第5話 未知との遭遇


「わふゥ」


 サムスはミニ・ケーブファングに携帯食料をあたえる。


 カーボンシティは目の前だが、サムスはどうにもお腹が空いて仕方がなさそうな小動物を見捨てることが出来なかった。


「もう着くから、我慢しろ」

「わふゥ!」

「そんなこと言ったって、もう何もない…ルゥ」


 サムスは無限に食べ物をねだる、ルゥと名付けたミニ・ケーブファングを、膝上から地面に下ろした。


 カーボンシティへと入っていく。


 顔見知りの衛士たちに手をあげて挨拶する。


「よお、サムス、元気してるか?」

「ああ」

「ところでよ、聞いたか? 東のデカイ家が火事になったってよ。ほら、あの黒い柱だ」


 衛士は星空を隠す黒煙を指さした。


(デカイ家? まさかな…)


 サムスは嫌な予感がしていた。


 黒煙のあがる星空。

 それは貴族街の方角であった。







 ーーしばらく後








 サムスはアルドレア家へ帰ってきた。


「うわ! 離れろ離れろ、崩れるぞ!」


 誰かが叫び、野次馬たちが離れる。


 サムスはひとり呆然と立ち尽くし、燃え盛るアルドレア家の屋敷を見上げていた。


「危ないぞ! おい!」

「わふゥ!」


 まわりから叫ぶ声が聞こえたが、サムスにはそれに反応する余裕がなかった。


(家が、どうして、こんなタイミングで……)


 サムスは記憶の手がかりである″アルドレア家の焼失″に、落胆を隠せなかった。


 そうだ。

 燃えていたのはサムスの家だったのだ。


 崩れ落ちてくる瓦礫が、サムスを襲う。


 まわりの人間は息を呑み、不幸な青年の末路に同情する。


 だが、サムスは皆が悲劇のニュースを求めるなか、期待を裏切り、身体をオーラで身をつつみ込んだ。

 そして軽く腰をおとして、サイボーグの右腕をふりぬいて、瓦礫を吹き飛ばしてしまった。


 あたりに響く悲鳴が、いっきに拍手と感嘆のため息に変わる。


「うっへぇ〜あの兄ちゃんやるなぁ」

「でも、あれってアルドレア家のところの坊ちゃんじゃない? ほら、貴族なのに冒険者をしてる物好きな」

「戦えないって噂だったが、今の身のこなし只者じゃねぇな……」


 皆は口々にサムスを話の種に使った。


「怒りに震えてるって感じか?」

「いいや違うな。見ろよ、あの哀しい背中。可哀想に、家族みんな死んじまったんだ……」


 称賛、憶測、同情。

 おのおの勝手な感想をもらす野次馬たち。


 だが、サムスにはいずれの感情も持ち合わせていなかった。


 別段、怒ることもなく。

 特段、悲しむこともなく。


 あるのは疑問。

 それと、記憶の目覚めだ。


「うぐっ……またか…」


 鋭い頭痛にうめいた。


 サムスは知っていた。


 この″炎の熱さ″を知っていた。

 肺をおかす″黒い煙″を知っていた。

 同情に″ざわめく野次馬″を知っていた。


 サムスは自分が過去に巨大な火災を経験してると気づいた。


 だが、どこで?

 19年間、アルドレア家で過ごした過去には、それほどぶっそうな局面はない。


(いや、そもそも、チタン村を故郷とする記憶と、アルドレア家を実家として今日まで生きてきた記憶は相反している)


 サムスは考える。


 自分は本当にアルドレア家の人間だったのか、と。


「……」


 


 ーーその後、火事は、火消したちの働きにより無事消化されていった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ーー翌朝



 サムスは朝早くに泊まった宿屋を出て、昨晩に燃え尽きたアルドレア家へやってきていた。


 結局、アルドレア家は全焼。

 出火原因は不明。

 なかにいたと思われるアルドレアの人間は、サムスを残してみんな死んでしまった。


 現場には朝の涼しさとは裏腹に、いまだに焦げ臭さがくすぶっている。


「うっ、またか……」


 またしても、鋭い頭痛がサムスを襲った。


 燃え尽きた建物を知っている。

 すべてが無くなった後の虚しさを覚えている。


(いつだったか、こうして寂しい朝に、喪失した過去を嘆いて、したことがあったはずだ)


「わふゥ」

「ん、そこに何かあるのか、ルゥ」


 燃え尽きたアルドレア家の瓦礫のなかへ、ルゥが走っていく。


 サムスは彼の後を追いかけた。


 ルゥは埋もれた瓦礫の下を必死に示して「わふゥ! わふゥ!」と吠えた。


 サムスは何かあるのかと思い、瓦礫をどかして掘っていく。


「これは……」


 サムスは扉を見つけた。

 地下へと通ずる扉だ。


 扉には、とても奇妙な印が描かれている。


 扉をあけると、地下へと降りれる階段が現れる。


「わふゥ」

「行ってみるか」


 サムスとルゥは階段を降りていった。


 階段のしたには、これまた珍妙な光景が広がっていた。


 複数のモニターが置かれ、人間の腕を模した機械的なパーツが天井から何十とぶら下がっている。


 壁も床も、ツヤツヤとした電子的な光を放っており、到底これらがこの世界の科学で造られたものだとは考えられなかった。


「別世界の技術が、どうしてこんなところに?」

「わふゥ」


 サムスはアルドレア家が別世界の人間と何か繋がりがあった貴族なのだと推測する。


 別世界とこの世界の戦争が終結して、まだ3年しか経っていない。


 貴族家のなかには、彼らの文化や科学を積極的にとりいれて、家の繁栄をしたたかに目論む者もいると言われている。


 サムスは警戒しながら、まったく警戒せずに進むルゥの背中を追いかける。


「わふゥ!」

「なんだ、これは?」


 ルゥがまたしても何か見つけた。


 そこは4メートル四方の小さな部屋だった。


 部屋の真ん中には、何やら台座が置かれている。

 それは、噂で聞いたことのある、別世界の科学によって作られた全自動手術を可能にする装置に見えた。


 ーープォン


「ッ」


 部屋に足を踏み入れると、不思議な重低音が聞こえた。


 サムスはルゥを引き戻し、身構える。


 そのうち、声が勝手に地下室に響きはじめた。


《あーあー、この部屋に足を踏み入れた君へ》


 透き通るほどクリアな声が喋った。

 まるで隣にいるかのようにな高品質の音だ。


 サムスはこの声が、ダンジョンの底で聞こえた、あの謎の声と同じなことに気がついていた。


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