第15話 樹園の魔物
サムスは『樹園』への行き方がわからなかった。
数分歩き、無闇に歩いては目的地にたどり着けないことを察する。
腰に手をあてて、途方に暮れた。
サムスは性格的に人にモノを頼むのが嫌いだ。
あたりを見渡し、彼は『樹園』のヒントを探す。
「『樹園』はこっちだよ〜」
背後からレント二世にまたがってやってきたアルウが、サムスのいく道を示す。救世主だ。
彼は「別に迷ってたわけじゃない」と言い、レント二世のさらさらの尻尾に続いて歩くことにした。
──しばらく後
「わふゥ!」
「ほら、サムス、見えてきたよ」
アルウは前方を指差した。
サムスはその先を見つめた。
そこは、錆と鋼、雑木と枯れ木に囲まれたスラムの中で、珍しくも手入れの行き届いた庭園だった。
施錠された門と柵があり、向こう側には立ち入れないようになっている。
門のまえには、アサルトライフルをもった男と、魔法の中杖を腰に差して、腕を組む魔術師の姿があった。
「封鎖中だ。魔物がでるぞ」魔術師の男は言う。
「アルウちゃん、すまんが『樹園』には入れないんだ」
ライフル銃を持つ男は申し訳なさそうに言った。
「ふっふふ、強力な助っ人を連れてきたの。じゃーん!」アルウはサムスを2人へ紹介した。鼻高々だ。
「傭兵稼業はじめたサムス・クラフト、わたしの古い友達なの、すっごく強そうでしょ!」
「よろしく頼む」
幼馴染の紹介に、サムスは乗っかり挨拶する。
門番の2人はよわったように頭をかき「傭兵ねぇ……」とうろんげに言って、交渉の末に、しぶしぶ門を開けた。
サムスは満を辞して『樹園』の中に足を踏みいれる、
「ん? なにしてるんだ」
サムスはついてくるアルウを見て目を丸くした。
「わたしも戦うの。サムスひとりじゃ心配だしね」
アルウは腰のホルダーから、魔法の短杖を取り出し、こなれた手つきで、その先端をかるくふって火花を起こして見せた。
「魔術の心得があるのか、アルウ」
「ふふ、スラムじゃ自分の身は自分で守らないとって言ったでしょ?」
(アルウは確か馬飼いの女の子だったはず…)
サムスはアルウの爪先から頭のてっぺんまで、本当に戦えるのか懐疑的な眼差しを向けた。
(細い)
「なんでしょーかー、その目は!」
「いや、別に。凄く強そうだと思った」サムスは適当述べて視線をそらした。
「絶対、思ってない! わかるんだからね!」
アルウは腰に手をあてて「すぐ見返してあげる」と得意げな顔で言った。
「俺たちもついていく」
そう言ったのは、門番をしていた男たちだ。
「お前みたいなぽっと出の奴にアルウちゃんを任せられない」
「これは『スラム・ガーディアン』の管轄だしな」
アサルトライフルを持った男は、胸をたたいて誇らしげに言った。
サムスは聞き返す。
「スラム、ガーディアンだと?」
「そうともさ。俺たちこそ、この街を守る守護者の一員ってわけよ」
「ガーディアンに憧れてるのか?」
サムスは顎をしごきながら楽しげに聞いた。
「当たり前だぜ。ほら、見ろよ、あのでっけえ建物をよ〜! あんな別次元の文明から俺たちの世界を守った偉大なる英雄たちだぜ。尊敬しない奴があるか!」
「そうかそうか。良い心掛けだな」
サムスは「フッ」と澄ました笑みを浮かべ、先導して歩きだした。
「なんだアイツ。なんで、あんなに楽しそうなんだ」
「さあ? あいつもガーディアン大好きっ子なんだろ。俺たちくらいの若い男はみんなガーディアンに憧れてたしな」
「ふふ、ネタばらしは後だね」
『スラム・ガーディアン』たちの会話を聞いて、アルウはおかしそうに笑った。
──しばらく後
サムスとアルウは『スラム・ガーディアン』の2人と共に『樹園』を進んでいた。
「ほら、いたぞ。侵入してきた魔物だ」
男はアサルトライフルの先端で、前方のビニールハウスから出てきた魔物を示した。
「クモンガか」
サムスはひと目見て、魔物の知識と照合して正体を突きとめる。
「知ってるのか?」
「当たり前だ。あれくらい知識にある」
「そ、そうか。やるな…」
アサルトライフルを持った男は、すこしサムスを見直したようだ。
サムスは思いだす。
クモンガは8本足の節足をもったムシの魔物。
足と足のあいだの薄い皮膜で、空中を滑空する姿はモモンガに似ている。
口から糸を吐いて、獲物を拘束することけら森で出会うと、経験豊かな冒険者でも手こずる事がある。
