ろくろっ首の夜多郎

「風魔、どうするよ?」

「泣かせるつもりはなかったんだけどね」


 風魔とモジャラは、すっかり”か弱い女の子をいじめる悪い男たち”の役回りである。

 

 かわうそは男の子だけど。


 なおもしゃくり上げるかわうそをいい加減になだめて、風魔たちはようやく注文をした。


「えっと……。腐り卵のたまごやきに、髪の毛焼きそばを五つずつ、それからナメクジの唐揚げ定食六つと、魂の天ぷらを五皿でいいの? あの……ちょっと多すぎない? お腹壊すよ?」

「どうして。大した量じゃないよ」


 風魔は澄ました顔である。

モジャラは開いた口が塞がらずに顎がテーブルにくっ付いていた。


「それで頼むよ、かわうそ。」

「う、うん……。」


 かわうそはちょっと心配そうな顔をしつつ、厨房に消えていった。


「おい、そんなに本当に食べられるのかよ?」


 モジャラがなにやら恐ろしげに言った。


「食べられるよ。暑さのお陰でここ一週間はほとんど何も食べていなかったし」

「そりゃそうだけどさ、おいらは定食一つ分しか食べられないからな! 風魔、残さないでくれよ!」

食べられる量しか頼んでいませんのでご心配なく」


 風魔は冷たく言い放った。

 モジャラは自分の分が注文されていないと言うことを知らされて、もう一度かわうそを呼び戻す羽目になった。



 ようよう落ち着いて、茶などを飲んでいると、不意に「ヨォ! 風魔とモジャラじゃねえか!」と二人の頭上から声が降った。


「やあ、夜多郎やたろうじゃないか」


 薄暗い店内に灯る人魂ライトと一緒にゆらゆらと、ニヤニヤと笑うろくろっ首の夜多郎の顔が揺れていた。


 彼はあやかし村では結構名の知れた妖怪である。

 それは、彼の「困っている者を見ると助けずにはいられない」という心優しいところであったり、陽気などら声であったり、……これはちょっと悲しいことであるが、ろくろっ首にしては首の長さが普通よりも二、三メートルは短い、ということがあるからだ。


 しかし、首のことは「妖怪ひと知れず悩んでいるのだろう」と噂されるものの、実際に悩んでいるようなそぶりは微塵もない。


 根っからの楽天主義なのだろうか。

 とにかく、愛すべき妖怪柄ひとがらなのである。



「かわうそのカレーは頼んだか? あれは、うまいぞ!」


 空中に顔が浮かぶそのままの状態で、夜多郎が聞いてくる。


「いや、今回は別のにしたよ……。そういえば、この蒸し暑いのにかわうその料理が全部熱々なのは、君の差し金らしいじゃないか」

「ややっ、お前たちはあれが気に入らないのか?」

「気に入らないねぇ、熱いのはもう十分だってのに」

「むむ、そうかよ……?」


 夜多郎は、理解できぬ、というように眉を寄せた。


「夏は暑くて皆ダレるだろ、そういう時こそ“身の内に熱い火を”と思ったんだが……」


 そうこうしているうちに、卵焼きや定食が運ばれて来たが、三人の会話は止まらなかった。

 ただ、その間も夜多郎の首は宙にあるままなので、とうとう風魔がそれを見かねて言った。


「夜多郎、どうせ話し込むならこっちの席に移った方がよくないかい?」

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