第6話 戦闘用と黒金と旅立ち


 謎の声は続けて喋る。

 

《というか、サムス、私の予想だと君以外にはいないんだけど、その部屋に入るのは》


「何者だ」


 サムスは問いかける。


《たぶん、そろそろ「何者だ」とか聞いてきてるかもしれないけれど、その質問には答えられない。だってこれは記録された音声を再生してるだけだから》


「……」


 サムスに眉をひそめ、やや不機嫌になった。


《まあ、ともかく。まずは君にプレゼントを用意した。受け取ってくれ》


 声がそう言い終えると、全自動手術台のまわりが、サイバーチックに青く光った。


「意味不明な機械に身を任せろと?」


《その通り》


 タイミングバッチリに答えてくる録音。


 サムスは呆れかえり、部屋を出ようとする。


《まあー怖いのも仕方ないよ〜? 別世界由来の謎の機械なんて、いくら『筆頭ひっとうガーディアン』でもチキるよなぁ〜!》


「……っ、筆頭ガーディアン…」


《うんうん、わかるわかる。怖かったらそのまま部屋出ていってもらって構わないから。かわりに″過去の記憶″については何も教えてやらないけど》


 サムスは舐め腐った言い草に腹が立っていた。


「いいさ、座ってやる。俺は筆頭ガーディアンのサムスだ。こんなモノ恐れはしない」


 サムスは思い出していた。

 

(そう、俺は筆頭ガーディアン。ガーディアンたちの中でも最高峰とうたわれた者たちのひとりだった)


《グッド。なら、さっそく座ってみてくれよ》


「……本当に録音か…?」

「わふゥ、わふゥ」


 サムスはいぶかしみながら、ゆったりとした手術台に腰掛けた。


 手術台が自動で稼働していき、サムスの手首足首を台座に固定する。


 サイボーグの右腕はより強固にロックされて、もはや1ミリも動かすことは叶わない。


《今から始めるのは″腕の付け替え″だ。もう知ってると思うが、お前の右腕、右肩、右胸はサイボーグ化されている。ただ、今ついているパーツは、強化プラスティックを主体に作くられてる。いわば″常用″だ》


 声が部屋に響きながら、サムスの服は破かれ、右腕は次々に解剖されていく。


 サムスはまったく痛みを感じてはいない。


 ニセモノの皮膚の下から、無数の精巧な金属パーツが出てきても、およそ予想していた事だからまだ耐えられる。


 だが、四方八方からロボットアームが伸びてきて、自身の体を改造するのは、ちょっと違う。

 いくら筆頭ガーディアンとして、死線や修羅場を越えてきたサムスでも顔を引きつらせていた。


 やがて、ロボットアームがサムスの″常用″を取り外し終えると、今度はどこからともなく、メタリックなブラックカラーの腕がやってきた。


「わふゥ?!」


《そいつは″戦闘用″。いや、がサイボーグ技術に着手するキッカケとなった一番最初の筋電義手とも言うべきか。実を言うと戦闘用でも何でもないが、クオリティは現人類が持つモノとは別の領域にあるシロモノだ》


 ガチャガチャ勝手に動くロボットアームによって、サムスに″戦闘用″が取り付けられた。


 まだ人間のフリが出来ていた腕は、完全に機械的になってしまった。


 肩はいかつく、胸までメタリックだ。


 黒い機械腕は、ヴォンっという低い音とともに、水色のライトを各パーツの隙間から発光させた。


 新しい腕の機動が完了すると、全自動手術は終わりをむかえた。


 サムスの固定が解除される。


《そうだ。これも


「ん」


 ようやく台座から立ちあがったサムスは、勝手に開いた壁を見る。


「わふゥ!」


 隠し棚の壁のなかには、一本の刀が入っていた。


「うぐっ……」


 サムスは刀を見た瞬間、鋭い頭痛に襲われた。


《俺の意志も、意味も、使命も全部やるよ》


 フラッシュバックするビジョンは、黒髪の青年がサムスに刀を渡している光景だった。


 豪雨のなか、記憶のなかのサムスは泣きながら、その黒髪の青年の名前を呼んでいる。


《ダメだ…アモン、お前がやれよ!》

《はは…無茶な……必ず守り抜けよ、サム》


「アモン……」


 サムスはつぶやいた。

 気がつけばフラッシュバックはおさまっていた。今の光景は……。


 部屋の記録音声は続ける。


《『黒金くろがね』。高周波ブレードに改造してある。仕掛けによる電磁加速で、抜刀の速度を著しく上げることができるようだな。鞘が特殊なんだ。何がいいのかわからないが、きっとお前なら気持ちよく使えるんだろ》