訓練されてない一般人には難しい敵だ。
サムスは敵の戦力を正確にはかる。
結果、サムスは自身の能力で十分に討伐できると判断した。
「引っ込んでな。先にぶっ放して仕留めてやる!」
「おい、よせ、そんなの撃ったら──」
「オラァアー! クモ野郎死ねえー!」
サムスの静止をふりきり、男はアサルトライフルを発砲した。
反動の大きめのフルオート射撃は、弾の多くをクモンガから外しながらも、魔物の体を蜂の巣にしていく。
しばらくして、銃口は白い煙をあげ、音はやんだ。
「へっへへ、あんなクモ野郎なんて余裕だぜ!」
男は得意げにし、死んだクモンガを指差す。
一方のサムスは──、
「うぐっ…」
脳裏をかけぬける、例の頭痛に悩まされていた。
サムスは銃声の音を知っていたからだ。
耳がおかしくなるほど、雨のように降り注ぐ鉛を知っていたのだ。
フラッシュバックするのは、どこか炎に包まれた戦場だ。
銃弾、砲撃、剣と剣がぶつかり、魔法と爆薬が家屋・戦車・歩兵・飛行船さえも吹き飛ばす。
(これは、戦争の時の記憶か……やはり、俺は別世界との戦場に参加していた、のか)
サムスはこのフラッシュバックが嬉しかった。
自分が戦場に立っているという事は、すなわちサムス・クラフトが『ガーディアン』である証明だからだ。
戦場で聞いた″撃鉄の記憶″は、サムスが別文明の人間と勇敢に戦った証拠である。
「ッ、あれ、サムス……」
「ん? どうした、アルウ」
サムスは気分良くアルウの方を向いた。
アルウは憂いを帯びた表情でつげる。
「どうしてサムス、泣いているの?」
「……ッ」
サムスは思わず、自分の目元に手を触れた。
指先にあたる温かいな濡れた感触。
なぜ、涙を流したのか?
サムスは疑問に思った。
答えは見えない。わからない。
「っ」
サムスの悩む頭は、思い悩む時間をあたえないとばかりに、敵意を感じとる。
「銃を乱射したせいで『樹園』中から魔物が集まってきてるな」
サムスは涙をぬぐい、皮肉混じりの言葉をアサルトライフルをもつ男にはなった。
アルウはサムスの様子が戻ったようで安心している。
アサルトライフルを持つ男は、あわてた様子で弾の入ったマガジンを外して、新しいマガジンを装填する。
「ギギギィ!」
「ひぃ、後ろから!?」
アサルトライフルを持つ男は叫んだ。
リロードは完了していない。
奇襲に腰を抜かし、このままで死は濃厚だ。
男は絶望し、人生の幕引きを覚悟する。
「チッ」
とっさに動いたのはサムスだ。
彼は踏み込みひとつで、クモンガと男の間にわってはいり、回し蹴りでクモンガを吹っ飛ばした。
「あわわわ……」
「休憩には少し早いんじゃないか、スラムのガーディアン」
サムスは刀を抜き放ち、男を見下ろして言った。
男は我に帰り、すぐに立ちあがる。
「ま、まだまだ、これからだ!」
「ふん。……んっ、」
視界の端でホッとしてる魔術師の男の背後から、クモンガがこっそり忍び寄って来ていた。
サムスは素早く斬り込もうとし──すんでんのところで思いとどまる。
なぜなら″炎の香り″がしたからだ。
「≪
軽やかな詠唱が奏でられた。
瞬間、魔術師に襲い掛かろうとしていたクモンガは
あたりには焦げ臭さだけが残った。
魔術師、アサルトライフルを待つ男、サムスまでもがその破壊力に唖然としていた。
彼らの視線の先の可憐な女子高生アルウは、得意げに短い魔法杖をふって先端に小さな火花を起こす。
むふぅっと自慢げに笑い、すごく満足そうだ。
「凄いな…」
サムスは思わず声をもらした、
「ふふん♪ まだまだ行けるけどね〜」
アルウは上機嫌であった。
彼女の杖の一振りで、火炎で紡がれたロバは走りまわり、クモンガを1匹、また1匹と炭に変えていった。
「さすが、アルウちゃん!」
魔術師は華麗なテクニックに大喜びだ。お前も何かしろ。
「殲滅する」
サムスはスイッチを切り替えた。美味しいところをアルウにばかり持っていかれてはたまらない。
すべての″敵″を滅ぼすための精神状態へ、自分意思で移行する技。これは訓練された『ガーディアン』にのみ許された残虐性であった。
サムスは走りだした。
片手には黄金のスパークをまとう『黒金』。
「綺麗…」
アルウは刃の美しさに、つい見惚れていた。
超振動する刀は、サムスの類稀な剣術により、縦横無尽にふりまわされ『樹園』中から集まってくるクモンガたちを次から次へと倒していった。
