第9話 守護者の力
草原をかけぬける一陣の風。
蒼銀の前髪が揺れるのを、わずらわしく思いながら、サムスは刀を抜き放った。
「ッ、……この感覚は…」
剣を手に持った瞬間。
サムスの脳裏をあの鋭い痛み刺していた。
肉体が刀の重さを思いだす。
手のひらが充足感に熱をもつ。
腰が自然とすえられ安定していく。
すべてはこの剣士が知っているモノだ。
「あの刀、なんか不思議な音がしないか……?」
アンガスは耳を澄ませて、眉尻を寄せる。
「ガーディアンの武器だ。名のある『
答え、鼓舞するのは筋肉。
『夜闇の鴉』はサムスの横をぬけて、むかってくるリジェネ・オーガを迎え撃つ。
「うぅ、なんか鳥肌たってきた、ガーディアンの戦いが見れるよ」
「敵はリジェネ・オーガ…どうするんだろぅ〜…ドキドキ」
サムスは背後でささやかれる声を聞き流し、散歩するようにそよ風が吹く草原をあるく。
彼は自分の右手に握られた刀がはなつ、涼しげな鈴の音色のような″不思議な音″に、耳を刀身に近すけて目をつむった。
ーーヴゥ…ンゥ…
「この刀…振動してるのか……?」
サムスはこの『黒金』と呼ばれる刀が、
肉眼ではわかりずらいが、黄金色のスパークをわずかにまとう刀身は、確かに揺れていた。
魔力によって刃を強化する『魔法剣』にはない特徴だ。
(これが高周波ブレード……別世界の科学武器ということか)
「どうしてこんなモノに、懐かしさを感じるのか…」
黄金の刀身に困惑するサムス。
彼は刀をもて遊ぶように、軽くふりまわし向かってくるリジェネ・オーガを見据えた。
「ニンゲン、オンナ、ヨコセ!」
身長2メートルを易々と超える巨体が、サムスへ向けて棍棒を振り下ろす。
相手の攻撃にたいして、どう動けば良いのか、サムスの体は適切な解答をだして避ける。
「そうか、こんな感じだったか」
「ニンゲン、ドコニ──」
サムスはステップひとつで軽やかに回避をおこないながら、同時に高周波ブレードをふりぬいた。
「ッ」
その瞬間、彼は驚いていた。
手につたわる、刃を倒す瞬間の抵抗感。
それがほとんど感じられなかった。
この刀は……あまりにも良く斬れすぎる。
「グアァあああああ?!」
サムスはご機嫌な顔で、散歩を再開する。
その背後で巨大な鬼は、上半身と下半身を一刀両断され、叫び声と一緒に死んでいく。
サムスは崩れ落ちるリジェネ・オーガの向こう側に、目を見張り驚愕するリットンや、後衛の少女たちの姿を見た。
前衛で戦っているはずの、アンガスもバッグズも、さらには敵であるリジェネ・オーガでさえ、仲間の瞬殺劇に固まってしまっている。
ガーディアンの参戦は、ただの一刀だけで、戦場の緊張感を何ベクトルも引き上げていた。
「ァ、アイツ、コロセ、アイツ、アブナイ!」
リジェネ・オーガとまわりのゴブリン達がいっせいに走りはじめた。
目標は当然のように、あのガーディアンだ。
サムスは首を左右にふり、″敵″の数を把握して、殺しのプランを一瞬で組み立てていく。
「
静かなつぶやきが聞こえた後。
サムスの姿が消えた。
否、現実に消えたわけじゃない。
爆発する足元が、サムスが弾丸のように素早い初速で踏み切りをおこなったのだと周りに理解させる。
『闇夜の鴉』のメンバーとリットンが、次にサムスを目でとらえられたのは、またしても、リジェネ・オーガの背後であった。
背中合わせで立つ、鬼とガーディアン。
「グアァア?」
リジェネ・オーガはまだ死んでいる事に気がついていない。
肉体に走る違和感を感じ取って首をかしげるだけだ。
瞬き何回かの後。
リジェネオーガの肩からうえが、非常識な切断面となって滑り落ちる。ようやく世界は、リジェネ・オーガの死を認識した。
サムスは息もつかせぬ走りで、剣を片手に、ゴブリンたちを軒並みなぎ払いながら、3体目のリジェネ・オーガへ向かっていく。
「グアァアアア!」
リジェネ・オーガは混乱とパニックからか、乱雑に、がむしゃらに棍棒をふりまわし始めた。
サムスは構わず突撃する。
