじゃ、3日間の貴兄らの話を聞いておると、わが国には大きな問題が二つあるようじゃ。1つは北の帝国の問題。もう1つは内政での税収の問題じゃな」

3馬鹿大臣は驚きの表情をうかべる。


「で、あれば内務卿アルベルト・シュターナー伯爵、貴兄は1ヶ月以内に税収問題を解決する案を持って来い」

「外務卿グスタフ・トットナム伯爵、貴兄は1ヶ月以内に外交で北の帝国からの侵攻を止める案を持って来い」

「軍務卿のミハエル・エイバッハ男爵、貴兄は1ヶ月以内に軍略で北の帝国を打ち破る案を持って来い」


「貴兄らの持ってきた案で最も良い案を優先して取り上げよう、そしてその案が6ヶ月以内に上手くいけば、そのものを摂政とする。以上だ。」


あー、だるかった。

俺は玉座から降りて白虎にまたがって部屋を出て行く。


後ろで3馬鹿がなんか言っているが聞く耳は無い。


ところで、乗っている白虎の毛ざわりは最高であると言っておこう。

黒狼も大好きだが毛ざわりは白虎が圧倒的だな。


とりあえず、執務室へ行ってお菓子と茶をもらおう。

可愛いメイドのマリーが優しくしてくれるはずだ。


マリーは宮殿の中では数少ない白玉を頭に浮かべている。

生まれた頃から俺の世話をしてくれて俺のことが大好きらしい。

もう一人の俺はマリーの胸と腰が最高だと言って触ろうとする。

これ以上俺の品格を落とすのは勘弁して欲しいものだ。


■リーブル宮殿 皇帝執務室


ソファーでマリーを横に座らせて、茶を飲んでいるとノックをして銀髪のハンサム君が入ってきた。

近衛侍従ハンス・グリーンヒル子爵だ。

こいつも少数派の白玉だ。


こいつの爵位は先王が取り立てたものらしいが、先王が死ぬ前に近衛侍従にして俺の面倒をみるように言い含めていたそうだ。


もう一人の俺が言うには良いヤツだがつまらん。

そう言うことらしい。


「陛下、本当によろしいのですか? 摂政を置かれないと言うことで」


「ああ、構わぬ。貴兄がやりたいならそれでも良いが」

「いえ、私は近衛侍従の職を全ういたします。」


「それでは、早速執務をお願いいたします。先王崩御により、決裁事項がたまっておりますので」


そういって、ハンスは大量の書類を部下に持ち込ませた。

俺の机の上に山積みにする。


無駄な会議で疲れたと言うに・・・


「余は文字が読めぬ。順に読み上げろ」

「承知しました。ではまず西方の河川氾濫の件ですが・・・」


50件ぐらい聞いたが、48件はハンスに任せた。

2件は保留にした。


1件は北の帝国に対する防御を固める徴兵の件。

もう1件は増税の件だ。


いずれも、1ヶ月以内に3馬鹿が案を出せばそれにあわせて考える案件だ。


ハンスは有能だ。任せた案件の事後報告も聞いているが全く異論は無い。

摂政でよいのだが、本人は先王の命にそむくと言ってやる気が無い。


無能なヤツはやる気があるのに・・・


「案件は以上でございます。しかるに、3大臣への指示ですが、皆様ご指示に従って案をお持ちになるでしょうか?」


「余の命である。持ってくるであろう。来なければ・・・」


「いかがされますか?」


「即座に処断する、勅命違反だからな。貴兄はその可能性があると思っておるのか?」


「高い確率で」


「で、あれば、次の大臣を考えておけ」


「かしこまりました」


ふむ、黒玉が減るのであれば大歓迎だな。

5歳児を舐めるなよ。


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