 呆れたように《不細工なデザインだ》と付け加える録音された声を無視して、サムスは仕込み鞘におさめられた高周波ブレード『黒金』を腰に装備した。


 サムスは複雑な機構のせいでゴツゴツした鞘を眺める。


 サムスはこの鞘に見覚えがあった。

 しかして、どこで見たかは思い出せない。


 わかるのは『黒金』の以前の所有者は、この録音音声が言うとおり、サムス自身であると言うことだけだ。


「電磁加速……いや、まずは高周波ブレードについて教えろ」


 サムスは当然のように答えてくれるものと考えて、録音音声に命令する。


《さあ、話は終わりだ。筆頭ガーディアン、そこはもう10秒で木っ端微塵に消し飛ぶからはやく退避することをおすすめする》


 サムスの質問にこたえず、録音音声は途切れた。

 なんて身勝手で都合の良い音声だ。


「チッ!」

「わふゥ!」


 サムスは急いでルゥを抱きあげ、ピーっ、ピーっ、といかにも危なそうな音が鳴る地下室を飛び出した。


 地下室を脱出した瞬間。

 巨大な爆発が地面の下から盛りあがり、地上へ退避したサムスの足元を吹っ飛ばしてしまった。


 サムスは空中で爆風に揉まれながらも、近くの屋敷の屋根に着地する。


「クソっ、なんだったんだ、アイツは」

「わふゥ」


 サムスとルゥは、再度、爆煙につつまれるアルドレア家跡と、そこへ群がる野次馬たちを屋根のうえから見下ろした。



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 ーー翌日


 サムスは一晩考えた後、行動を起こすことにした。


 つまりは、記憶の探求だ。

 サムスは確かめなければいけなかった。


 貴族として個人的に多少の蓄えはあった。

 サムスそのお金で旅の準備を整える事にした。


「兄ちゃん、その腕はなんだい……まさか、別世界の人間なんじゃ……」


 サムスは訪れた衣服屋の店主を睨みつける。


「俺はガーディアン。しかも筆頭者だ。言葉に気をつけろ」


 サムスは別世界が憎くて守護者となったのに、このように言われるのは不快だった。


 ただ、サムスは何が憎かったのか、どうやってガーディアンになったのかは、いまだに思い出せていなかったが。


「っ、す、すみません……!」

「腕はこのままだと目立って仕方がない。マントをくれないか。戦闘にも、長い旅にも、耐える丈夫なマントだ」


 サムスは右腕を肩から隠せる、片マントを探していた。


 店主はおびえてながら、レザー生地の黒くて丈夫なものをすすめ、サムスはそれでサイボーグの義手を隠す事にした。


 片マントを右肩に装着して義手を隠すサムスは、その足で旅の準備を進めた。


 準備が粗方おわると、サムスは地図をひろげて、図面のうえにあるはずの村の名前を探しはじめる。


 冒険者ギルドの酒場のすみっこ。

 サムスはただ黙って探し続けた。


 目を皿のようにして、地図を見つめ続けると、やがてそれは見つかった。


「チタン村……ここから歩いて3日の距離…」

「わふゥ!」


 サムスは荷物をまとめ、ギルドを出た。


 無くした過去に出会うため。

 待たせているかもしれない、名も知らない少女に会うため。


 忘却のガーディアンが目指すのは6年前に飛び出した故郷だ。



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 一方『クロガネ隊』


「な、なんとか出てこれたわ!」


 風魔法使いバネッサは朝空に叫び、草原に倒れこんだ。


「生きて、出られた……!」


 双剣を失ったゴルドゥは泣きながら、命のありがたみを抱きしめる。


「サムスぅぅぅう! 絶対に許さねぇえ!」

 

 荷物となっていたバスターソードを放り捨て、リーダーのバルドローは地団駄をふんだ。


 ただいま、熊級冒険者パーティ『クロガネ隊』は数日間さまよったダンジョンを脱出したところだ。


 ようやくの思いで出てきた彼らは、自分たちを裏切ったサムスに激しい怒りを感じていた。


「クソッ、とにかくカーボンシティに戻るぞ!」

「あの童貞クソカス不能陰キャ……このわたしが可愛い笑顔見せてあげたのに、嘘をつくなんて許さないわ!」

「あの雑用係には、弁償金をはらってもらわないとな!」


 復讐に炎を燃やす『クロガネ隊』はカーボンシティへ向けて帰還をはじめた。



 ──しばらく後



 『クロガネ隊』はカーボンシティに帰ってきた。


 バスターソードを持ち直し、疲れきった様子のバルドローは一旦パーティを解散させた。


 バネッサ、ゴルドゥは、それぞれが宿屋へいって寝たり、食事処でまともな飯にありついた。


 束の間の安泰である。



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