第10話 到着、チタン村

 

 ーー翌日


 昨晩、ゴブリン&リジェネ・オーガの一団を退けたサムスたちは、この日朝早くから移動を開始していた。


 サムスは地図を確認する。

 もうじきアイアン村に着くためだ。


 チタン村は、アイアン村の手前の道で分かれて、さらに″別世界領域″に近づくことで辿り着ける。


「この腕ってアルカディアでくっつけたの?」


 サムスのとなりを歩くピジョットは、興味津々で彼の右腕をつつく。


 本物のガーディアンと認めてからというもの、ピジョットはサムスの事が気になって仕方がなかった。


 特に機械パーツの隙間のサイバネティックなブルーライトが美しい、黒くてツヤツヤした右腕の事はずーっと、ずーっと質問してどうしても知りたがった。


 当然のように、サムスは鬱陶うっとおしがった。


「言いたくない」

「えー、ちょっとくらい教えてくれてもいいのになー」

「金貨50枚で教えてやる」

「ケチッ、どケチッ! けちけちガーディアン!」


 ピジョットは駄々をこねるかのように、サムスの左腕にしがみつく。


 押し当てられるピジョットの薄い胸にギョッとして、サムスはそそくさと馬車の反対側へ逃げた。


 この二日間くりかえしてるルーティンだ。


「やあ、サムス。我が話し相手になろうか?」


 馬車の反対側へいくと、必ず筋肉野郎バッグズがサムスに話しかけるのもお約束だ。


「いい。黙って護衛しとけ」


 サムスは見向きもせず、ただ地図を眺める。

 

「はぁ、これは手厳しい。でも、我って意外にこういう興味は我慢できないんだよね」

「わふゥ」

「どうして、チタン村へ行こうと?」

「あんたも質問攻めか。『闇夜の鴉』は詮索が大好きなやつが多い」

「それほどでも♪」

「褒めてない」


 サムスの両サイドは、厄介な奴らにはさまれていた。


「少しくらい、いいじゃないか。我らって夜営した中なんだし」

「そうそうー! あたしって結構、美少女だし、こんなに熱心に話しかけてもらえる事もうないかもなんだからね! 本当、大事にしてほしいなー!」

 

「はあ……」


 サムスはわざとらしくため息をつく。


 が、そんなモノで彼らを追い払えるわけもない。


「……ガーディアンになる為に、ずっと昔に故郷を出たんだ。これは戦争終結してから初めての帰郷だ。知り合いが……たぶん、待ってるんだ。チタン村で」


「え? 終結してから一度も帰ってないの?」

「どうしてなのだ?」


「いろいろあるんだ。ガーディアンだからな」


「あ、誤魔化した。けちけち反応アリ!」


 ピジョットがまたしても騒がしくなり始めた。


「ふむ。では、その待たせているという知り合いに会えるといいな、サムス」


 バッグズは顎をしごき、胸筋をピクつかせてエールを送った。


 サムスはただ一言「ああ」と答えた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ここで、お別れなんですね」

 サムスは馬車から馬を外しながら「ああ」と一言だけ答える。


 馬は、報酬を払えないリットンが提示した担保だ。


 サムスは馬にまたがる。


 貴族として乗馬はたしなんでいたので、問題なく乗ることは出来た。


 もっとも、今となってはこの記憶がホンモノかどうか、サムスには明言する事はできないが。


「ねーねー、最後にその腕とか機械鞘とか刀とか、いろいろ教えてくれてもいいんだよー?」

「断る。金貨50枚持ってきたら教えてやるって言ってるだろ」

「むぅーっ!」


 ピジョットはむすっとして「もういいよ!」と拗ねてしまった。


「ありがとうございました、サムスさん。リジェネ・オーガの一団が出たときは、本当にどうなるものかと……とはいえ、お互い無事に目的地にたどり着けそうで何よりです」

「ああ。そっちも残りの道程、油断するなよ」


 サムスはアンガスに薄く微笑み、彼らへ背を向けて馬を走らせ始めた。


「ガーディアン、行っちゃったぁ……」


 セーラは寂しそうにつぶやく。


「僕の馬が……しくっ」

「まあまあ、もうアイアン村も近いですし、新しい子が手に入りますよ。さっ、それじゃ俺たちもさっさとクエスト完了しちまおうぜ」



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 リットン護衛『闇夜の鴉』一行とわかれたサムスは、馬の足で軽快に目的地へとむかっていた。