彼は嵐のようにふりぬかれる質量の暴力を、手に持つ刀で一閃し、オーガの棍棒を無意味に帰した。
根元から斬られ、ただの雑木の塊はどこか遠くへ飛んでいく。
武器を失ったリジェネ・オーガは、今度は頭から股下に、垂直に一刀両断されてしまった。
まるで、斬り方を思いだすように、サムスは様々な斬撃を繰りだして試していた。
「ァ、ァ、アグゥアああ!」
最後のリジェネ・オーガは恐怖に耐えきれず、森へと一目散に逃げだす。
サムスは刀についた
戦闘終了──。
アンガス、バッグズは呼吸を忘れていたのに、ようやく気がつき、戦闘が終わった安心感に大きなため息をついた。
リットン、ピジョット、セーラも瞬きを忘れていたために、乾いたまなこを擦りはじめる。
サムスはそんな彼らを、いちべつし……森へ逃げていくリジェネ・オーガの背中を見つめる。
氷のように酷く冷たい眼差し。
戦闘は終了したはずなのに、何をするのか。
一同が守っていると……サムスはわずかに腰を落とした。
途端に、彼の体を青紫色の『剣気圧』のオーラが包みこんだ。
その瞬間──。
「フッ!」
サムスは目にも止まらぬ神速で抜刀し、刀を再び鞘に納めた。
あまりにも速すぎて、他者には何をしたかわからない。
周りには、サムスがピクッと震え、刀をゆっくりと納刀するモーションが見えるだけだ。
「殲滅完了」
サムスがそう静かに告げて、納刀しおえ、気軽な足取りで馬車へ戻っていく。
「グアァあ、ぁ、あ……」
あと少しで森にたどり着けた、20メートル先のリジェネ・オーガは背中を″
その場にいる、他の人間たちはポカンと口を開け、絶技にすっかり魅入ってしまっていた。
「報酬は金貨3枚だ」
サムスは馬車を背に、気怠げにもたれかかり、リットンに言った。
「金貨3枚……っ、そんな、高いお金、払えませんよ……!?」
「死なずに済んだんだ。命に比べたら安い」
サムスは突き放すように言って、もう話す事はないとばかりにまぶたを閉じた。
彼はただいまの自分の体が思い出した感覚について、整理をしようとしているのだ。
──しばらく後
「凄いもん見られたな」
アンガスたち『闇夜の鴉』は、ギルドに討伐の証拠として提出するためのゴブリンの耳や、リジェネ・オーガの首を回収する作業にはいっていた。
これらがないと討伐の証にはならず、ギルドから報酬を受け取れないので、思わぬ戦闘をした冒険者にとっては大切な作業だ。
「はあ〜……本当にガーディアンだったんだ……あのサムスって人、スッゴイんだね」
ピジョットはウキウキした様子で、馬車のところで瞑想にふける蒼銀髪のガーディアンを見つめる。
「アレは本物、だな」
「我もそう思っていたところだ。ガーディアン……アレほどのチカラの持ち主だとは」
「流石は戦争の英雄……だよねぇ〜…」
「まっ、ちょっとばかし、意識高くて、いけすかない感じはするが……頼れるには違いねぇな」
「ガーディアンなんて、どこか変じゃないとなれないって事じゃないかなー、たぶん」
『闇夜の鴉』は、ピジョットのつぶやきに深くうなずき「確かにな」と言った。
「ところで、アレは見た?」
「ん? アレって?」
「いや、それがさ、あのサムスってガーディアンの右腕が──」
ピジョットのこしょこしょ情報に皆は、驚きの声をあげた。
───────────────────────────────
一方『クロガネ隊』
当然のようにバルドローは怒鳴りだす。
「ふざんけんじゃねぇよ! 俺たちがどれほど苦労してあのダンジョンを生き抜いたと思ってやがる! 持ち寄ったアイテムも全部使った! アクバッドだって30体どころか、その倍は倒してきた!」
「そうよそうよ! あんた固いこと言ってないではやく報酬ちょうだいよ!」
「俺たちに何の恨みがあんだ! あんま舐めたことしてると痛い目見るぜ!?」
もはや『クロガネ隊』のメンバーは、武器すら抜くことを辞さない勢いであった。
受付嬢は「めんどうだなぁ……」とつぶやき、手元の魔導具を操作してどこかと通信をとる。
