第2話 ショック療法


 

 ーー暗い奈落の底


「ぐ、ぅ」


 サムスは全身を突きぬける痛みに、苦しんでいた。

 特に頭を強く打っていた。

 なんとか、四つん這いになり、岩壁をたよりに立ちあがろうとする。


「っ」


 その瞬間、サムスの脳裏に、焼きつくようなヂィリっとしたノイズが走った。


 ノイズは未知のビジョンを運んでくる。


《哀れな子だ、こんなところで死んでしまうなんて》


「あがッ?! 頭が、割れる……!」


 サムスは不快感に喘ぎ、湿った地面に崩れ落ちた。


《もう十分だろう、過酷な運命から解き放ってあげよう……これはそのためのチカラだ》


 サムスが視野に強制的にわりこんでくる、赤い目をした男の顔を凝視する。


 見覚えのある顔。

 どこかで出会ったはずなのに。

 しかし、サムスは思い出すことができない。


 赤い目の男は、地面に倒れるサムスの右腕を優しくなぞり、ポンポンっと優しくたたいてくる。


《今日から君がサムス・アルドレアだ》


「ぐっ!」


 その言葉を最後に、サムスの脳を焼いていたヂィリヂィリしの痛みは消えていった。


「はあ、はあ、はあ、くそ、なんだ今のは?」


 サムスは汗だくになりながら、不可思議な体験に困惑していた。


 彼は自身の右腕を見下ろす。


 サムスは左手で何かを確かめるように、右腕の手首、前腕、上腕と順番に指で押していった。


 なんだ、このゴツゴツした硬さは?

 サムスは自分の腕の妙な感覚に、生まれて初めての″異質″を感じていた。


 骨より遥かに硬質な感覚は、サムスにひとつのヒントを提示した。


「まさか……これは、サイボーグとやらなのか?」


 暗く、湿って、悪臭の立ちこめる暗闇の中、サムスは頭を押さえながら、ふらふらと立ちあがる。


 サムスは、今しがた自分がつぶやいた言葉の意味を考えていた。


 頭に入ってきた数々のビジョン。


 自身のものではない、断続的な記憶の起こり。

 これは本当に、自分の経験したことなのか?


 そんなまるで、を見せられているかのような違和感がサムスにはあった。


 ゆえに、彼は、ひとつ確かめてみる事にした。


「なるように……なれっ!」


 サムスの視線の先。

 彼は湿った岩壁目掛けて、思いきり右腕をふりぬいたのだ。


 ーーバゴォ!


「ッ」


 その拳は、いともたやすく、岩壁に穴をあけてめりこんでいった。


 これまで戦えなくて雑用係にあまんじていたサムスにとって、それは驚愕を禁じ得ないパワーだった。


 『クロガネ隊』の雑用係としては、今まで経験したことのない高揚感。


「これが、俺の腕なのか……?」


 もはや疑う余地はなかった。


 サムスは本物かどうかすら疑わしい右腕の皮膚を指でなぞり、そのしたにある後天的に植え付けられた金属骨格を再度たしかめ始める。


 サイボーグとは『別世界』の科学技術によって、人体を機械に差し替えたモノたちを示して言う言葉だ。


 本来、サムスたちの世界の科学ではないソレは、かつて『別世界』が侵略戦争をしかけて来た時に奪われた、この大陸中央部の土地に築かれた『理想都市アルカディア』でのみ使われているはずのモノである。


 異世界人類のサムスにはわからなかった。

 どうして自分の体が、サイボーグ化されているのかが、まったく見当がつかなかった。


「腕、肩、胸までサイボーグなのか?」


 サムスは順番に左手で触ってみて、自分の体はどうやら″右腕、右肩、右胸″までが機械なのだと知った。


 どうして、今まで忘れていた?

 サイボーグ施術を受けた事忘れる事なんてあるか?


 もし異世界人の自分がサイボーグ化などしていたのなら、その体験を忘れるはずない。


 そんな疑問がサムスには思い浮かんだ。


「……とにかく、今は上へ戻らないと、か」


 不可解なことはある。

 だが、ここで立ち止まって考えても仕方がない。


 サムスはそう判断して、体に怪我がないことを確かめて、暗い穴の底を歩きだした。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 ーークロガネ隊の視点


「なにこれ! 重たすぎるんですけど!」

「文句言うな、バネッサ! お前はリーダーでも、サブリーダーでもねぇんだから仕方ないだろーが!」


 重さ80キログラムのリュックを引きずりながら、バネッサは荒い息をついていた。


 便利で万能な誰かさんが消えたおかげで、彼らは役職のない者の役割繰り下げをはじめたのだ。


「もうなんで、サムスが持たないのよ!」


 叫びリュックを思いきり引きずるバネッサ。

 天然のダンジョンの地面は荒く、特に坂道でそんな事をすれば……、


 ーービリッ


「あ」


 嫌な音がした。


 見るとリュックの底に大きな穴が空いてしまっていた。


 リュックのなかから、『クロガネ隊』が何時間もかけて採集した鉱石や、爪、牙、皮、骨などの魔物の素材があふれ出して、コロコロ坂を転がってダンジョンの奥へ行ってしまう。


 バネッサは目を見開き、悲鳴をあげる。


「いやあああ?! やめて、お願いします! 止まってぇええ!」


 バネッサの声に、大剣使いバルドローと、双剣使いゴルドゥは呑気にふりかえる。


 そして、自分たちの収穫が全部、ダンジョンに帰っていくところを彼らも目撃した。


「どぅはぁあ?!」

「ちょまっ!? やめやめやめ、何してんだバネッサてむぅめえ?!」


「いいから、はやく追いかけてよ! わたしはもう疲れたんだから!」


「俺はリーダーだぞ! こんなたくましいバスターソード背負ってんだから、坂を走って降りたら危ないだろ! 疲れちまうだろーが!」

「俺だって、サブリーダーだ! こんな雑用係の仕事やってたまるか!」

「なんだとゴルドゥ、お前が行かなきゃ誰がいくんだよ!」

「バネッサに行かせればいいだろ!」

「それもそうだな!」


「ひぇ?!」


 大剣をチャキっと鳴らして、言外に「はやく拾ってこないと……こうだぞ!」とバルドローは風魔法使いのバネッサを脅してきていた。


 身内のとんでもないクズ加減を目の当たりにして、バネッサは涙目で首をブンブン縦に振る。


「わーん、なんで、サムスこんな時にいないのよー! せっかく集めたのに、全部どっか行っちゃうじゃないのよ! サムス、助けてよー!」


 バネッサは手に持っていた大杖を置いて、必死にダンジョンの坂道をくだりはじめた。


「よし、とりあえず、素材はバネッサが拾ってくるとして……この分かれ道だが……おい、ゴルドゥ、どっちに行けば出口なのか、もちろんわかるよな?」

「は? サブリーダーの俺がダンジョンのマッピングなんてしてるわけないだろーが」


 大剣使いバルドローと、双剣使いゴルドゥの間に微妙な空気が流れる。


 戦闘至上主義のふたりには、剣を振る以外のスキルはない。


 よって、当然こうなる。


「「おい、サムス! 帰り道わかんねーぞ!」」


 声を揃えて振りかえる2人。


 しかし、もうそこに頼ってきた雑用係の姿はなかった。


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