「わふゥ」

「落ちるぞ」


 落馬しそうになるルゥを懐にしまいこむ。


 サムスは新緑のなかを走りながら考えていた。


 あの少女は俺を覚えているのだろうか。

 俺はあの少女を思いだせるだろうか。

 チタン村は俺の本当の故郷なのか。

 

 サムスは考えていた。


「わふゥ!」

「森を…抜ける」


 目の前の光。

 白びかりして明暗のギャップに見づらい向こう側。


 ここを抜ければチタン村だ。


 サムスは明るさに目をぎゅっと細めながら、ついには森を抜けた。


 真上にのぼった太陽のひかりに、目を慣らしていく。


「……っ」

「わふゥ?」


 サムスの視界は良好だ。

 だが、サムスは唖然として、一歩も動くことが出来なかった。


 サムスの見た光景。


 それは、真っ黒になって″燃え尽きた村″であった。


 あの黒煙の臭いがしてきそうなほど、壮絶に燃えたことがわかる風景。


「……」


 サムスは冷静に現実を受け止めながら、馬を前へ進ませる。


 どうしてだろうか。

 サムスには何となく″こんな事だろう″という予感のようなものがあった。ゆえに取り乱さなかった。


 廃村のなかを移動してみると、家屋のひとつも無事なものがなく、ここには人の気配がないことがわかる。


 馬を降りて、適当な焼け跡を調べる。


 サムスは膝を降り、朽ちた家の床に新しい雑草が生えているのを発見した。


「チタン村が燃え尽きてから、時間が経っている」


 サムスはもっと焼け跡を調べてまわることにした。


 ──しばらく後


 調査を開始して数十分後。


「っ」


 燃え尽きた家屋のひとつを見た瞬間。


 サムスの脳裏をあの鋭い痛みが襲ってきた。


 フラッシュバックされるビジョンは、轟々と燃えあがる火炎の柱だ。


 否、それはを描くがごとく、すべてをつつみこむような炎の壁だった。


 村からひとりも逃がさないような死の壁だ。


「ぁ、ぐぅあ!」


 以前よりも強烈な頭痛に、サムスは地面に膝をつく。


《勝利のために喜んで死ぬがいい》

《わたしは、許さない……! 絶対に…!》


 チカチカと切り替わる視界のなか、黄金の槍をもった、金髪長髪の背の高い男が立っている。


 ──その男は高らかな笑い声をあげていた。


「はあ、はぁ、はぁ」


 フラッシュバックがおさまり、サムスはふらふらしながら立ちあがる。


「奴は……………そう、グリフィン……」


 サムスは思い出した。

 『栄光のガーディアン』と呼ばれた、あの男がチタン村を滅ぼしたことを思い出した。


「そうだ、俺は裏切り者のあのガーディアンと、ここで戦い……そして、勝利をもぎ取った」


 サムスの記憶はまだ判然としない。


 だが、忘れてはいけない裏切り者の事は完全に思い出せていた。


「グリフィン、そうだ。あいつが俺の村を……っ、それじゃ、ほかの村民はどこへ?」


 サムスの脳裏をあの少女の顔がよぎる。


 もしかして死んでしまっているのか。

 俺が探しているのは亡霊の影なのか。

 俺の記憶はここで終わりなのか。


 サムスは途方に暮れた。


 その時だった。


「もしもし、そこの若いの」

「っ」


 サムスは背後から声をかけられた。



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