「おい、てめぇ、話聞いてんのか! いいから報酬寄越せよ!」
バルドローが受付嬢に詰めよる。
受付嬢は乱暴な冒険者にうんざりしながらも、ギルドの制度を丁寧に説明しはじめた。
「それぞれの魔法生物ごとに、討伐の証が何処になるのか覚えて、それをギルドに提出するのは義務です。猫級冒険者のかたでも皆、ルールに従っています。もちろん、熊級でも、オーガ級でも、ポルタ級でも、さらにはドラゴン級冒険者でもこのことは変わりません。……逆に疑問なのですが、今まで一体どうされていたんですか?」
受付嬢は質問してから、自らの失態に気づく。
彼女は煽るつもりはないのに、目の前の男の無茶苦茶に、つい煽り口調になってしまっていたことに。
「くっそぉおお! これもサムスが俺たちを裏切ったせいだ!」
「あのクソカス童貞陰キャ貴族もやし雑用係のせいで、俺たちはクエスト報酬を受け取らないなんて! 俺たちが何したってんだよ!」
「こんなの不公平よ! バルドロー、ゴルドゥ、今すぐサムスの家に文句言って弁償金をもらいにいきましょ!」
バネッサのヒステリックに、バルドローはうなずく。
だが、ふと彼は思いとどまると、受付嬢のほうへ向き直った。
「いや、その前に、この舐めた態度の受付嬢だ」
大剣使いバルドローは、背中のバスターソードに手をかけた。
受付嬢は涼しい顔で「え、こいつまじ?」と内心の動揺を隠す。
「別世界じゃ、情報通信だとか、なんとかでめんどくさい手間はないって聞くのにな。俺たちが報酬を受け取れないのは、いつまでも冒険者ギルドが古臭い方法に頼ってるせいだ。責任とってもらうぜ!」
「そうくるかぁ…うーん。まあ、一理ありますよね」
受付嬢は細い腕をくみ、確かに別世界の情報通信技術を冒険者ギルドも導入するべきだとうなずいた。
ただ、バルドローのプライドを、そんなクールな受付嬢の余裕の態度がさらに逆撫でした。
「サムス見てぇに気取ってんじゃねぇーよ! ムカつく女だなぁあ!」
バルドローは大剣を抜きはなち、振り下ろそうとし──。
「おっと、そいつはやめとけよ、冒険者」
殺伐とした受付カウンターに、男の声が響いた。
「ぬぐぁ?!」
同時に体験を抜こうとしたバルドローの体が浮きあがる。
1秒の後──バルドローの体は、床にめりこむほどの衝撃で押さえつけられていた。
バルドローは衝撃に気絶して白目をむいている。
野次馬していた猫級冒険者は言った。
「あれ、ガーディアンだ…」
「あの冒険者、もう終わったなー…」
現れた男は受付嬢へ向き直る。
「お兄ちゃん、遅い」
「いや、ごめんって。そんな怖い顔するなよ」
受付嬢と現れたガーディアンが兄妹の関係だとわかると、まわりの人間たちは、喧嘩を売る相手を間違えたバルドローへ同情の目をむけた。
「あー、君たち、こいつの仲間かい?」
「ギクっ!」
「わ、わたしたちは……」
こっそり逃げようとしていたゴルドゥと、バネッサの肩ががっしりガーディアンに掴まれる。
「ほら、旅は道連れって言うだろ? 憲兵の世話になるのも、仲間と一緒なら悪くない」
「い、いや、わたしたち違うんです!」
「すみません! 許してください! 俺たちはお金ないんです! このままだと檻に入れられちまう!」
叫ぶゴルドゥは、必死に頭を働かせる。
そして、突破口を見つけた。
「ああ! そうだ、クエスト! 二つ目のクエストがあったはずだ! おい、俺たち『クロガネ隊』はダンジョンのマッピングをしてたんだ──」
ゴルドゥは土壇場でクエスト報酬だけでも受け取ろうとする。
受付嬢はチラッと手元の資料を確認し、憲兵に引き渡され、連行されるゴルドゥへ告げた。
「2日前に報酬は受け取られていますよ」
一瞬の思考タイムがゴルドゥにあった。
そして、言葉の意味を理解したゴルドゥは憲兵に連行されながら叫んだ。
「サムスぅぅうーッ! 許さねぇぞぉお!」
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