死神の存在意義を問われる話

「えっ、まさか……」


 ないんですか、必殺技。とまでは風魔も言わなかったが、ドロは力なくコクリと頷いた。


「おい、おい、ちょっと待て!」夜多郎は驚きに目を見開いて早口でしゃべった。

「そいじゃ、お前は死神として一体どんな仕事をしているってぇんだ?! 生きてる人間を×ピーしてこっちの世界に引っ立てて来てるんじゃねぇのか??」


 ドロはもじもじしていた。


「……死神の仕事は、……多分、皆さんの、考えていらっしゃることとは……違います……」

「違うって、どんな風に?」

「私は……病気であれ、事故であれ……寿命を迎えた人間に、『〇日にあなた、死にますよ……』と伝える、そ、それだけです……。誰かを×ピーすとか、そんなことはしないし、出来、ません……。また、こちらの世界まで案内するわけでも、ありません……。ただ、死ぬと決まった人間に……告知をしに行く……それが、私の仕事です……」

「じゃあ、どうしてそんなデカい鎌なんぞ持ってるんだ」

「これは、飾りです……。閻魔陛下が、『何か持たないと格好がつかないな』と仰ったもので……」

「はあ……」

「何にも……役に立たないのに、これは重いので、肩が凝って……困ります……」

「なんか可哀そうだなぁ、ドロさんは」


 死神の余命宣告なんて、いったい何の意味があるというのか。

 人間からすると、ただただ迷惑な話である。


「そんな仕事を作って、何をやっているんだ閻魔大王は」

「意味ないし、ひどい。ホントに」

「自分の恐ろしさを間接的に人間へ伝えようとしているのさ。閻魔大王あのひとのやりそうなことだ」


 風魔と夜多郎と十時とモジャラは眉をひそめた。


 ……とはいえ困ったことである。

 一芝居打とうにも、ヒーローが格好よく決まらないのなら、大ゴケ確定である。


「ドロに必殺技が無いってぇと、どうするんだ」

「……やっぱり、誰かにモンスター役をやってもらおうか」

「えー、それじゃあ、やらせ感が……」

「いやいや待て待て待て待て!!」


 ところが、十時の瞳だけは異様にキラキラしている。

ヨダレを垂らさんばかりの顔で、十時は三人の会話に割って入った。


「全部俺に任せてくれ! 要は、ドロさんがしっかりモンスターをコントロール出来れば良いんだろ?」

「まぁね、それさえ出来れば良い話だけど」

「大丈夫、大丈夫! 雪ちゃんには絶対にバレないように、そこそこ怖~いモンスターを作ってみせる! ドロさん、俺を信じてね!」


 異常な勢いで十時は言い切ると、荷物で山積みのカウンター席へ息を切らしながら戻っていった。


「おい、マジかよあいつ……」


 その姿を見送って、夜多郎は感嘆のため息をついた。


「……十時ってスゲェな、何なんだろうな。もうさ、アレだろ、あいつに任せれば全部解決するんだろ。あ、でもそうすっとアレか、風魔が主人公じゃなくなっちまうか」


 風魔とモジャラは怪訝な顔をした。


「は? 十時が主人公じゃなかったのかい?」

「えっ、オイラが主人公じゃなかったの?」

「二人して、何言ってんだよ」


 一方ドロは、まだよく分からない、という顔をしていた。


「……あの……私は結局、あの……」

「心配しなくていい、ドロさん。十時が何を作るかは僕にも分からないけど……。彼はマシュラじゃないから、何とかしてくれるよ」

「そうだな、作戦の細かいところは、モンスターが完成してからまた話し合おうぜ」

「そうそう! オイラたち、全力でドロさんをサポートするからさ、安心してよ」


 三人はドロを慰めた。


「あ……ハイ、ありがとうございます……」



 やがて会合はお開きになった。

 風魔たちが店を出るころ、東の空はやや白んでいて、かわうそがバタバタと看板を下ろそうとしていた。


「ね~え、十時ぃ~!! もう今日はおしまいだからさぁ! それを早く片付けてよぉ~!」

「えっ、ちょっと待って! 今、大事な所で……」

「そんなぁ! ダメだよ十時ぃ~!」

「まだ手が離せないのお!!」


 十時とかわうそのやり取りは、それから完全に日が昇ってしまう時まで続いていた。

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