「海の悪魔」

 とある日の午後、マリアナ海溝を歩いていたら、巨大なタコに行く手を阻まれた。「魂をお売りください。壊れていてもかまいません」

 突然そんなこと言われても……。たじろぐ私に大ダコはウインクした。

「ご安心ください。ふつうの悪魔は海に潜れないため、海中での魂集めはわれわれタコが請け負っているのです。魔界公認です」

 そういう問題じゃなくて。と制するより早く、タコは宝石を差し出した。八本の触腕の先に煌めく、色とりどりの美しい結晶。

「沈没船に眠っていた財宝です。さあさ、お好きな石をお選びください」

 これだけの元手があったら、原宿の一等地にお店を開いてやっていけるよ。

「ほんとうですか?」

 目を輝かせたタコを引き連れて、私は東京湾を目指す。口元には天使のスマイル。頭の中ではタコ焼き屋の名前を書いては消して検討している。

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