クモンガの死体がふっとび、千切れ、豊かな緑に還っていく。
「す、すげぇ……あんだけ大量にいたのに、ほとんど一人で倒しちまいやがった!」
「なんて手練れだよ。いけすかない態度に偽りないとんでもない強さだな……悔しいが、カッコいい…!」
『スラム・ガーディアン』のふたりは、サムスの圧巻の戦いに大変嬉しそうにはしゃいでいた。
「殲滅完了」
「すっごいね、サムス! ガーディアンが強いとは知ってたけど、ここまでだなんて。驚いちゃった」
「ふん…まあ、筆頭者だしな。これくらいじゃ準備運動にもなりはしない」
誇らしげなアルウに、サムスは涼しい顔で応じて、すこしカッコつけたモーションで刀を仕掛け鞘に納刀した。そういう年頃だ。
「さて、それじゃ、ランドルフに報告しに行こう。実力の証明は……お前たちがしてくれるな?」
サムスは『スラム・ガーディアン』たちへ、片眉あげてたずねる。
「ガーディアン…伝説の英雄・ガーディアンだったのか、あんた、いや、アニキは……!?」
「凄い、本物、本物のガーディアンが、俺たちのアニキに! こりゃみんなに教えねーとだ!」
魔術師とアサルトライフルの男は「失礼します、アニキ!」と言うと、敬礼して、走り去っていった。
「アニキだって、ふふ」
「あんなデカい弟いらない」
肩をすくめるサムスと、おかしくて吹き出すアルウはのんびり街へと帰ることにした。
────────────────────────────────────────
一方『クロガネ隊』
カーボンシティの馬小屋にて、老人からサムスの行方を聞いた『クロガネ隊』はチタン村へ向かっていた。
「へへへ、サムスの野郎、この新しい相棒で思い知らせてやるぜぇー!」
双剣使いゴルドゥは新調した双剣を軽快にふりまわして意気込みを語った。
「ゴルドゥ、そんな振り回してると、また双剣なくすわよ」バネッサを呆れていた。
「へへ、大丈夫、大丈夫。俺様は技量系だからな!」
「ふーん、あっそ。注意はしたからね」
風魔法使いバネッサは「相変わらず、意味わかんない男」と小さくつぶやいた。
「にしても、あのド陰キャなめくじ能無し雑用係童貞は、どうして辺鄙な村なんかに行ったんだろうな」
「くっくく、そんなの決まってるだろ、ゴルドゥ。あの腰抜けは、俺様たちが恐くて逃げたんだ!」
「あはは、そうに違いないわね! わたし達の信頼を裏切るクズらしい、惨めさ!」
バネッサは高笑いをし、バルドローとゴルドゥはそれに続いて楽しげに笑った。
「ん、なんだ?」
「ひひーん!」
3人が老人がいない隙に盗んだ馬たちが、息切れを起こしはじめた。
それは、馬の乗り方に優れない素人ゆえに、走らせ過ぎて馬を潰してしまった証だ。可哀想に。
「クソ! 使えねえ馬だぜ!」
ゴルドゥは歩きだした馬の腹をかかとで叩く。
しかし、馬は走らない。
騎手を振り落として逃げないだけ、馬の優れた能力は評価されるべきだが、もちろん彼らには、そんなありがたみはわからない。
「もー、仕方ないわ。いったん休ませてあげましょ」
まだ、良心が残ってるバネッサは提案した。
「ちっ、仕方ねーな! あの木陰で一休みすっぞ! 『クロガネ隊』休憩だ!」
バルドローは指示を飛ばす。
「もっと、頑張りなさいよ。歩くのめんどくさいから、わざわざリスクを負ってまで盗んできたんだから」
「ひひーん!」
抗議する馬に、バネッサはため息をつく。
「おーい! バルドロー! バネッサ! こっち来てみろよ!」
「ん? 何かしら」
「さあな。馬を木に縛ったら行くぞ!」
バネッサとバルドローは、ゴルドゥの声がする方へ向かった。
バネッサが遅れて、バルドローとゴルドゥの元にたどり着いた。
「っ、これは相当な数の魔物と冒険者が戦ったのね」
「みてーだな。一面血に汚れてやがる。まだ数日ってとこだろーな」
バネッサの言葉をゴルドゥが肯定する。
「はっはは、俺様がいれば、この一面の血全部バスターソードのサビにしてやれたんだけどな!」
バルドローはイキった。
「ん? 静かにして。……なんか音が聞こえない?」
バネッサはやかましい大剣使いを静かにさせる。
ドシン、ドシンっと、大きく、重く、腹の底に響く音が3人の耳に聞こえてきていた。
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